武器を取りに一度戻る~松永視点~
ナスタチウムを全速力で飛ばし、松永はツクヨミへ戻った。
戻る直前に武装交換と補給を依頼したので、ナスタチウムの武装交換と補給自体はスムーズに行われた。
だが、ガーベラの武装と補給物資を用意するには、時間が掛かる。特に補給物資――携行用燃料補給機の調整には時間が掛かった。
これがナスタチウムかキンレンカだったら、七十パーセントで充電が維持されている燃料補給機を満タンにして持ち出せば済む。
けれども、ガーベラは三十年も前に開発された機体だ。現在使用されている機体とは微妙に違う点が多く、充電の他に調整が必要となる。
ここで松永はとある疑問を抱いた。
……何故、ガーベラに搭載されている装置類は三十年前のままなんだ?
十年前、松永はガーベラのテストパイロットに立候補した。
そして実際にガーベラを操縦して負傷したあの時、何故松永はこの疑問を抱かなかったのか。
「いや、今になって疑問を抱いても仕方が無い」
松永は抱いた疑問を頭を振り、思考から無理矢理追い出した。待ち時間を利用して司令室と通信を繋ぎ、松永はガーベラの戦況を尋ねた。
現在、ガーベラは『合計』で四機目と戦闘を行っていた。
合計が付いた事に疑問を抱いた松永は司令室に詳細を尋ねた。
一機撃墜したあとにやって来た、追加の三機の内の二機は撃墜。現在残りの一機と戦闘を行っている。応援は到着している。現在、佐藤大佐が狙撃による支援を行っている。
応援が到着した事を知り、松永は胸を撫で下ろした。
星崎が一人で戦っていない事は喜ばしい。
けれど、司令室に問い合わせをしないで、星崎をツクヨミへ連れ戻せば――たった一人で戦わせる事も無かっただろう。
松永は己の判断ミスを悔いた。
だがあの時、すぐにツクヨミへ向かっても、新型機を相手に逃げ切れたかどうか怪しい。
数年前に出現したあの新型機は、これまでのどの敵機よりも速い。不謹慎だが、ガーベラが最大速度で飛翔した時の速度と比べてみたいと思う程に速い。
松永はガーベラの戦闘について司令室に何度も問い合わせて戦況を確認しつつ、燃料補給機の調整が終わるのを待った。
『松永大佐。佐久間だ。ガーベラが合計六機目を撃破した』
「佐久間支部長? ……事実ですか?」
意外な人物の登場に松永は驚いた。けれど、相手は日本支部長だ。司令室にいてもおかしくは無い。思考を切り替えた松永は佐久間支部長の発言内容について確認を取った。
『事実だ。佐藤大佐の支援のお陰かもしれないが、順調に敵機を撃墜している』
「そうですか」
喜ばしい結果として受け入れるべきか。それとも、訓練生を下がらせる事が出来ていないと嘆くべきか。松永には判断出来なかった。
通信機より、佐久間支部長が誰かから報告を受け取とり、息を呑んだ音が聞こえた。
『――松永大佐。悪い知らせだ。指揮官機らしき銀色の機体がガーベラの許へ向かっている』
「事実ですか? 今のガーベラは補給が必要なんですよっ!」
文字通りの悪い知らせを聞き、松永は反射的に叫んでいた。
だが、佐久間支部長より返って来た声は冷たかった。
『そうか。丁度、応援で佐々木中佐と井上中佐が指揮する部隊が向かっている。こちらから連絡を入れて、補給の時間を作るしかないな』
「佐久間支部長」
『状況が状況だ。今ガーベラを下がらせる訳にはいかん』
佐久間支部長の決定を聞き、松永は無意識に歯軋り音を零した。
そんな松永の意見は聞かないと言わんばかりに、通信も切れてしまった。
松永に出来る事は、作業の終わりを待つ事と、星崎の無事を祈る事だけだった。
松永が再び出撃したのは、通信終了から更に十分後の事だった。格納庫に戻ってから二十分が経過した事になる。
これだけの時間が経過していれば、戦闘空域の位置もツクヨミから大分遠のいていた。
松永は司令室に連絡を入れて、ガーベラがいる戦闘空域にまで誘導して貰うが、移動に掛かる時間は十分を超える。
佐藤大佐の支援を受けているとしても、流石に十分を超す戦闘時間は長い。
司令室経由で補給物資を持って向かっている事を佐藤大佐に連絡し、松永はナスタチウムで出せる限りの速度で移動した。