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夏休みの予定が確定した

 七月十四日。

 期末試験を無難にやり過ごし、終業式まで残り一週間程度となった週末の土曜日。期末試験で赤点を取り、追試対象者となった生徒達に乞われて、空きの教室にてただいま勉強会中。休校日だけど、明日一斉に追試試験を行う。今日はその最後の追い込み日だ。この追試を落とすと、夏休み期間に突入しても林間学校が始まるまでの補習を受ける事になる。故に、全員必死の形相で勉強している。言ってはいけない事だが、期末試験の基礎科目の平均は七十九点と高かった。そのせいで、大体八十点程度になるように点数調整していたのに、今回の基礎科目の自分の平均は九十五点を超してしまった。英語は保有している技能の効果も在り、百点だった。

 ペットボトルの炭酸ジュースを飲みながら、勉強している自分以外の生徒を見て思う。

 ……殆ど、男子なんだよね。

 恐ろしい事に、他学年の生徒も混じっている。他学年の生徒には、高等部の生徒も含まれる。ちなみに、高等部の生徒に教えているのは英語だ。男女混合の下級生は、不明点が解ると早々に去って行く。最上級生を含む高等部の生徒が何人もいたら緊張するか。

 子守り気分で上級生に英語を教えている自分とは感覚の違いが在るんだろうな。一年の頃からやっていたから慣れてしまったのかもしれないが。

 なお、ここには同学年以上の女子生徒はいない。下級生以外の女子生徒からは、非常に嫌われている。単独行動も嫌がらせも慣れているから、気にしていない。『芋女の分際で!』と罵って来る女子は多いが、自分から男子に近づいた覚えは無い。全員、話し掛けて来るから対応しているだけだ。それ以前に名前すら知らない。皆聞いても名乗ってくれない。名札が無いと不便だねー、名前が判明しないから。そして、『先輩』と言う単語のありがたみを感じる。名前を知らなくくても、先輩と呼べば意思疎通が可能なんだもん。

 それでも、女子寮内でだったらたまに聞いて来る事は在るが、男子がいる場所では一度も無い。今更男子の目を気にしても意味無いと思うけどね。

 教えていると、時々、自分の英語の成績を知る教官が『英文翻訳手伝ってくれ』と書類片手にやって来る。西暦三千百年代の現在、英語は一種の国際公用語扱いされており、防衛軍の公用語にもなっている。支部を越えた移籍は殆ど起きていないが、十年に一度の頻度で起きる。

「これまでの人生と士官学校で、一体何を学んで来たのですか?」

「辛辣だな!」

「プライドが有るのなら自力でやって下さい」

 毎回と言っていい程に、このやり取りをして追い返している。いい加減覚えて欲しい。その筆頭は間宮教官なんだけどね。

 集中してあれこれ教えていれば、時間はあっと言う間に過ぎた。

 日が傾いて幾分涼しくなった夕方。ジョギングを終えて、寮へ帰る途中に高城教官に呼ばれた。

 何事かと思えば、来年の選抜クラスで行う授業内容についてだった。

 十年振りと時間が経過し過ぎている事から、実際にどの程度出来るのか見てから決める事になった。それも、軌道衛星基地で、夏休み一杯。

「授業内容を決めるだけで、大事過ぎませんか?」

「そう言うな。支部長に相談した結果、決まった事だ。代わりに、今年の林間学校は免除となる」

「ツクヨミで林間学校以上の内容が待っていない事を期待するしかないんですね」

 自分で言って何だが、可能性は低いだろう。そして、他の生徒に知られたら面倒だ。

 憂鬱な未来を思い浮かべて、ため息を吐きたくなった。



 翌日の追試が終わり、夏休みまで最後の五日間となったけど、自分はツクヨミに移動する為の準備に追われていた。そうそう、自分が勉強を教えた、追試対象者の生徒達は全員合格点を取った。皆、泣いて喜んでいた。再追試となった一部の女子生徒は泣いていたが。

 そんな日の放課後。

「なんでなのよぉっ!」

 高等部の女子生徒がシミュレーターに八つ当たりをする。自分は何もしていない。対戦を申し込まれ、受けて勝っただけだ。

「何なの何なの何なの何なの何なの何なの何なの何なの何なの、ああ、もう、きぃいいいいっ!?」

 敗北した先輩女子が、猿のような声を上げながら発狂している。ついでに、シミュレーターを蹴っている。それに気付いた監督の教官が声を上げた。

「シミュレーターに八つ当たりをするな!」

「うぐっ、はい、すみません」

 大音量の一喝を受けて、先輩女子は正気に戻り縮こまった。その後、反省文と言う名の始末書の提出を大至急要求されて、先輩女子は反省文を書く為にシミュレーター室から大慌てで去った。

 終わりと見做して立ち上がるも、別の男子生徒から対戦を申し込まれた。その後ろには列が出来ている。

 全員相手にしたら、何十分掛かるんだ? この人数だと。

 困って教官を見ると、『受けてやれ』と言わんばかりに頭を振られた。

 結局、放課後は対戦で潰れた。


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