その3 ディスサイズの少女、レイ
「半分生きている」少女、レイ、通称「ヨネちゃん」、誕生のお話です。
可愛らしいヨークシャテリアの姿をした死神が、語り出した。
その頃の私は、こんな愛らしい姿ではなく、普通に人間の姿をしておった。
驚くな、清元雅弘。
ついでに聞き耳を立てている大倉も。
この姿でディスサイズを持って動くには、ちょっと不都合でな。
わかっておるわい。
今はレイがその仕事をしてくれるから鼻の利く犬の姿になっておるんだ。
彼女の魂に会ったのは、10年位前だ。
その時に苦悶の呻きを聞いた。
それは人が発するというよりも、魂の叫びに近い。
生きたい。
死にたくない、と。
その体は既に脳死に近い状態だ。
その場面は、死神を長年やってきた私でも、目を逸らしたくなる光景だった。
これでも人が人を殺す場面は、幾度となく見てきた。
それが憎しみにかられたものも、ただの遊びで残虐行為をするものも見てきた。
自分の悦楽のために人を陥れて、自害に陥れた者もいる。
私の倫理観はお主たち人間とは根本的に違う。
あくまでもその魂を見てきた。
レイの最後の瞬間は、愛する両親の手で殺められたのだ。
無理心中という奴は本当にたちが悪い。
死にたいなら、自分たちだけで死ねばいい。
確かに残された小さな子供や、知的障害や肉体的な障害を持つ子供の行く末を心配する気持ち、その魂の震えは理解できんこともない。
だが、100年ほど昔の世界ならいざ知らず、今は名目だけかもしれんが、そう言う子供たちに救いの手がない訳ではない。
話がそれた。
その時の私はここから少し北の地域の管轄だった。
山岳パトロールに従事していた青年が、不幸にも滑落し、魂が抜けた直後だった。
私は適当な体を求めていたので、ちょうどよかった。
体の各所が酷いけがであったが、ある程度は私の力で修復し、不自然に見えない程度の怪我でこの青年の仲間に発見されるようにした。
その際、記憶がなくなったことにしてな。
そうして得た体を使い、山岳地帯や、その近辺を探索するようになった。
そこで巡り合ったのがレイとその両親だ。
魂の悲鳴を感じ取って、懸命にその場に向かった。
その魂は、愛していた両親が自分を殺したことに、絶望の虚無の色を発しておった。
その両親は息がなくなった娘の首に太い紐を巻き付け、木に吊るした。
その後で、その両親が自らそのひもを首に通して、首を吊った。
お主の言いたいことはわかる。
既に娘が死んでいるのなら、といいたいのだろう?
だがな、私はそれぞれの魂の想いを感じることが出来るのだよ。
娘は絶望の中にいたが、それでも生きたい、という気持ちが強かった。
その想いは皮肉にも、自殺してその体から魂となってはなれるところだった両親にも響いた。
娘の息は止まったが、まだ完全な死は迎えていなかった。
生きたいと強く思っている娘の本心を、その時初めて理解したんじゃよ。
そして、彼らの魂は、すぐ近くで見ている存在、死神の私に気付いた。
彼らは、自分の魂を使って、わが子を助けたい、と私に懇願してきた。
ひどい話だ。
私は死神として、本当に人とは醜いものだと思った。
だが同時に、強く生きたいと思っている娘の魂を救いたいと思ったんだ。
不思議そうな顔をするんじゃない、清元雅弘。
私は神の一人なんだよ。
すべてのことが出来るとは言わんが、この娘を助けようと思った。
実際問題として、私一人で地縛魂や、浮遊魂を捕獲し昇華させるのはかなり大変だという事もあってな。
私は、両親の子供を愛しながら殺す、その行為にムカつきはしたが、その二人の魂を使って、娘の強い思いを具現化した。
彼女、レイの魂はそれほど強くはない。
というよりは、両親に殺されたという情報が刻み込まれて、弱体化していた。
それを両親の娘を愛する気持ちを軸に編み込んで、レイの魂を支えさせた。
簡単に言えば、欠損した魂を、強い思いを持つ魂を持つ者に集めた。
結果はお主の見ている通りのレイが出来上がった。
普通の人間には察知することはできないが、ある特殊な状況を持つ者には半透明の実態のレイを可視化できるくらいに。
これは魂の力が強いのではない。
逆に弱いものが集まってできた複合体という事だ。
「半分生きている」半透明の少女、レイが誕生したのだよ。
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