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死神ヨーキー  作者: 新竹芳
第2話 ベンチのお婆ちゃん
16/21

その4 三神真由子の過去

 三神真由子は自分について語り始めた。


 英語が得意だったが、生まれた家がそれほど裕福ではなく、大学に行くには他の教科の点数があまり良くなかった。

 結果的には公立の短期大学で英文科を卒業。

 商社の一般職に就職した。


 だが、商社なら得意な英語が活かせると思ったが、一般職ではあまりそういった仕事には関われなかった。

 稀に英文資料の翻訳というものがあったが、商社の総合職に就いた人たちは、皆英語がそこそこ出来る。

 というか英語の読み書きや会話が出来なければそもそも入社できなかったはずという事を後から聞いた。

 英語どころか、フランス語や中国語、スペイン語までできる人間がざらにいるのだ。

 総合職の補佐的な立場の真由子には魅力ある仕事は回ってこなかった。


 結果的にはその商社の同期の男性、早川満と知り合い結婚。

 一人娘、真奈を授かる。

 そして夫の転勤でアメリカのロサンゼルスに2年間、家族3人で暮らした。

 これが、この後の真由子の運命を決定的に変えてしまった。


 ロジャー・リック・サウスランド。当時27歳。真由子が28歳の時だった。


 中古PCから、最新のPCに安価でチューンアップする手法で会社を興したばかりの青年だった。

 最初に真由子に惚れたのはロジャーだった。

 2年の赴任期間が終わってからも、日本まで頻繁に来て真由子を求めてきた。

 そのアタックに負けたのか、もともと好きだったのか。

 今では真由子自身にも判然としない。


 早川満と離婚。

 一人娘真奈を置いて単身ロサンゼルスのロジャーのもとに向かった。


 離婚した早川満は男でひとつで真奈を育て、大学までしっかりと卒業させた。

 だが、離婚から心に負担を感じていた満は仕事と子育てに自分の能力以上の力を発揮した。

 真奈が卒業後、ほどなくして脳出血であっさりと死亡した。

 その報を聞いたとき、真由子は不孝のどん底だった。


 渡米後すぐにロジャーと結婚。

 ロジャーの会社を手伝っていた。だが、すぐにその会社が倒産し、ロジャーがほかの女と消息を絶った。 

 真由子には会社の負債のみが残った。


 死ぬ思いでその負債を返し、何とか帰国した。

 だが、アメリカ人を追っていくために離婚した真由子を、実家は拒否した。

 その日から何とかバイトで食いつないだ。

 安アパートを何とか借りて、今の清掃会社にバイトで入った。

 そこでの勤務態度と皆が嫌がる汚れているトイレの清掃などを率先してやったことが、当時の社長に高く評価された。

 正社員に昇進したころから、一人娘の真奈が気になって仕方なかった。


 元夫の早川満の死を知ったのは帰国してすぐだった。

 これは実家に援助を求めた時に、その拒否と同時にもたらされたものだった。

 だが、真奈の所在は全く教えてはくれなかった。


 生活に余裕ができたころから、途絶していた友人知人に連絡していった。

 大抵は無碍にされていたが、数名は真奈が結婚して幸せにしていること、優しかった父に花嫁姿を見せることが出来なかったことを悔いているという事を聞かされた。

 と同時に、自分たちを捨てた真由子のことを絶対に許さない、という趣旨のことも伝えられた。


 絶望的だった。

 それでも少ない給料から何とか工面した金を握りしめて興信所に向かった。

 今の真奈の所在を知るために。


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