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死神ヨーキー  作者: 新竹芳
第2話 ベンチのお婆ちゃん
15/21

その3 想い

久しぶりの投稿です。あと2,3回でこの話は終わると思います。

付き合ってもらえると嬉しいです。

 とりあえず、亡くなった三神真由子という人の情報を、警視庁勤務の相沢真咲から得なければならい。

 半年前の死亡事故に関しての情報は小さいながらも新聞に載るくらいなので問題なかったが、流石に故人の個人情報はそう簡単には教えてくれなかった。

 何とか嫌がる真咲の情に訴えて、年齢と家族状況について聞き出すことには成功した。

 これは死んだ三神真由子の引き取り手に関して、当時の管轄の担当者が苦労したという事で、半分愚痴のようなものだったのだが…。


 三神真由子、52歳。独身。清掃会社勤務。

 住所は確かにあの河川敷の近くの安いアパートだった。

 子供が一人いた。

 だが、何故かその子供が遺体の引き取りを拒否。


 その理由についてはどうやら真咲は解っているらしいが、しこたま酒を飲ませたが、ついぞ口を割らなかった。

 そのかわり俺、というか送ら臭時に対する不満、悪口、罵詈雑言が次々と飛び出してきて、早々に俺は退散した。

 あまりの言われように大倉の魂に問いかけたが、だんまりを決め込んでいた。


 どうすれば、死にそうな人間を助ける割には、あそこまで口汚く本人に罵れるのだろうか?

 いまだ大倉修二と相沢真咲の関係がつかめない中、限られた情報でその魂、三神真由子と対面することを決意して、チャチャまるにハーネスとリードを装着、あのベンチに向かった。


