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【完結】奇跡の神言《口からでまかせ》を言う盗賊のおっさんは、師匠とも英雄とも呼ばれたくない  作者: しょぼん(´・ω・`)
第七章:最期の戦い

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第一話:内通者の未来

 俺が城に戻って二日。

 決戦まであと六日という日。

 俺はブランディッシュのおっさん、ブレイズ王子、アルバース達やアイリ達。

 そして、この国の王の側近たる面々と、軍略会議室に集まっていた。


 中央には大きなテーブル。

 そこに広げられたのは、死の戦場へと向かう山道と、その先に広がる平原。そしてデルウェンが封じられていた砦までを示した地図だ。


 それを囲うように立つ、術師隊を指揮することになっている、十年前共に戦った宮廷魔術師の老人サンドロや、宮廷神術師であり場内にある光神サラの神殿の神殿長でもある、シェレンといったお偉方。騎士団長アルバースの側近、ディバインに戦士団長バルダーの側近のザイル。さっきの二人の側近といった若手にまじり、大臣であるレムナンもいる。

 会議に必要なメンバーが揃っているのを確認し、同じくテーブル前に立つブランディッシュのおっさんが口を開いた。


「さて。昨日皆に伝えた通り。此度こたびの決戦は余が直接指揮を取る。が、そこまでの布陣、戦略は五英雄であるヴァラードに託す事にした。依存はないな」

「はっ」


 おっさんの言葉に、アルバースを始め、家臣が皆迷わず声を上げる。

 ま、一応十年前の実績もあるし、既に色々()()()もしているからな。ここで否定の声はあがらねえだろう。


「では、ヴァラードよ。まずは挨拶を頼む」


 おっさんに促された俺は、頭を掻きながら冴えない顔で語りだした。


「さて。久しぶりの奴も、初めての奴も、俺の悪名くらいは知ってるだろ。この中でもっともワルな盗賊、ヴァラードだ。よろしくな」


 相変わらずの俺の挨拶に、ニヤリとする者に呆れる者。

 それでも若い奴等は五英雄という存在相手故か。それとも三週間前に実力を見せつけたのを知ってか。緊張している奴等も多いが、まあいいだろう。


 俺はやや前のめりになり両手でテーブルに手をつくと、早速今回の決戦に対する師事を出し始めた。


 東の山脈を抜けるルートは北東、東、南東の三箇所。

 その先に死の戦場が広がり、そのより西にデルウェンの封印を守っていたはずの砦がある。

 戦場となる平原は、既に枯れ果てた土地。

 街も草木もねえからこそ、この戦場では奇襲もできねえし、兵士達がどれだけ連携を取り、相手より優位な位置を取り攻めるかが重要になる。


 が、それは普通の戦いなら。

 相手には、獣魔王デルウェンだけでなく、四魔将や八獣将といった猛者もいる。

 だからこそ、陣取りとしては、南北の兵を多めに配置し、中央にブランディッシュ王を置きつつ、王を狙う奴等を挟めるように戦う事を進言した。


 勿論、こちらの実力者も敢えて左右に配置する。

 が、相手に誰が誰と感づかれないよう、司令官たる各団長やアイリ達は皆フード付きのローブを羽織らせて、相手を混乱させることも付け加える。


「……とまあ、こんな感じだ。ブランディッシュ王やブレイズ王子には悪いが、しっかり囮として使わせてもらう。覚悟してくれ」

「構わん。余はお主に託しておるからな」

「僕も問題ございません。存分にお使いください」


 俺の言葉に二人がさらりと答えたからこそ、皆は何も言わない、かと思われた。


「本当に、このような危険な布陣で参るつもりですか?」


 そう口にしたのはレムナンだった。

 年齢相応の渋みある顔を歪ませ、俺に怪訝な目を向けてくる。

 が、俺はそれに怯むこと無くこう言い切った。


「当たり前だ。俺は勝つためなら、何でもするからな。俺に意見するって事は、王と王子の決定に背くって事だ。相応に覚悟しな」

「あ、いえ。そのような意味ではございません。ただ、王の周囲の兵を薄くするだけのリスクを背負うべきなのか。それを思案しただけにございます。失礼いたしました」


 王を盾にした事で、あいつは慌てて両手を振り、頭を下げてくる。

 ……俺の策に対する意思を確認しに来たってところか。

 ま、予定通りだ。


「いいか? 布陣については出立予定となる四日後まで、部下を含め口外するなよ。どこから情報が漏れるかもわからねえからな。いいか?」

