その2 お婆ちゃん
いまだこの話の方向性が決まってないんですが…。
読んで頂けると、嬉しいです。
俺は自分のリハビリを兼ねて、見た目ヨークシャテリアの死神チャチャまると、1時間ほど散歩をしている。
最初は適当に交通量の少ない道を歩いていた。
やがて、公園や、河川敷、そしてこの川沿いの遊歩道を歩くのが日課になった。
完全にコースが決まってるわけではないのだが、この2か月ほど、天気のいい時は河川敷からこの遊歩道に降りて川べりの、気持ちいい風を受けながら歩いている。
そろそろ初夏という季節で、幸運にもこの大倉は花粉症を発症していなかった。
喘息でもないらしいが、喫煙習慣は、ある意味喘息発作を始終やってるような息苦しさだ。
慢性閉塞性肺疾患、いわゆるCOPDのようだ。
この身体は入院中、検査を結果で肺がんは見つからなかったが、肝臓の値は悪かった。
本当に不摂生という奴は、本人は徐々に蝕まれているから自覚ないんだろうが、いきなりこの身体を与えられた俺としては、不具合が多すぎる。
徐々にではあるが体の調子もよくなっているのだから、金銭的に余裕が出来たら、ジムにでも通って専門家の指導の下、肉体改造が必要なのかもしれない。
その2か月間、俺はある同じ位置、河川敷に設えられたベンチだが、いつも座っている高齢の女性がいることに気付いた。
その女性は決まってその位置から遠くを見ている感じだった。
具体的には川向こうの高層住宅あたり。
気付いたのは前を行くチャチャまるが、いつもその位置でその女性を見て止まるから、出会った。
俺自身はそれほど気にしていなかった。
そこそこの年になり、するべき仕事もなく、悠々自適に暮らす中で、この遊歩道を散歩コースにする高齢の方々はよく見かけた。
たまに、この見た目だけは可愛らしいヨークシャテリア、犬好きはヨーキーと呼ぶ子犬を可愛いと言ってくれる人もいるし、触りたいという孫を連れた方もいた。
チャチャまるも自分が死神という事を忘れて、そんな人たちと戯れて、この姿を堪能しているようだ。
一応、仕事がそこそこ入るので、毎日の散歩という訳にはいかなかったが、1か月過ぎるころには、そのベンチの高齢の女性が変であることに気付いた。
その俺の思考を読み取ったのか、「ふっ、やっと気づいたか」と上から目線で死神チャチャまるが事務所の中で、偉そうに言ってきた。
「最初から、私はあの女性の所に行くたびに止まって見ていただろう?」
「確かにそうなのだが、それはその女性が自分を無視していることに腹を立てているのかと思っていた。」
「そんなわけがあるか!」
「チャチャまるさ、自分を可愛いと思ってくれない女性に、変に可愛いアピールするだろう?それで構ってもらおうとしてさ。」
「いや、それは…。」
「だから無視されて、構ってもらおうと、立ち止まってるのかと思ってたよ。」
「うぐぐぐ…。早いとこ、お前にも魂の見分け方が出来てもらおうと思っとったんじゃが…。」
「ああ、そういうことか。」
今日は珍しく小雨が降っていた。
なのに、この死神は散歩を珍しくせがんできた。
おかしいと思ってたんだが……。
ああいう光景を見せられれば、いやでも分かるってもんだ。
そう、その小雨の中、チャチャまるに犬用のレインウェアを着せ、俺は大きめの傘をさして散歩に向かった。
今思えば、その光景を俺に見せるためだったことが分かる。
雨降りとはいえ、小雨という条件下でも歩いている人はいる。
ウインドブレーカーを着てジョギングする人もいた。
だが、そのいつものベンチでいつも通りに座っている高齢の女性という光景は、流石におかしい。
さらに雨の中、その女性がベンチに座っているにも拘らず、誰もその異常さに対して反応がない。
まるでそこに誰もいないように…。
それがこの地に縛られた魂であることに、ようやく俺も気づいた。
だが、この段階でその魂に俺が気づいたことを知られることは避けねばならない。
俺は、またその場で止まるチャチャまるを促し、何食わぬ顔でその場を去った。
その高齢の女性、の魂に俺が驚いたことを知られたとして、どのみちその地に縛られた地縛霊であることは解っていた。
逃げられることはない。
だが警戒はされる。
わざと大袈裟に驚いて逃げ出す、という様な事は出来ない。
それでは自然に近づくことが出来なくなる。
かといって、ここでその魂を見れるという事になると、この雨の中でその魂を回収しなければならない。
相手に警戒感を与えると、その後処理が大変だ。
今までの経験でそれは分かっている。
チャチャまるもその辺は心得ているようで、この雨の中の散歩もいつも通りにそのベンチを通過して終わり。
「本当に驚いたよ。雨の中でも姿勢を変えないってのもあるけど、雨が体を通り抜けていく様は、なんか、幻想的って言うか……。」
「実態を持っとらんからな、魂は。でもよくあそこで慌てなかったもんだ。褒めてやってもよいぞ。」
