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訓練学校から出発

 終業式当日。

 全校生徒を講堂に集めて、学長が意味の無い長ったらしい事を話す事も無い。夏休み中に訓練学校が存在する島から出る事は出来無いが、注意事項は存在する。教室で担任の教官から口頭で注意事項を聞き、各自でメモを取る。授業は無く、午前十時半には解散となる。

 夏休みの課題は無いが、再々追試で合格点を取れなかった生徒には補習が待っている。

 自分はツクヨミに行くので、皆と同じ夏休みを過ごす事は無い。

 ちなみに出発は十四時で、一人で行く。専用の飛行機でも片道五時間掛かるので、時間潰しも考える必要が有る。


 軌道衛星基地に向かうのに、飛行機で行けるのかと思うだろう。

 技術が西暦二千年代に比べて非常に進歩した現代では、重力制御機なんてものが存在する。これを搭載した『宇宙船に近い飛行機』を作り上げた事で、ほぼ宇宙と言える高度への飛翔を可能とした。専用機を必要とするとは言え、技術の進歩は凄い。

 軌道衛星基地は、SF創作系の漫画・アニメ・小説・ラノベでよく見かける形の『軌道エレベーター』の先に増設された軍事基地だ。どこを基点に建設されたかは知らないけど。


 そんなところへ行くんだけど、正直に言って気が乗らない。

 平均的に見えるように手を抜いていたのに、どうしてこうなった? 

 モブでいたいんだけど。って言うか、モブで十分だよ!

 選抜クラスとか、嫌なんだけど!? 絶対に、無茶振りされる未来しか見えん。

 出発当日になっているから、今更どうにも出来ないんだけどね。支部長が決めたっぽいから、どうにもならん。

 荷物の確認をし、ちょっと早めの昼食(大盛りザル蕎麦と天ぷらのセット)を取る。寮の個室には冷蔵庫が存在する。中身は宝物庫の自前の冷蔵庫に入れちゃったから問題無い。その他に持って行きたいけど見つかると没収されそうなものは道具入れに入れた。

 私物として持って行くものは、制服と着替え(ジャージ含む)と、パイロットスーツとヘルメット、通信機として支給されたスマホと充電器一式(充電台座と携帯用の両方)、入学してから購入したタブレットとノートパソコンに充電器や鞄(ジャージ持ち運び用)にタオルなどだ。全てデカいボストンバックに全部入れた。余裕が有ったので移動途中に食べる用の飴とペットボトルの飲み物数本、残りの少ない使い掛けの日用品を入れた。流石に洗面用品と入浴用品を没収されないと思う。没収されたら逆に驚くぞ。置いて行く荷物は教科書類だけになった。

 私物は少ない。入学前に事故に遭ったらしく、要処分品と化した私物と一緒に記憶も消えてしまった。

 記憶に関しては、坂月菊理の人格に上書きされちゃったから、問題無い(?)、いや、どうにかなってしまった。

 星崎佳永依としての記憶が無くとも、人型ロボット操縦に関しては経験が在る事が幸いして、成績は良い方だ。日本支部で使われている人型ロボットの戦闘機は、遠い昔、人型機動殻と呼ばれたロボットの操縦経験が大変活躍した。無理言って、操縦方法を教えてくれた父とその部下一同に感謝する日々だ。教え方が滅茶苦茶上手いエースパイロットから、コツを聞き放題の日々だった。唯一の違いは、重力下の大気圏内での戦闘経験しかない事だが、空中戦だと思って演習やシミュレーター授業に臨めばどうにかなった。この場合は、『なってしまった』が正しいかもしれない。

 今のところ、困った事は上級生と同級生(主に女子)に絡まれる以外には無い。絡み方は酷いけど、幸いにも虐めには発展していない。そもそも、名前を憶えていないから訴えようがない。『誰の事?』と言って『名前を憶えていないし、知らない』と言えば、男子絡みで嫌がらせをして来る大抵の女子生徒は呆れた顔で去って行く。それでも、しつこいのはしつこいけどね。

