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【完結】奇跡の神言《口からでまかせ》を言う盗賊のおっさんは、師匠とも英雄とも呼ばれたくない  作者: しょぼん(´・ω・`)
第七章:最期の戦い

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第七話:最期の疾駆

 俺は戦場を駆け戻りながら、戦いに目を向ける。

 どうやら俺の指示通り、アルバース達はそれぞれ自分が倒すべき八獣将と戦い始めていた。


 アルバースは漆黒の鎧を纏った怪しげな騎士と、バルダーは牛巨人ミノタウロスの化け物と激しく武器を打ち合い。セリーヌは遥か後方にいるであろう術師らしき相手と、星術で生み出した光の玉を空中でぶつけ合っている。


 アルバースは言わずもがな。バルダーやセリーヌも、十年前よりずっと強くなっているな。

 まあ、確かに十年前だからこその若さはあった。が、十年経ったからこそできることもあるしな。

 バルダーなんざ、昔と見間違うほどの笑みと実力を見せている。ったく。楽しみやがって。


 ルークの方も、騎乗したまま、同じく弓矢を持った半馬人ケンタウロスと、戦場を疾駆しながら矢を撃ち合っているが、見事に馬を乗りこなしながら、昔以上の弓術を見せているな。

 ルーク。お前はやりゃできんだ。バーテンダーとして腐ってるなんて勿体ねえんだよ。


 しかし。それぞれティアラの強化系の術がかかっているのもあり、個々の戦いはやや優位にも見える戦いだが、まだ油断はできねえか。

 まあそれでも、俺はこいつらが八獣将に負けるなんて思っちゃいねえがな。


 そして、アイリとエルはといえば、ティアラ同様早くも実力の片鱗を見せつけてやがるな。

 アイリはあいつの倍以上の一つ目の巨人(サイクロップス)とやりあっているが、すでにあいつは巨人の腕を一本吹き飛ばしてやがる。


 エルもまた、空を舞う翼人ハーピーが繰り出す鋭い棘の羽を、完全に矢で撃ち落としつつ、より多くの矢を浴びせ、相手にかなりの怪我を負わせている。

 これなら二人も予定通りに事を運べそうだな。


 ちなみにティアラに直接的に戦闘に関わらせていないのは、あいつにあまり何かを殺すトラウマを与えてもいけねえってのもあるが、この先の戦いがこいつの本番だからだ。

 あと、仲間達は互いを強化しあったりしているが、俺に一切の支援はするなと指示しておいた。

 表向きはこっちの集中力が切れるのを嫌ったって事にしてあるが、ワルにはワルのやり方があるんでな。


「サルド! 来い!」


 走る俺の呼びかけに応え、兵士達を合間を縫って、ティアラを乗せたサルドが俺に駆け寄ってくる。

 そして、くるりと横を向いた奴の背に飛び乗ると、再びティアラの後ろに座り、手綱を振り走り出す指示をする。

 嘶きと共に、サルドは俺の指示に従い走り始めた。だがそれは、前線とは真逆。王達のいる中央の師団後方へだ。


「道を開けろ!」


 走り込んでくる俺達に、慌てて兵士達が道を開ける。

 何をやってるんだという驚きを見せながら。

 確かにそう映っても仕方ねえ。だが、前線にお前達のような兵士がいるからこそ、もう俺はそっちに用はねえ。


 実は戦場までの移動中、俺はアイリ、エル、ティアラが相対する相手について、奇跡の神言(口からでまかせ)を言った。

 あいつらは今の時点で唯一、俺に最も近い強さを持っている。

 だからこそ、以前の戦略を話す際、アルバース達同様に、己の敵を見定め、八獣将を一体ずつ狩らせる話を神言した。

 だが、俺達はさらに、この三人にはその後、四魔将の内三人をそれぞれ相手にさせる策を考えたからこそ、神言をしたんだが。

 まさか、敵は前線じゃなく、奇襲でこの戦いに勝利しようと画策してやがったのを知るとは思わなかった。


 獣魔王デルウェンと四魔将の内三人を、イシュマーク軍の背後に転移させ、そのまま一気に王達を狩り取る。

 ただの奇襲じゃねえ。前線にいる実力者を差し置いて、相手方の最凶の実力者達が仕掛ける奇襲。そんなもん許せば、この戦いは一気に敗北する。


 だからこそ、俺はそこまでの時間で前線を崩し、一気に駆け戻る選択をしたのさ。

 流石に四魔将の一人が前線にいるようじゃ、他の奴等に任せるのも厳しい。

 とにかく前線はウルブス達や八獣将を倒しちまえば、後はどうにでもなる。が、残りの四魔将やデルウェンは、数で押せる相手じゃねえんだ。

 そして、こいつらを殺らない限り、この戦いに勝利はねえ。だからこそ、アイリ達の力を頼るしかねえんだ。


 この駆け戻りは疾さがすべて。

 サルドはそういう意味で頑張っちゃくれてる。だが、十年前と違いすぎる息の荒さは、こいつが命を削って走ってくれている事を実感する。


「相棒! ここだけは踏ん張れ!」

「サルド様! どうかお力を!」


 俺の激励に釣られ、ティアラも真剣にそんな願いを口にすると、奴はより一段加速する。そして、正面の王達を囲う兵士達の姿が見えてきたんだが。俺が手綱で避けるよう指示しても、奴は避けようとしなかった。


 ……まさか。本気か!?