 いた。


 今日もいつもと変わらないベンチに座っている。

 俺の鼓動が早鐘を打ち始めた。

 今まで死者の魂には3度接触した。

 その結果が「魂の貯蔵庫」の3つの魂だ。

 そのうち一つは誘拐されて殺された少女のモノだ。

 それは酷い状態だったのだが、この中で少しずつその魂の状態が良くなっているようではある。

 まだ、この少女の魂を見つけた時はあまりにも酷かったのですぐに救いの手を出すことが出来た。

 その結果、この少女を殺した奴らを見つけ出すことが出来た。

 他の2つも、結構すぐに死んで逝き場のなかった魂であることが分かったので、こんな状況ではなかった。


 今回は今までの場合と明らかに違った。

 まるで生きてそこにいるような、かなり良好な魂。

 にもかかわらずそこから動けない魂。

 そのモノを見て、これから自然に接する必要がある、という状況。

 正直逃げ出したかった。


「ビビってないで、行くぞ。」


 俺は、他人からは「キャンキャン」としか聞こえないヨーキーのチャチャまるの声に押し出され、彼女に向かって歩き始めた。

 そしてそのベンチの隅に座ってる彼女の横に座った。

 軽く息を吐き、決心を固める。


 彼女がびっくりしたようにして、こちらを見ていた。

 だが、暫くするとこちらに向けていた視線をまた前の、川の向こうに移した。

 そして、それこそが彼女がここにいる理由である気がした。

 彼女は俺が偶然このベンチに座ったと思っているのだろう。

 犬の散歩中に疲れて、とりあえず腰を下ろしたと。

 その連れている犬。

 ヨーキーのチャチャまるは俺の前ではなく、彼女の前に彼女の顔を見てお座りをしていた。

 さすがに彼女は不審に思ったのだろう。

 川の向こうを見ていたその眼をチャチャまるに向けた。

 そして、俺がずーっと彼女を見ている事にも気づいたようだ。


「あなたはどうして、ここに座っているのですか?」


 俺の声に、彼女が声にならない声を上げた。





 たまに自分が見える人はいるらしい、と彼女は言った。

 ただ、大抵は無視をするし、慌てて逃げる人もいたらしい。

 だが、こうやって自分が幽霊であるにもかかわらず、わざわざその横に腰かけ声を掛けてくる人間はこの半年で初めてだとも言った。


 それはそうだろう。

 こんなことをするのは死神か、祈祷師くらいのもだ。

 だが、祈祷師が本当に霊を見られるのなら、すぐに拝み始めるだろうし、誰かの依頼できたのなら、ここに護摩の札でも貼りだすに違いない。


「私が見えるという事は、私が何者かもわかるんですね。」

「いえ、三神真由子さんという名前くらいしか知りません。」

「名前が分かるのですか?」

「この前の道に亡くなって倒れていたという新聞の小さな記事を見つけました。それで、三神さんなのだろうと。」

「ああ、そういうことがあったんですね。死んでからはこの周り以外のことはよく解らなくて…。」


 確かに。

 よくて、この近くで聞こえてくる会話が情報源になるくらいだろうから。


「驚かないのですか?え~と…。」

「大倉修二と申します。この先の雑居ビルの興信所で働いてます。」

「そう言えばそんな設定のアニメがありましたね。」


 彼女はそこそこ年上だとは思ったが、まだ52歳だった。

 年齢を考えればそう言うアニメを見ていてもおかしくはないんだが…。

 自分が全くその話を知らないので、何とも言えない。

 見た限り、白髪で70歳を下回ることはないと思っていたのだが。


「心臓病で亡くなったと聞いてます。持病があったのですか?」

「そうですね。息苦しさはありましたが、心臓から来てるとは思いませんでした。あまりお金がなかったので、健康診断で要検査とは出ていましたが、とても行く勇気がなくて。」

「お金がなくても、病院くらいは…。」

「何も無ければそうですけどね。もし本当に病気が見つかって入院なんてことになったら、とてもとても。今の清掃会社も辞めなくてはならないでしょうし、その先に健康になった後の将来が不安だったんです。それならいっそ死んでしまった方が楽かなって。てっきり、死んだらそのまま消えてしまえると思ったんですけど、まさかこんな形でここに縛られるとは思ってませんでした。」


 それはそうか。

 俺も事故に遭う、いや殺される前はそう思っていた。


「では、なぜここから動けないかという理由には、思い当たりますか?」

「おい、雅弘まずい。お前が横向いて何もいないところに向かってしゃべってるから、変な目で見てるぞ、周りの奴ら‼」


 チャチャまるの「キャンキャン」吼える言葉に、我に返った。

 そうだ。この人のことは他の人には見えないんだ。

 俺は前を向いて、俯き加減になって、ぼそぼそと小声で囁く。


「三神さん、すいません。周りから変な目で見られてるみたいなんで、聞きづらいでしょうけど、この格好で失礼します。」

「まあ、そうね、そうよね。」


 そう言って彼女は辺りを見回しているようだ。

 だが、どうやら俺が俯いたために、次第にその周りの視線は薄らいでいった。


「それより、そのワンちゃん、喋れるの?」

「ええ、ちょっと変わった犬なので。そのことは後で説明することになると思います。」


 既に半透明暴力少女「ヨネちゃん」は上空に来ているが、彼女に気付いている気配はない。


「それで三神さん。ここにいる理由、分かるんですか?」

「きっと、未練ね、私の。」

「未練?」

「ええ、私には一人娘がいたのよ。その子に会いたいという未練。」


 子供が一人いるとは聞いていたが、娘さんだったのか。


「その子に遭えれば未練がなくなるという事なんですか?」

「それは分からないわ。でも、生きている時はあの子にあって、話がしたかった。そして…。」


 そこで彼女は言葉が詰まったように、何もしゃべれなくなった。


「どうかしましたか、三神さん。」

「ううん、何故か分からないけど、急に言葉が出なくなって…。」


 その言葉に俺は俯きながら、チャチャまるに目を向けた。

 チャチャまるがコクンと頷く。


「そうじゃ。それこそがこの者が天に召されない重要な想いなんじゃよ。」


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