「それについては、この数回で分かってる。無理矢理、ヨネちゃんの鎌でぶった切ると、魂の欠片が残るからな。」
「そうじゃよ。だから、出来うる限り綺麗にその魂をお前さんに預けたいわけだ。」
「いまだ、「魂の貯蔵庫」って意味が解らん。」
(そんなことはないだろう?俺がサポートしてっから、うまく仕事も言ってるぜ)
唐突に俺の心に違う人格が話しかけてきた。
こういうものが慣れない。
この心の言葉は、この身体の持ち主、大倉修二が発している。
他の3つの魂は大人しく、俺の中で眠っているのだが、大倉だけは、ちょくちょく出てきて、非常に迷惑だ。
(そんなつれない事を言うなよ、清元雅弘君。今じゃ、同じ体に住んで居る同居人だろう?というか、この身体はもともと俺のモンなんだからさ、もうちょっと優しく接して欲しいな。たまにはタバコとか吸ってさ)
「本当にいい加減にしろ!俺がこの身体に来なければ、おっさんはとうに死んで地獄に堕ちてたんじゃないか?俺がここに来たからこそ、そこそこいいもんも食えるんだぜ。」
(そこんとこは、うん、まあ、感謝してるよ。そのヨーキー共々な。でもさ、タバコや酒は、チョンガーの俺の少ない楽しみでもあったんだからさ。女日照りの俺を助けると思ってさあ。たまにはいいんじゃない、タ・バ・コ)
「それで死にかけたんだろう、おっさんは。用があったら呼ぶから、こうちょくちょく出てくんの早めてくれ。」
(へい、へい)
そう言って、やっと「魂の貯蔵庫」の中に戻って行った。
しかし、「貯蔵庫」って言ってたって、自由に行き来できるのは考えもんだ。
「なあチャチャまる。チョンガーって、何?」
「お、お前は……。はあ、今の若いもんはそんなことも知らんとは……。」
「へっ、知らないと、まずいの?」
「独身者のことをそう言ったんだよ、昭和の頃は‼」
「うわ~、どうでもいい知識だ。」
俺はその答えに引いてしまった。
女日照りは何となくわかったんだけど…。
とは言っても、俺はまだ女性と、その、何をしたこと…、ないし。
で、でもでも、もう少し生きられたら、大貫先輩と……、はあ~。
ゴツン。
「いったあ~、って、ヨネちゃん!」
そこにはソファの後ろから器用に死神の大鎌、ディスサイズをくるくる回している半透明の少女が立っていた。
「な、なんで急に殴るんだよ!本当にそれ、痛いんだからな!」
「あんたが不埒なこと考えてるからでしょう?この強姦魔‼」
「だ・か・ら~、おれはまだDTなんだから、強姦魔の訳ないだろう!」
「でもその身体は、経験あるんでしょう?」
(ま、まあね、えへへ)
「それが商売の女だとしても。」
「えっ、そうなの?」
(お、おい、そう言うこと…)
と言いつつ、大倉修二の魂は自分のねぐらである「魂の貯蔵庫」の中に引きさがった。
あんのやろう!
さんざん人をDT、DTと馬鹿にしておいて。
同じようなモンじゃねえか!
「本当にこいつらは、女性をそう言う対象にしか見ていないなんて!。やっぱりこいつら、さっさとあの世に送った方がいいんじゃないですか、殿下。」
急に現れて人の頭を殴っておいて、終いには俺を抹殺する気満々の半透明の少女レイ、いやヨネちゃん。
「だからさ、私をヨネちゃんと呼ぶのはやめなさい!」
「これだけは譲れない。俺は意地でも君をヨネちゃんと呼ぶ。」
「まあ、まあ。ふたりとも。会うとすぐ喧嘩するのは止めてくれ。お前達にはチームで動いてもらわないとならんのだから。」
大きくため息をついてヨネちゃん、半透明の「半分生きている」少女レイが、構えていたディスサイズをとりあえず下した。
「それで、彷徨える魂が見つかったんですよね、殿下。」
そうだった。
さっきの高齢の女性、髪は白髪になっていながらもきちんと纏められて、品よくベンチに座っていたお婆ちゃんを思い出す。
雨がその体を貫いてベンチを濡らし、そして、全く濡れないその身体。
その場に縛られている魂、地縛霊だった。
なまじ霊が見えると、それが普通になっていて、全くそれを普通のお婆ちゃんだと思っていた。
既に大倉の大学時の後輩の相沢真咲から、半年前の初雪が降ったころにあのベンチで死んでいた女性の情報は得ている。
「いつも同じベンチに座ってるお婆さんだよ、レイ。きっとお前さんが行けばすぐに我々が何者変わってしまうだろうが…。まずはマサヒロに彼女の魂と接触してもらうよ。」
「ああ、解ってる。あのベンチで死んでいたのは、純粋に心臓に病を持っていたらしいと分かっている。事件性はないってことだ。ただ、なんでいつもあのベンチに座っていたのか?それを本人から聞かなきゃならん、ってことだよな?」
「ああ、そうだ。この世の未練が分からないと、綺麗に魂を回収できんからな。」
そんな会話をして、俺は明日お婆ちゃん、三神真由子さんの魂に逢いに行くことになった。
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