その1 バグ
つたないこの作品を見に来ていただき、ありがとうございます。
何とか長くなりすぎないように頑張りますので、よかったら読んでください。
俺、清元雅弘は総合商社ムツイの電算課に勤務している。
大学で電子工学を学び、数十社の就職活動の末、大手の商社に就職が決まった時は本人も両親も大喜びだったことを思い出す。
が、電算課の仕事は基本、メンテナンスとPCのトラブルへの対応で、システムエンジニアとしてのやりがいは急速になくなっていった。
新しくシステムを立ち上げる時は要求項目の検討を上層部がして、外注のコンペになる。
まだそのコンペの評価に携われればいいほうで、大抵は決まった後の対応を押し付けられていた。
その日は新しく導入した経理課のシステムがバグを起こしたので、その対応だった。
本来は外注先が飛んでくるものだが、なぜか俺に仕事が割り振られた。
誰でもよかったようで、ちょうど俺が課長と目が合ってしまった。
新規のシステムということでマニュアルを片手にどこがおかしいか確認したのち、プログラムの箇所の問題点を洗い出した。
電算課課長である新関芳彦38歳は、とりあえず動く様にすること、それ以外には極力触れないよう、釘を刺された。
その意味はまったくわからなかったが、とりあえず、経理のシステムで実際に動かなくなる条件を聞き出し、再現性があるかどうか、検証する。
この時、俺と一緒にその仕事のサポートに入ったのは経理課のベテランの女性、大貫綾先輩29歳だ。
短大卒で今年で10年目。
経理課一筋で、眼鏡をかけた比較的物腰が柔らかい印象だ。
その垂れた目が愛嬌はあるものの、無造作に束ねた長い髪と化粧気のない顔が、地味な印象ではある。
一般的な事務系OLといった感じ。
もっとも決算時期は鬼に変わるとの評判で、特に金の管理がルーズになりがちの営業の人間は、戦々恐々だそうだ。
その大貫女史は完全に困っていた。
あるキーワードを打ち込むとそこで作業していた3台のPCがフリーズしてしまうというのだ。
そのキーワードは「裏垢はjk」だ。
いや、ちょっと待ってくれ!
なんだその単語!
「ごめんなさい。私のパスワードなの」
唐突に少し涙目でこの先輩が言ってきた。
俺の顔がかなり変だったのだろう。
ちょっと断りを入れさせてもらう。
俺はいたって普通だからな!
普通の顔で、あんまりの言葉に顔が歪んだって話だから!
「よく意味がわからないのですが?」
「本当のパスワードは「うら若い女子高生」なの。それを間違えたら「裏垢はJK」になっちゃたの。」
そんなくだらない理由でこの社全体のPCがとまるのか?
試しに経理課のPCをネットワークから外して打ち込んでみた。
あ、確かに止まりやがった。
が、裏メニューのコマンドを打ち込むと正常に画面を切り替えてきた。
おかしい。
もし、バグならこんなことは起こらない。
ただ普通に考えるなら、この危険なパスワードを打ち込めないようにすれば、当面はOKなんだが…。
ここで課長の余計なことはするな、という警告を思い出した。
俺はとりあえず、このふざけたパスワードを打ち込めないようにして、再現性を確かめた。
すべて正常に作動。
問題なし。
「大貫さん、完了しました。ちょっと動作確認、お願いします。」
「え、もう終わったの?」
大貫さんが少し困惑した感じで、自分のPCを立ち上げ、一通りの業務をしてみる。
途中にわざと「裏垢は…」と打ち込もうとして、拒絶されていた。
「本当ね。大丈夫そうだわ。ありがとう、清元君。何かお礼しなくちゃね。」
動作に不備がないことを確認した大貫さんが、そう、社交辞令を言ってきた。
「それでは、夕食を一緒にしてくれませんか?お代はこちらでお支払いしますので。」
「えっ!」
社交辞令のつもりが、まさか誘われるなんて思っていなかったんだろう。でも…。
「うん、いいわよ。お店は私に選ばせてね‼」
大貫先輩はそう言って、にっこり笑った。
思えば、この時に変な好奇心を出さなければ、こういう事にはならなかったんだよなあ。
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