その5 半透明の少女
この話から主要なキャラクターが登場します。
是非最後までお付き合いください。
何とか自分の最寄り駅につき、疲れと酔いと久方ぶりの女性に対する欲望に悩まされた体を、古めとはいえオートロック機構のマンションに住む先輩の家とは雲泥の差がある自分のアパートまで引き摺っていた。
アパートに続く最大の苦行、歩道橋を登り切った時だった。
そこの歩道橋の柵に腰かけて俺を見ているモノに気付いた。
柵に腰かけているのは、少女?にしては何か異様。
肩までの少し薄めの黒色の髪に透けるような肌。
年齢的には中学生くらいだろうか?
膝が少し出るくらいの赤いフレアスカートに、長袖の白いブラウスのボタンの両サイドに可愛らしいフリルがついている。
髪の毛のサイドが括られて黒いリボンが印象的だ。
まるで喪章のように…。
そして、どこか見覚えのある幼い顔。
いや、そんなことはどうでもいい。
もうすぐ日が変わろうとする時間に、中学生が歩道橋の柵に腰かけて、足をぶらつかせてる、という事もこの際おいておこう。
異様なのはその両手で抱きしめるように持っている、大きな鎌。
そう、それはよく死神や悪魔が出てくる漫画や、ラノベのイラストの描かれている長い柄と半円状に出ている片刃の鎌、ディスサイズってやつ。
そう言えばもう10月も半ばを過ぎているから、ハロウィンの仮装があっても不思議じゃないな。
そんなことも考えていたんだが、強烈に異常な違和感を覚えた。
思わずその少女を凝視してしまった。
その少女の決定的な違和感の正体が分かった。
本来なら少女の身体で見えないはずの、歩道橋の向こうに立っているビルの看板が見えている。
そう、透けるような白い肌、なのではなく……。
少女の身体が透けてその先のビルが見えているのだ!
俺は思わず、自分の目をゴシゴシと両手でこすって見直した。
少女は変わらず、その身体より大きいディスサイズを抱えて歩道橋の柵に座り俺を見ている。
後ろのビルの看板の灯りを透かしながら。
これはおそらく、俺が酔いすぎてみている幻覚なのだろう。
その証拠に、その見覚えがある少女の顔を思い出していた。
中学2年と3年の1学期まで同じクラスだった、米川稀色という名前だった。
当時はそれほど印象的ではなかったが、2年生の時より3年生に上がった時にえらく暗くなった印象がある。
2年の時はそこそこ明るい活発な女の子だったと覚えていた。
3年の1学期の終わりにどうも転校していたようで、夏休み明けに姿がなくなっていた。
似ているのもそうなのだが、中学3年の時の暗く希望のない横顔がやけに頭にこびりついていて、今目の前にいる半透明の少女に雰囲気が似ていた、という印象が被ったためだろう。
だが、そんなことはどうでもよかった。
まず、今、目の前のこの現象。俺はどう対処したら…?
どうもこうもないな、こりゃ。
きっと酔っ払い過ぎて、急に昔の、なんか、後悔みたいな思い出が、幻覚を見せてんだ、うん。
米川さん、確かみんなからはヨネちゃんって言われてた子のその後は、あまりいい噂は聞こえてこなかった。
もしかしたら一家心中とか…。
えっ、一家心中?
ってことは、今ここにいる半透明少女って……、いわゆる……、ゆ、幽霊、さん……?
いや、そんなことはない、ある筈がない。
そう、そう。
俺には、そんな、霊感、なんて、見えない、はず……。
俺は頭を振りながら、その幻影の少女の脇を通り抜けようとした。
「ちょっと、お兄さん。見えてるんでしょう?無視しないでよ。」
「へえっ!」
俺の口から変な声が出た。
「失礼ね。見たところ、普通に社会人だよね。ヒトに声掛けられて、そんな変な声出しちゃってさあ。まるで幽霊でも見た感じじゃない?」
「あ、いや、確かに、社会人なんですけど…。俺、今かなり酔ってるんで、あんま、声掛けられるなんて……。って言うか、幽霊ではない?」
そんな、向こうの看板が透けて見える体して?
幽霊ではないの……。
ああ、そうか、幻覚見て、しかも俺の脳が勝手に作り出しちゃってるってやつ。
他に人はいないから、まあ大丈夫だと思うけど、危ない独り言、言っちゃてるのか、俺?
「そうだよ、お兄さん?あれ、おじさんか?」
「いや、お兄さん、だと思うよ、まだ……。君、幽霊じゃないっていうけど、その体……。それにさっき見えてるんでしょうって言い方。普通は見えないものを見た時みたいだよね、それって。」
ああ、また俺は変な独り言、喋ってる!
いくら酔っ払いとはいえ。
「そうだよ、普通は私を見る事なんかできないはずなの。ある特殊な人じゃないとね‼」
「それは霊能者ってこと、俺が?」
「今までそんなことあったの、お兄さん。霊をよく見るとか。」
「い、いや、今まで一度もない、と思います。」
「なんで急に敬語?」
そう言って半透明の少女が歩道橋の柵から飛び降りた。
フレアスカートがふわりと広がり、細い太ももが露になる。
でもやっぱり、向こう側が透けて見えている。
ん、幽霊の服って空気の抵抗とか受けるのだろうか?
「ああ、お兄さんのエッチ!今、スカートの中覗こうとした!」
「えっ、そんなことしてないって。」
俺は幻覚相手に、何を慌てているのだろうか?
そうは言っても覗きの冤罪をかけられてはたまらない。
「完全に鼻の下伸ばして、私の下半身に視線送ってたもん!私、感じたんだからね、その視線‼」
「揶揄うのはそれくらいにしておけ、レイ。」
いきなり、少女でない声が聞こえた。
何、誰かいたのか?
今の状況、俺、まずいんじゃないか?
冤罪で警察行き?
ちょっと待て、どういって、無実を証明……。
そうじゃない、よく考えろ、落ち着け、俺!
その声は、俺もそうだが、明らかにこの少女が見えてるってことだろう?
しかもレイって、名前、それとも幽霊という事で?
「お前も、いくら酔っぱらってるからって、挙動が不審すぎるぞ、清元雅弘。」
なんで、なんで俺の名前知ってるの?
というか何処にいるんだ、この声の主。
俺は自分の周りを見渡すが、人影は半透明の少女だけ。
少女がそっと俺の足元を指さした。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
もし、この作品を気に入っていただけましたら、ブックマークをお願いします。作者の書いていこうという気持ちを高めるのに、非常に効果的です。よろしくお願いします。
またいい点、悪い点を感じたところがあれば、是非是非感想をお願いします。
この作品が、少しでも皆様の心に残ることを、切に希望していおります。
よろしければ、次回も呼んでいただけると嬉しいです。