表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】奇跡の神言《口からでまかせ》を言う盗賊のおっさんは、師匠とも英雄とも呼ばれたくない  作者: しょぼん(´・ω・`)
第七章:最期の戦い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/78

第十話:禁忌の術

 未だ、派手に術の応酬を繰り返しているティアラとザルベス。

 未だ繰り出される炎の彗星(フレイムメテオ)に対し、魔術、雷剣ソードライトニングを撃ち込み相殺するティアラ。

 未だ拮抗する二人の術の撃ち合いだったが、先に手を止めたのはザルベスだった。


 炎の彗星(フレイムメテオ)が止み、雷剣ソードライトニングがザルベスに向かうも、それは奴を覆った闇の障壁(ダークウォール)に阻まれる。

 無駄な消耗を嫌ってか。ティアラも一度そこで術を止めた。


『大きな口を叩いておいて。ウルブス達同様、あっさりやられるとは……』


 失望のため息を漏らすザルベス。

 だが、その表情には余裕が見える。

 ……いや。余裕だけじゃねえ。ありゃ何か企んでる奴の顔か。


『まあ、丁度良いでしょう。術の撃ち合いではただの消耗戦。であれば、より()()()らしく貴女を屠りましょうか』


 澄ました顔から一転、怪しげな顔を見せたザルベスは、妙に禍々しさを感じる、意味も分からぬ言葉を口にし始める。


 何をする気だ?

 思わず警戒していると、奴の周囲の地面に、白と黒のみで描かれた怪しげな魔方陣が浮かび上がる。

 そして、そこからぬるっと赤黒い闇が姿を見せると、それぞれに何かに変化していったんだが……。


「あれは……まさか……」

「四魔将!?」


 エルとアイリが思わず叫んだ通り、そこに姿を見せたのは、闇で形作られた、ウルブス、ウルバス、ドルゴ、シャーミーの四人だった。

 赤黒いオーラを持つ四人。その瞳も赤く怪しげに光っている。

 が、さっきまでのように生きている印象は感じねえ。

 四体ともやや猫背気味な姿勢で、ティアラに虚な瞳を向けている。


「……傀儡の(マリオネット)悪霊スピリット……」


 ティアラがぽつりと呟くと、ザルベスは少し感心した顔をする。


『ほう。貴女は星霊術にも精通しておられるようですね。その通り。彼等の死に哀しみなどしませんが、役立たずにもう少し働いて貰うため、呼び出させていただきました』

「くそっ!」


 片膝を突いたまま、苦しげな顔のアイリが咄嗟に手を伸ばし、ドルゴの霊に聖術、悪霊祓い(リーブスピリット)を撃ち込む。

 腕から放たれた激しい光。が、それは奴に直撃したものの、やつを仰け反らす事すらできない。


『無駄ですよ。死しても彼等は四魔将。そんな物で祓われる程弱くはございません。それに、彼等は召喚者の力を得て、術抵抗が非常に高まっておりますので』


 確かに。そこにある気配は、間違いなくさっきまでやりあっていたあいつらと同じ。

 だが、アイリやエルは疲労困憊。俺だってデルウェンに隙を見せる訳にはいかねえ。


 ……ちっ。面倒な事になったな。

 俺は内心舌打ちする。


 相手が四魔将である以上、ティアラの魔術や神術だけで、あいつらをどうにかするのも辛い。

 しかも、これでアイリやエル、俺に直接仕掛けられたら、否が応でもやりあうしかなくなるが……。


 俺がそこ動向を見守っていると、ザルベスが厭らしく笑う。


『手負いの者達など後から始末すれば良い。まずは私にとっての脅威である、貴女から始末してくれましょう!」


 奴の言葉に、四魔将だった傀儡達が身構えると、一気にティアラの周囲を囲むように展開する。


 ……ちっ! 流石にこのままじゃやべえ!

 俺が思わず動きそうになったその時。


「ヴァラード様」


 ティアラは静かに俺の名を口にし、行動を制してきた。


「貴方様は、わたくしを信じると仰った。ですから、どうか信じてくださいませ」


 信じるったって……。

 この状況、あいつだけでどうにかできる気はしねえ。だが、あいつは悲壮感を感じさせながらも、未だ諦めたような顔もしちゃいねえ。

 俺の戸惑いに一瞬だけ微笑んだ後、あいつは凛とした立ち姿のまま語る。


「……わたくしは、師匠である貴方に教わりました。勝ちに貪欲になれと。ですから、わたくしはどんな事をしても、この戦いを制します」

『ふん。強がりもここまで。死になさい!』


 ザルベスがばっと手を伸ばし、四魔将達が動き出すのと、ティアラが魔導書を開いたのは同時だった。


 一気に踏み込んだ傀儡の四魔将が、前後左右からティアラを襲う。

 それぞれの爪や武器を、神術、光の防壁(ライトウォール)が食い止める。

 が、やはり闇の力を強く持った四人の力。

 奴等の力押しで、少しずつ障壁にひびが入っていく。


「ティアラ!」


 このままじゃあいつが殺られちまう!

