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死神ヨーキー  作者: 新竹芳
第3話 よみがえり
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その2 橋網興信所

 チャチャまるの顔が歪む。

 きっとニヒルな笑みを浮かべているつもりだろう。


「動画でも撮ってたやつがいれば、不思議に思うかもしれん。ただ、お主の死体はかなり酷い状態だ。その顔が潰れてても、誰も不思議には思わん。そうは言っても気づく奴はいるだろう。ただ、事故の目撃者は、その前の轢き逃げという情報が重要になっている。その顔が潰れる瞬間を多数が見ていればまだしも、数人が撮影し、拡散したとしても動画をいじってるとしか思われん。」

「だけど、その小さな確率でも、バレる危険性があると困るんじゃ…。」


 俺の疑問にこの死神、ヨークシャテリアのチャチャまるは器用にため息をつきやがった。

 相変わらず毛触りの良いこの子犬は可愛らしいが、喋っていると不思議と憎らしさを覚える。


「本音を言わせてもらえば、どうでもいい。現世界で我々の存在を証明するものはないんだからな。全く恐れる必要はないんだ。我々の仕事は、死んだ後の迷える魂の回収だからな。」

「それはまた、乱暴な話だな。」

「我々は現世の人の目なんかは気にしない。そんなものを気にしていたら仕事ができないのでな。ただ我々だけでは効率が悪いので、助手に適した魂を利用させてもらっている。レイも、そしてお主も協力者として利用しているという訳だ。」


 そりゃ死にたくないというのは本音だ。

 ただ、この選択がよかったかどうかは、何とも言えない。


「死にたいなら言え。すぐにレイが喜んで協力してくれるぞ。」

「それが冗談でないことが分かるだけに、下手なことが言えないな。」

「そういう事だ。」


 あの半透明の少女、このチャチャまるがレイと言い、そして中学時代に同級生の米川稀色(よねかわれあ)に似た、そう同じクラスの女子からは「ヨネちゃん」と呼ばれていた少女によく似た暴行少女はここにはいない。


「お主といるといつか強姦されるとか言ってここには寄り付かんよ、レイは。」

「いや、別にあいつがいないから寂しいとかじゃなくてな。というかなんだ、その理由‼」


 どうせ、心が読まれることは解っていた。

 それよりも、あの死神の大鎌、ディスサイズを器用に扱う暴力少女が、いまだそう考えていることに驚愕した。

 大体どうやれば幽霊のような魂のみの半透明の少女とコトが出来るのか、逆に教えて欲しいほどだ。


「そう言う考えを持つようだから、強姦魔と思われとるんじゃよ、清元雅弘。」

「いや、まあ、そうなんだろうけど。チャチャまる、その名で呼ばれると、俺、なかなか大倉という名前で反応できないから、清元の名は極力使わないで欲しい。」

「それは構わんが、お主、慣れてくると「清元雅弘」の名を忘れちまうぞ。いいのか?」

「それは、いやだな。」

「臨機応変というものを覚えておけ。それよりも、お主の本当の仕事、忘れるでないぞ。」


 本当の仕事。

 それはこの世に未練があり、死者の逝くべき本来の場に逝くことの出来ない魂の回収。


 そして、問題となるこの世との未練となる事柄を消し去る、死神の茶々丸の言うところの「切る」ことだ。

 今まではチャチャまるがその魂を探り当て、暴力少女がその死神の大鎌、ディスサイズで断ち切って終わるはずだった。


 魂とは、生命の根源だとヨークシャ・テリアの死神は言う。

 生前の記憶を持つデーターという見方もあるらしいが、実際に質量を持ち、ただの物体を「生物」と明確に分かつモノ。

 その観点から言えば、犬も、ミジンコも、そしてウイルスすら魂を持っている、らしい。

 ただその大きさが各「生物」で違う。


 確かに以前、そんな実験をした者がいたという噂みたいな記事を見た気がした。

 何でも、全く外部と遮断した状態で死ぬ直前の人間を観察して、死んだ瞬間、21g体重が減ったとか。


「正確に21gというわけではないが、その考えが一番近い。ところが、現世に何らかの未練のある魂は、ディスサイズで「切る」と、完全には回収できないことがわかったんだ。」