 昼食のザル蕎麦を完食したら、早々に食堂から去り、職員室に行く。他の生徒に捕まらない為でもあるが、間宮教官に聞きたい事が在るのだ。支給品のスマホを録音状態にしてから職員室に入る。人影は疎らだったが、幸いにも間宮教官を捕まえる事が出来たし、室内に訓練生の姿は無い。

「んな事を聞いてどうするんだ? つか、何で俺なんだよ?」

「訓練学校には日本支部の、現場の情報が余り入って来ないからです。間宮教官を選んだのは、間宮教官以降に新しく来た人がいないからです。三年近く前でも、そこそこに新しい現場の情報を持っている人が他に思い付かなかっただけです。紹介して下さるのならそちらに行きます」

「あ~、それを考えると、俺は一人で来たから他にいないのか。んじゃ、しょうがねぇなぁ。一回しか言わねぇから良く聞けよ」

 録音しているから大丈夫です。

 格好をつけて念押しする間宮教官に対してそんな事を思った。

 自分が間宮教官に対して何を尋ねているのかと言うと、日本支部で授業で名を聞く支部長と実質副支部長の一条大将以外で『名前を知っておいた方が良い人』についてだ。授業で名前を聞く機会は無いが、現場目線で知っておいた方が良い人を聞く理由は、絡まれた時や遭遇した時を想定してだ。必要な想定かと思うけど、『悪い意味』で有名人との接触を可能な限り控えたいと思う心は、人の心理だと思う。

 五名の情報を入手したが、素直な感想は『こんな人が本当に存在するのかよ』だ。下手すりゃ名誉棄損レベルの悪口だぞ。

 色々と言いたい事しかないけど、出発時間が迫っている。一先ず礼を言ってから職員室から去る。

 寮に向かい荷物を回収したら、寮監に事情を説明して個室の鍵を預ける。先に教官達から話が行っていたのか、簡単に納得してくれた。寮を出て離着陸場に向かうけど、現在時刻は十三時。再び職員室に向かい、室内にいた学年主任を捕まえて、『ツクヨミで実地訓練をする』と言った内容の命令書を受け取り、その場で必要な書類が揃っている事を確認する。どれ程電子化が進んでいても、この辺のチェックを怠ると痛い目を見るのは千年以上経っても変わらない。

 しかし、来年度の授業内容を決める為に、現時点での習熟具合を見る為に行くのに、何故訓練と言う内容になっているのか。謎だ。謎だが、出発時間が迫っている。簡単に挨拶をして離着陸場にまで走る。履いているのはショートブーツだ。これは男女・正規兵・訓練生、共に同じものを履いている。同じものを採用している理由は知らん。慣れとかそう言うのが目的かも知れない。代わりに上履きは無くなったけど。

「ん?」

 見えて来た離着陸場に野次馬が来ていた。出発の事を誰かに教えた覚えは無い。となると、移動の専用飛行機目当てか? でも、高城教官もいる。近づいて高城教官に声を掛けると、見送りと返された。

『教えないなんて水臭い』、『頑張れよ』などの、高城教官と学年問わずに男子生徒達から激励の言葉を貰い、女子生徒からは代表者より、巻物じみた筒状のものを渡された。記憶が正しければ、高等部三年生女子のボス格の生徒だった筈。

「署名の紙よ。セクハラしないマトモな教官と女性教官を求める署名。のべ、数十年分の女子達の思いが籠っているわ。お偉いさんに会う機会があったら渡してちょうだい。無理だったら返しなさい」

 巻物は見た目の割に、二重の意味でずっしりと重い。巻物をボストンバックに詰めてから、専用飛行機に乗り込む。野次馬が見える位置に座り、窓越しに手を振る。

 飛行機が飛び立ち、見えなくなるまで、ずっと野次馬の面々、訓練学校を見続けた。

「戻れるといいなぁ」

 色々と()ったけど、色々と学べるから学校は良いね。

 これからの事を思い、そんな事を思った。


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