 思わず俺がティアラの名を叫ぶと、それを合図にしたかのように、あいつは動いた。

 すっと魔導書の紙の端に指を走らせ指を切ると、滴る血で魔導書に素早く何かを書き記していく。

 その間にもより大きくなっていく障壁のひび。

 そして、障壁が砕けそうになった瞬間。ティアラは魔導書の上にあったであろう、人差し指と中指の間に挟めた、血で書かれたサインの入った一枚の紙を手に叫んだ。


『魔女の魂よ! 我に力を貸し、の魂を蠱惑せよ!』


 澄んだ音と共に砕け散る障壁。同時にぼっと青白い炎を上げ燃え尽きた紙。

 ニヤリと嗤うザルベス。襲いかかる闇の四魔将達。

 その鋭い爪や牙がティアラに触れる直前。奴等は動きを止めた。


 ティアラの身体から湯気のように怪しげな青白いオーラが立ち上り。あいつの金色の髪がすーっと白銀色に変わっていき、その瞳が真紅に染まる。


 俺は、その光景に思わず息を飲んだ。

 まるでメリナやマリナさんを思い出させる変化。

 そして、あいつから感じる、人外とも思える強い圧。


『な、何!?』


 ザルベスが目を見開き、その変化に驚きを見せる中。


「ティアラ。お前、まさか……」


 俺は、そこにある現実に愕然とした。


『何故だ! 何故その女を殺さない!』


 ……殺せるもんか。

 さっきまでのお前達は互角。だが、今あいつは、その封印を解いている。 


『……本物の四魔将なら、こうもいかなかったでしょうけど。ただの傀儡であれば、操るのなど容易き事』


 人が変わったかのように、冷徹な口調で話すティアラ。

 だが、それもそのはずだ。今そこにいるのは、ティアラじゃねえ。

 勿論、俺もそこにいるのが誰だかは分からねえ。が、あいつじゃねえのだけは、はっきりと分かる。

 そして、そいつが蠱惑の魔女の一族の者だってのも。


『ザルベス。たかだか星霊術師として悪霊を操れる程度で、わたくしを殺せるとでも?』

『ふ、ふざけるな! 貴様は一体何者──』

『蠱惑の魔女、サルファーザ』

『サ、サルファーザ!?』


 その名を聞いた瞬間、ザルベスがまたも目を瞠る。

 そして、それは俺も同じだった。


 蠱惑の魔女、サルファーザ。

 それはいにしえの時代、ファインデの森に幽閉された、魔女の一族の始祖の名だ。

 だが、ティアラは一体、何故サルファーザを召喚できたんだ?

 あいつが魔女の一族なはずねえってのに……。


 予想外の事に、俺もまた唖然としたまま、この先の展開を見守るしかできねえ。

 そんな中、サルファーザが、ティアラが絶対しないであろう、妖艶な笑みを見せる。


『さて。このの望み、叶えてあげましょうか。あなたは無能だと口にした仲間達に、どう切り刻まれるのかしら?』


 ぱちんと指を鳴らしたサルファーザに従うように、彼女を囲んでいた四魔将がくるりと反転し、じわりじわりとザルベスに迫る。


『だ、誰がそんな者達に!』


 あいつが慌てて仲間だった奴等に、炎の彗星(フレイムメテオ)を叩き込む。

 そこに巻き起こる炎の渦。だが──。


『何!?』


 ゆっくり、静かに炎から四魔将がゆらりと姿を見せた。

 まったくの無傷。そんな現実に、ザルベスは開いた口が塞がらない。


『あら。既にあなたの元仲間は、私の反魂リバースソウルで私の下僕よ。確か……傀儡の悪霊マリオネットスピリットは、術者の力が宿るのよね?』


嘲るような言葉に、奴の顔がどんどん青ざめ、身震いが酷くなる。


『さあ、あなた達。食事の時間よ』

『や、止めろ……』


 迫る四魔将の影に、後退りするザルベス。

 だが、この中で最も身体能力が低いのは間違いなくあいつ。

 気づけば一瞬で、さっきのティアラのように囲まれた。


『このはちゃんと、彼らを止めたわよ。さあ。あなたも頑張りなさい』

『や、止めろぉぉぉっ!!』


 瞬間、四人が一斉にザルベスに飛びかかると、術を放たせる隙も与えず、奴の四肢を噛まみ、派手に出血を起こさせ、部位を噛み千切っていく。


『ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!』


 暫し繰り広げられる惨劇と、戦場に響く悲鳴。

 唯一デルウェンだけが表情を変えず見守る中、ザルベスが仲間に殺され塵となって消えると、傀儡となっていた四魔将もまた、静かにその場から消え去った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