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出口に向かっていると「リアナ様!」と声を掛けられてしまった。
「チッ!」
オスカー様が舌打ちし、私達は立ち止まった。
「クラリス様、どうして・・・」
目前の彼女はハワード・ペレイス伯爵令息と参加していた。
「リアナ!やっと会えたね。会いたかったよ」
「ペレイス卿、俺の婚約者を名前で呼ぶのは失礼だろう!」
「リ、リアナは僕の婚約者だったんだ!か、か、返して欲しい!」
「はっ?ふざけるな!」
王太子殿下の誕生祭でこんな失態。ハワードは何を考えているの。
愉快そうな顔で立っているクラリス様、貴方も分からない人だ。
「僕は知ってるぞ。侯爵はリアナを監禁して虐めているんだ」
「クラリスがそう言ったのか?」
オスカー様が睨んでもクラリス様は涼しい顔で受け流す。
「聞かなくても分かる。貴方はずっとリアナを虐めてきたじゃないか!」
「そしてお前はリアナを庇ってやらなかった。今更何を言ってるんだ。守れもしないくせに、未練がましくリアナに執着するな、二度と近づくな、分かったか!」
「なっ!・・・リ、リアナ」
「ペレイス様、私はオスカー様の婚約者です。二度と手紙も出さないで下さい」
「僕はリアナを想って」
「俺の婚約者に懸想するのはやめてくれ!」
もうハワードには名前を呼ばれたくない。顔も見たくない。
ギャラリーも増えてきて私はオスカー様の袖を引っ張った。
出口を目指す私達に更に立ちふさがるカップル。
「まぁ、何の騒ぎかしら。リアナってば、いつも周りに迷惑をかけるのよ、困った子ね」
最悪にも、ダイアナとアランの登場だ。いつから見られていたのだろう。
「姉の私の手紙も無視して連絡一つ寄こさないなんて、冷たい子ね」
「はっ!お前の手紙は俺が破り捨てていた。考えても見ろ、婚約者を寝盗ったお前にリアナが会いたいわけ無いだろう!無神経な義姉だな、冷たいのはどっちだ!」
「な、なんですって!」
「今後も一切リアナに関わるな、失礼する!」
オスカー様が二人を言い伏せて、この場を一刻も早く去ろうとしたが、三度行く手をふさがれる。
「オスカー、昔のよしみで一曲だけ踊って下さらないかしら?」
「どんなよしみだ、生まれた護衛の子は元気にしているか。ネイラム伯爵令嬢」
声も出せず、気の毒なほど真っ青なベニー様。
三方塞がりになったが、全員オスカー様の毒舌に撃沈だ。
今は優しいオスカー様、元々はこういう方だった。
「オスカー様帰りましょう」
「ああ、不愉快だ、帰ろう」
立ち竦むペレイス様ことハワードを押しのけて出口に進んでいったが、ドアパーソンが扉を開きオスカー様と二人で舞踏会場から広い廊下に出たとたん、走って追いかけてきたハワードに追い越される。
「待って、リアナは本当に虐められていないのかい?」
「ええ、私は幸せよ。オスカー様は私を愛して下さっているわ」
「信じられないよ。君は我慢強いから耐えているんだろう?」
「いいえ、私も侯爵を愛しているの!」
しつこいハワード再び押しのけて、急いで階段に向かう。
「リアナ、待ちなさいよ!」
義姉の声も無視して進もうとすると「この方が早い。足が痛かったな、気づくのが遅れてすまない」オスカー様が私を抱きあげ、私は彼の肩に腕を回した。
間もなく階段に差し掛かろうとしていた時────
「待ちなさいってば!」
「ダイアナよせ!」
引き止めるアランの手をダイアナが振り切り、アランの頬を数個の指輪を付けた拳で殴るのを、オスカー様の肩越しに見えた。
「っつ!」
「もう!!邪魔しないでよ!」
叫びながら義姉が懐から何か取り出すと同時に、数人の護衛が飛び出す。
オスカー様は階段を下りかけており、護衛は義姉を取り押さえようと近づいたのだが、義姉が取り出したのは香水、バルブアトマイザーだった。
「失礼ね、ただの香水よ?」
護衛達は足を止め、オスカー様も一瞬足を止めダイアナに振り返った。
────プシュッ!プシュッ!
ダイアナが腕を伸ばし、丸い空気ポンプの部分を何度も押すと、段上から霧状の液体が飛散して、護衛達と私とオスカー様に振りかかった。
「なに?」とクラリス様の声が聞こえて「この女を捕らえろ!」とアランの声も聞こえた。
異様な臭いが私達を包み込み、途端に私は狂気に包まれた。
誰もが私を殺そうと狙っている。
誰もが皆、私を憎んでいる。
「あぁぁぁああ」
逃げなければ、逃げなければ!殺される!殺される!!!殺される!!!!
「うわぁぁあぁああぁあ」
叫び声と共に、私はオスカー様に抱きかかえられたまま階段を下へと落ちて意識を失った。
読んで頂いて有難うございました。




