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死神ヨーキー  作者: 新竹芳
第3話 よみがえり
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その5 興信所、再開

 チャチャまるのキャンキャンと吠える声に、少し辟易としてきた。


「ああ、わかったよ、チャチャまる。いい加減、この体動かして、リハビリしないとな。」


 本当に腹が立つほど、この体は重い。

 決して体重があるわけではないが、26歳の感覚に、不摂生の末、心臓発作で倒れるような40歳の身体は、責め苦としか思えない。


 まずこの部屋を綺麗にしたのち、必要なものの買い出しと、この「橋網興信所」の仕事を再開せねばならない。

 今は俺の金があるとはいえ、稼がなければじり貧なのは目に見えている状況なのだ。

 だが、所長の入院も長期になっているようだ。

 所長自身が高齢で、この大倉よりもひどい体なのだろう。

 所長がいないこの「橋網興信所」は、信用という点で、完全に詰んでいる。


 何とか相沢という女性との接点を生かして、警察のおこぼれにあやかるしかないのだろうか?


(それはあんまり期待しない方がいい。それが円滑にいってれば、こんな状況に放っていない。あいつは、お節介で優しい女だが、規則を遵守する。警察が表に出ないような情報が欲しい時に、2度ほど力を貸したが、雀の涙ほどの寸志だったよ)


 大倉が昔を懐かしむような口調で俺に語り掛けてきた。

 早い話が、相沢真咲に迷惑をかけるなと言いたいらしい。

 となると、基本はチラシの作成、ポスティングかな。

 人探しと素行調査の依頼を請け負うのが一般的なのだろう。


 俺自身が関わらなかったが、人事部では、特に入社対象者に対して、その身辺調査はしていた。

 警察や自衛隊は特に厳しいという話だが、公務員も雇う前に回避できるトラブルは避けたいところだろうからな。


 とにもかくにも、この部屋を掃除しなければ、依頼者を迎い入れることもできない。


 チャチャまるが掃除を手伝える訳もなく、俺は一人1日を費やして、この事務所を最低限みられる程度にしたのだった。




 本当にこの体は疲労が蓄積されている。

 というか、呼吸がうまくいかない。


 部屋の汚れは確かにひどいが、それ以上に体が動かない。

 心筋梗塞からの復帰で、体に対するダメージが大きいということもある。

 あるのだが、タバコの吸いすぎと思われる肺活量の低下と筋肉の劣化、それに伴う関節の駆動域の低下が、俺自身の描く動きのイメージと乖離していた。


 かなりの負担を伴い、片付けの終わった部屋を見て、ソファに倒れるように座った。

 なんとか心臓は生きている。


「床が見えるようになったな、マサヒロ。」


 呑気なヨーキーが言った。

 既に俺が交通事故に遭ってから2ヶ月はたっている。


 俺が持ち込んだ現金は、それなりに減っている。

 大倉は国民健康保険だった。

 2週間の入院生活の請求金額を払おうとしたが、大倉個人の銀行の残高は3桁ほど。

 クレジットカードは全て使用不可ときたもんだ。


 結局、相沢真咲に立て替えてもらった。

 そして、未だその返済ができていない。

 というのも、高額医療に対する返済申請をしていないため、早急にして、振り込みを確認した後に相澤さんに返すということになっている。

 こちらの懐事情をよく理解している慈悲深い女性だった。


 本当にこんないい女性に対して、この大倉という男は何をしたのだろうか?




 自分の持ってきたバッグの中の現金。

 これだけが唯一俺の財産だ。

 そして、この現金の存在を他人に知られるわけにはいかない。

 特に警察官僚の相澤さんには、絶対に知られるわけにはいかない。


 これがいくら自分の金だと言っても、今の大倉修二という人物が持っているわけがないのだ。


 この現金の入手手段が問題になるのは目に見えている。

 しかも、清元雅弘の金とはいえ、入手が窃盗まがいなのだ。


 異常な呼吸困難を堪えて、自分のアパートの隠してあった鍵を使い室内に入り、数秒で目的の鞄を取り、鍵をかけて戻ってきた。

 当然手袋をして、靴をビニールで覆い、速やかに目的物を回収した。

 自分のアパートには防犯カメラはない。

 それは以前から知っていた。

 それが生活する身には一抹の不安があったが、今回の件では幸運だった。


 どうやら自分の交通事故死ののちに、一応の住宅の調査があったらしい。

 これは雑談として入院中に相澤さんから聞いていた。

 ただの交通事故の事後処理で、家族立ち会いの上での確認というおざなりのものだったということだ。

 だが、気になる情報があった。

 俺の金の流れだ。

 死亡する数日前に銀行の貯金が全て下ろされていた。

 確か俺はその理由を「結婚資金」と言ってたはずだ。

 その後すぐに死亡。


 1番の問題が、その現金が見当たらないこと。

 そこまで警察も暇ではないとはいえ、どうやら結婚詐欺の可能性を疑っているらしい。

 内心笑ってしまった。


 とは言っても、家族に悪いことをしてしまった、という思いが出た。

 俺が死んで、しかも貯めていた金が消えた。

 事件に巻き込まれているのではないかと心配事を増やしてしまったことだろう。


 親が思っている事件とは別に、確かに俺は自分の死が何かしらの事件に巻き込まれていると確信していた。

 俺を殺した轢き逃げ犯は捕まっていない。

 俺を殺した狂気とも言える車両は、その日のうちに発見された。

 盗難車だった。

 運が悪かったのか、それとも…。


 今は考えても仕方のないことだな、うん。


 まずはこの腐ってるPCとプリンターの廃棄と、手持ちのノートパソコンの重要データーをSDカードにでも移してしまって、と。

 どっちみち光回線と複合プリンターを手に入れないとな。


 仕事の依頼の広告は、さて、どうしよう。

 デザインだけなら俺でも…だめだ。

 俺のセンスは破綻してる。


 Webで、適当な業者を探そう。


(興信所の仕事に必要な人脈、所長のコネあるから、適度に連絡を取っておくことを勧めるぜ)


 大倉の思考がそう俺に話しかけてきた。


 埃をかぶっているファイルケースを調べてみると、数社のデザイン会社の名刺が出てきた。


(このコマーシャルアートって会社は、所長が社員の素行調査やって、横領を見つけたって経緯があるから、連絡してみろよ)


 大倉の忠告を受け入れて、この会社に連絡をつけた。

 格安で広告を紙媒体としての制作と、興信所としてのホームページの制作、ペット関係での捜索を謳ったバナーを、ペット動画を主に投稿するSNSに依頼してもらった。

 チラシとしての広告のデザインとホームページのデザインは格安だったが、SNS絡みは思ったより金額が高くて、1週間を期限とした。


 なんとか素行調査とペット捜索の仕事が来るようになった。


 といっても素行調査に関しては俺自身は素人。

 大倉のアドバイス頼りだった。

 最終的には大倉の人脈で、過去に何度か協力したことのある興信所との連携で、なんとか依頼をこなせるという状況。

 実入の割に苦労した。

 これに比べると意外というか、当然というか、ペット捜索が結構な稼ぎになった。

 最も死神であるチャチャまるの能力に完全に依存した結果だが。


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