 チャチャまるがまた俺の心を読んできた。

 俺の心は読みやすいらしい。


「そこで俺のような特殊能力が必要になった、という事だったな。」


 俺、清元雅弘が死ぬことがわかったチャチャまるは、ある程度清元雅弘を調べたらしい。

 死神にはある程度の縄張り、というか管理地域があるらしい。

 その管内において死ぬ者の予測が備わっている。

 寿命や、病死はあまり未練を持たずに魂は昇華される。

 だが、未練のある可能性のあるものは、大抵死んだ場所に固定されるそうだ。

 ただその場所が、なかなか正確には特定できないし、死んだ場所でないところに固定することもあるらしい。

 これは全てチャチャまるからの受け売りだ。


 で、俺の能力なのだが、俺の魂はかなり強力らしい。

 何を称してそう言われているのかはよくわからなかったのだが、欠損した魂を俺の中にいったん貯めることにより、正常な魂に再生できる可能性がある、という事だった。

 といっても俺が死んでしまえば、その能力を活用することなく、昇華して終わり、という事で、今、俺は生かされている。


 その俺の能力は俺を、そして半透明の暴力少女ももう一度生きることが出来るという事だった。


 現在、俺は大倉修二としてこの世を生きている。その大倉の魂は、俺の強力な庇護下の「魂の貯蔵庫」に入ってるという事だ。

 ではあるが、こちらからコンタクトすると、元気に答えが返ってくる。


 おかしくないか?


 大倉修二は魂が弱っていて、それが体調に現れたと死神チャチャまるが言っていたのに、なんで、こんなに元気なのか?


(生活に追われないという事が、こんなに楽だとは思わなかった)


 そう言って俺に感謝の意を示してくる。

 俺はまだ26年しか生きていなかった。

 確かに仕事は思っていたのとは違ったが、それでも趣味を楽しみに生きていた。

 しかも綺麗な女性とデート……。


 クッソ!


 なんで前日に死ななきゃならなかったんだ。まだ、俺、DTだったんだぞ!


(うん、それは可哀想だな、清元君。俺も可哀想な人生を送ってたと思ったが、DTは卒業したからな。いいぞ、愛する女と一つになるのって)


「うっせえわ!」


 おちょくりやいじりがあるが、それでもこの大倉という男は興信所に勤めているだけあって、人の探索には一日の長があり、これからの魂を探すうえで大きな武器になるだろう。

 これもチャチャまるの受け売りだが。


「という風に大倉の魂も協力してくれるからな。欠損した魂の回収が目的以上にうまくいけば、お主もレイも現生に生まれ変われる可能性があるんだ。大倉自身も魂の修復が出来れば天上界に旅立てる。この仕事は皆にとって有意義なのだ。よろしく頼むよ。」

「よくわからんのだが、俺は生き返るって言っても、もう清元雅弘には戻れないのだろう?生まれ変わって子供になるというのなら、あんまり意味がないのではないか?」

「詳しいことは言えんが…、お主にもレイにとってもいい結果になるとだけ言っておく。これでも神様の一人だからな。」

「死神って、神、なのか?」

「当たり前だ!天上界にいる者だけが神様ではないんだ、バカ者め。」


 怒られた。

 神というものが今ひとつわからん。


「お主の能力は、未練があり、傷ついた魂を再生できるほど強い魂の所有者だ。神に仕える立場なれば、さぞや優秀であったろうに。まあ、そういう訳で、お前の魂は元気。でも身体は持たない、「半分死んでる」状態だ。ちょうどレイが「半分生きている」状態とは相反するな。」

「あの暴力少女は「半分生きている」状態って、どういうこと、何だ?」


 俺の言葉に、チャチャまるがしばし考えこむ。

 そんな姿もヨーキーで振る舞うと、非常に愛らしい。


 本当に、そういうところに腹がたつ。


「仕方がない。一応、レイのことを教えておこう。」


 そう言って、レイの事情を話し始めた。

 やはり、それは少しだけ考えていたことを補完する内容だった。


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