 そう思ったのは俺だけじゃねえ。


「このままでは、ブランディッシュ王のいらっしゃる場所を抜ける事に!」


 ティアラの悲鳴のような声。

 が、俺はサルドの覚悟に自然と笑みを浮かべていた。


「サルド! いっちまえ!」

「えっ!?」


 俺の嬉々とした声に、思わずティアラが後ろを振り返る。


「いいか? 口をしっかり閉じておけ! じゃないと舌を噛むぞ!」


 彼女にそう声をかけると、覚悟を決めたのか。しっかりと頷いた彼女が正面に向き直る。

 ふん。こういう時に声を荒げず反論すらしねえ。

 ほんと、お前はいい女だ。きっと旦那になる奴は幸せもんだぞ。


「ヴァラード様! お止まりください!」


 そんな叫びが王を囲う兵士から聞こえる。

 奥に見えるブレイズ王子もはっきり戸惑った顔をし、ブランディッシュのおっさんに逃げるよう叫んでるが、流石は国王。こっちの意図を汲んで運命に身を任すか。


「いけ! サルド!」


 再び大きく嘶いた奴は、走りながらぎゅっと姿勢を低くすると、逃げぬ兵士達の前で勢いよく跳躍する。

 想像以上に高い跳躍。天高く舞う漆黒の馬に、皆が天を見上げ俺達を目で追う。

 そして、こいつは普通の馬じゃ絶対にできない跳躍を成功させると、見事に着地しそのまま師団の後方に抜けて見せた。


 師団の裏にはまだ何も……いや。

 少し先に、突如巨大な闇の塊が生まれると、そこから禍々しさをはっきり見せた、四人の敵が現れた。


 頑強な鎧を身に纏った、人より一回り大きい灰熊人グリズリアン

 盗賊に近い軽装の、怪しげな色気を放つ猫娘キャットレディ

 目に見えて闇の司祭といった装いの狐人フォクスター

 そして、鋭い目付きをした、最もやばい覇気を放っている、巨大な大剣グレートソードを肩に担いだ獅子の姿をした戦士。

 ……こいつらが、獣魔王デルウェンと配下の四魔将か。


 俺は手綱を引き、奴等と距離を置きサルドの足を止めると、ティアラを片手で抱え、さっと大地に降りる。


『ほう。布陣といい前線への奇襲といい、随分と裏を掛かれましたが、よもやこの奇襲すらも読むとは』

『ザルベス。あなたの薄っぺらい策じゃこんなものでしょ』


 狐人フォクスターが感心した顔で顎を撫でていると、猫娘キャットレディが呆れた声を出す。


『誰が来ようと、喰えばいい』


 灰熊人グリズリアンが、両腕に装備した鋼の手甲アームナックルをガインとかち合わせアピールすると。


『そう。元々策など不要。俺達の力で、全てを蹴散らせばよいだけだ』


 低い、唸るような声でデルウェンもそう口にする。


 さて。ここから先は一触即発か。

 ティアラが俺の脇で緊張した面持ちを見せる中。


「サルド。お前はここまでだ」


 俺は、後ろを振り返らず、奴に声を掛けた。


 鼻息を荒くするサルド。それは、まだやれると意気込んでいる証。

