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翌朝、目が覚めると一瞬(どこ?)って混乱した。
そうだ私はオスカー様の婚約者になったのだ。
「奥様よろしいでしょうか?」
「あ、はい」
「おはようございます」
「おはよう」
まだ婚約者なのに侍女達に「奥様」って呼ばれている。
訂正する気もないけど、ヘンな感じだ。
朝の支度を終えて、朝食の席に案内された。
昨夜のこともあって気まずいが、遅れてやって来たオスカー様と挨拶を交わし、美味しそうな朝食を頂く。
「リアナ、食事の後で従姉のクラリスを紹介したい」
「はい」
「何を言われても適当に返事すればいい。変人で性格が悪いからな」
「え?愛人?」
「変人だ。会わせたくないが、うるさいから紹介だけしておく」
「わかりました」
変人のクラリス様、どんな方なんだろう。
朝食はパンに添えられたクリームチーズが美味しすぎる。
夢中で食べていたら、オスカー様が手を止めてこちらを見ているのに気付いた。婚約者に愛されなかった哀れな女と思っているのか。
昨晩を思い出し赤面する。彼は私を抱きに来たのだった。
無理強いをされなかったのは良かったけどその後で愛人を呼んだのは不潔だ。
朝食を終えて書斎に連れて行かれ、クラリス様を紹介された。
「お会いできて光栄です、リアナ様」
昨夜の愛人の正体はクラリス様だ。その声!間違いないわ。
「初めましてリアナです」
「あ、オスカー、リアナ様と二人っきりにしてくれるかしら?」
「しかし」
「女同士で話し合いたいの、いいわよね?」
なんだか雲行きがおかしい。挨拶だけではなかったの?
「リアナを怖がらせるなよ!」
オスカー様が出て行き、クラリス様と二人っきりになると緊張感が高まる。
ソファーを勧められ腰を下ろすと、テーブルには彼女の飲みかけのお茶が置いてあった。
「はぁ、やっと性悪のベニーを追い出してやったのに、次はリアナ?つくづく女運が悪いわね、オスカーは」
これは喧嘩を売られているのよね?
「侯爵様とのご縁は私が望んだものではありません」
「貴方って可哀そうよね。母親に捨てられ、父親に売られてハワードと婚約。そのハワードとアランは義姉のダイアナに奪い取られ、最後に義兄に泣きつかれて、大嫌いな男の妻になる。可哀そうだわ」
「なにを仰いたいのですか?」
「ベニーとダイアナに陥れられて、不幸な学園生活。ねぇ、悔しくないの?アラン・スコットを奪われて平気なの?ずっとダイアナに奪われる人生でいいの?あの女、オスカーを狙ってるわ。また実家に戻って、次はどこかの成金年寄りの後妻に売り飛ばされるわよ?」
「クラリスさん?」
「あんたみたいに人生諦めてる女が、私の大切なオスカーの妻になるなんて許せない」
「私は諦めていません!」
「じゃぁどうするの?ああ、修道院に逃げるのね、それもいいわね。オスカーは渡さないわ」
「結構です。私は侯爵様が大嫌いですから、ダイアナが狙っていても愛人がいても平気です!」
──────パシャッ!
ぬるいお茶を顔に掛けられて、ああ、高価なドレスが・・・
こうなる予感はあったのに避けられなかった、悔しい!
「フン、偉そうに。あんたなんかオスカーに愛される資格は無いわ。いい、ここの女主人は私よ。オスカーを不幸にする人間は容赦しないわ!」
平気よ、こんなの何度も経験済みよ。
「どうして私が侯爵様を不幸にするのですか?」
「負け犬だからよ。いつかオスカーと社交界に出ても、リアナには良い噂は立たないわ。あんたはオスカーの荷物になるだけなのよ」
「荷物になると分かっていて、侯爵はなぜ私と婚約を?」
「知らないわよ、惨めったらしい女に惹かれるのかもね。とにかくあんたは私が認めない。ベニーみたいに追い出してやる、覚悟するのね」
「分かりました、失礼します」
「フン、馬鹿な女ね。昨夜は抱かれておけば、大きな顔が出来たのにね。いい年して貞操観念なんて言ってるから実家に売られるのよ。純潔は高値で売れるもの」
変人?違う、悪人。この人とはもう同じ部屋に居たくない。
書斎から廊下に出るとオスカー様が待っていて、何とも言えない表情をした。
「クラリス・・・貴様何をした!!」
怒鳴りながら私を抱きよせるオスカー様に反吐が出そうだ。
貴方の愛人はここの女主人なんですって。
ハンカチで私の顔をそっと拭ってくれるが、彼の愛人の仕業なのだ、許せない。
「火傷していないか? 早く手当てを」
「温いお茶でした。大丈夫、着替えてきます」
書斎の扉がカチャッと開く音がした。
「おとなしい良い子ね。気に入ったわ。仲良くしましょうねリアナ様、ふふ」
後ろから声を掛けられてゾッとする。仲良く何て出来るわけないでしょう!
読んで頂いて有難うございました。