 だが、同時に大きく荒い息も隠せちゃいない。


「いいか? ここからは馬なんて要らねえ戦いだ。だから、お前はちゃんとマリナさんの元に戻り、あの人に看取られてやれ」


 俺は、心を鬼にしてそう口にする。

 そう。あの人だって、ずっとこいつが弱っていく様を見続けたんだ。

 こんな所で死んで、顔すら出せないんじゃ可哀想だろ。


「今まで、ありがとうな」


 俺の言葉にブルルっと残念そうに鳴いたサルド。

 ちらりと肩越しに目を向けると、あいつは名残惜しそうに俺を見た後、ゆっくりと向きを変え、そのまま師団に並走するように走り出す。


 ……それでいい。達者でな。

 俺は再び視線を四人に戻す。


『さて。そこの二人だけで、私達を止めようと?』


 ザルベスと呼ばれた狐人フォクスターの声で、一歩前に出た四魔将の三人は、これから始まるであろう殺戮を愉しみにした汚らしい目を向けてくる。


「おいおい。どこぞの誰かさんよ。あんたはまさか忘れてないよな? わざわざ監視まで付けた、あんた達が危惧する厄災の存在をよ」


 俺がわざとそう宣言すると、ザルベスは少しだけ目を細める。

 と、その直後。


「道を開けろ!」


 という兵士達の声と共に、師団左右の兵士達が道を開けると、そこから馬に乗ったアイリとエルがそれぞれ姿を現し、俺の脇にやってきた。


「師匠! ティアラ! お待たせしました!」

「何とか間に合ったかしら?」

「ああ。十分だ」


 馬から降りた二人は、そのまま馬を開放すると、師団の方に向け走り去らせる。


「あれが、デルウェンと四魔将なの?」

「ああ。中々にやばい気配を放ってるだろ」

「はい。僕達がさっき戦った八獣将の比じゃないですね……」


 流石に隠す気もない奴等の気配に、緊張した顔をするアイリとエル。

 ま。確かにそんな顔をするのも仕方ねえ。

 が、俺は敢えて涼しげな顔のまま、脇に立つ三人にこう声を掛けてやる。


「何。お前達ならやれるさ。なんたって俺の弟子なんだからな」


 瞬間。三人は一瞬目を瞠った後、少し嬉しそうな顔になる。


「はい! 師匠が認めてくれた腕を信じます!」

「そうね。ちゃんとここまで育ててくれた恩は返さないといけないし」

「……師匠に汚名を着せぬよう、精一杯戦います」


 ……悪いな。

 こんな時ばかり、お前達に師匠(づら)してよ。

 三人の言葉とは裏腹に、心に浮かぶ罪悪感を誤魔化すように、俺もまた表情を引き締める。


 ま、どちらにしろ、あいつらに勝ってもらわなきゃいけねえんだ。 

 その為なら、何度だって言ってやるよ。

 俺はそんな気持ちを胸に、じっとデルウェン達を見つめていた。

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