「はっ」


 俺は敢えてそんな言葉で軍議を締めたんだが。

 さて。この後が勝負所。

 後は思う形で事が進むのを待つだけだ。


   § § § § §


 その日の夜。

 俺は一人、夜の王都シュレイドを、黒ずくめのコートを羽織り、フードをかぶったまま、静かに歩いていた。

 ま、歩いている場所は民家の屋根の上だがな。


 街の家々の合間を歩いて行く一人の男。俺はそいつを尾行している。

 そいつも俺のようにコートとフードで己の素性を明かさないよう、大通りでも明かりの少ない場所を、不自然にならないように歩いていく。

 そして、王都の囲う外壁の側で、近くの人気のない裏路地に入っていった。


「……止まれ」


 裏路地の奥に立っていた、黒尽くめのマントの男。

 その前に立ったそいつは、フードを下ろす。暗がりで見えにくいが、俺が追っていたのは間違いなくレムナン。

 そして向かいに立つ人相の悪い男。こいつがシャード盗賊団の残党だ。


「……約束の物は」

「……これを」


 レムナンが差し出した巻物を荒々しく奪った男が、巻物を開きその中身を読む。


「……上出来だ」


 巻物を畳んだ男は、すっと一枚の手紙をレムナンに差し出す。


「妻は無事か?」

「当たり前だ。とはいえ、次の戦いが終わるまでに変な真似をすりゃ、迷わず命を奪うからな。お前は何時だって監視されているってのをを忘れるな」

「わ、分かっている」

「ならいい。後は、必死に戦を生き残るこった」


 ぽんっとレムナンの肩を叩き、相手の男は裏路地を去っていくと、残された奴は、悔しさを押し殺すように、身を震わせぐっと奥歯を噛む。


 ……さて。これでこいつは俺が神言した通り、はっきりと黒。

 だからこそ、()()()()()


 暫くすると、レムナンはため息を漏らした後、フードを被り、そのまま大通りへと戻っていく。

 俺はあいつが去った裏路地に降りると、今度は奴の背を追った。


 ……ふん。確かにいるようだな。

 じゃ、まずは清掃活動といくか。


 俺は、さっきの男が口にしたであろう見張り役を、大通りの人混みの中に見つけると、静かに行動を開始した。


   § § § § §


 それから数十分。

 俺は城の一角にある、レムナンの執務室の奥で、壁に寄り掛かり立っていた。


 獣魔王の復活と宣戦布告。

 国の一大事だからこそ、最近はもっぱらここで遅くまで篭っていると聞いたからな。

 夜も更けてきたとはいえ、ここで待ってれば……。


  カチャリ


 まあ、やってくるよな。

 ランプを手に、扉を開け中に入ってきたレムナンは、内側から扉に鍵を掛けると、ひとつため息をく。


「……サフラン……私は、これで良かったのだろうか?」


 ここにいない婦人に、そんな懺悔を口にする時点で、こいつも相当参ってるか。

 まあ仕方ねえか。こいつが自発的に国を売るような真似はしねえのは、この国のお偉いさんなら誰もが知っている。

 こいつなりにずっと苦しんでいるんだろうしな。


「ま、良くはねえだろうな」


 俺が代わりに返事をしてやると、はっとしたレムナンが俺に向けランプを向けた。


「ヴァ、ヴァラード殿……」


 暗がりの中、淡く照らし出された俺を見て、目を丸くするあいつに、俺はゆっくりと歩み寄る。


「婦人を人質に取られたとはいえ、そのせいでシャード盗賊団の残党に手を貸し、獣魔王デルウェンの封印を解く手助けをして。更にはこっちの布陣や戦略を内通する。ま、本来なら許されねえよな」

「な、何を急に──」

「俺が何も調べずにこんな事を言うと思ったか? お前があいつらに情報を渡した見返りに、手にした婦人からの手紙。それだって十分な証拠のひとつなんだがな」


 冷たくそう言い放つと、奴も勘付いたんだろう。大きなため息を漏らす。


「……やはり、五英雄を騙せなどしませんか」

「いや。俺がずる賢いだけだ。アルバース達なら騙し通せただろうさ」


 俺がふっと笑ってやると、奴は辛そうな顔で歯を食いしばった後、天を仰ぐ。


「……すまない。サフラン」


 懺悔をしたレムナンが、覚悟を決めた顔で俺を見る。


「ヴァラード殿。何を言っても罪は逃れられません。どうか、私を国王の前に突き出し、罪を問うてください」


 哀しき決意の先には、婦人の命が奪われる未来を感じているんだろう。

 この事が公になりゃ、シャード盗賊団の監視役に気づかれる。そうなりゃ婦人の命はねえもんな。


 とはいえ、目の前にいるのは、奇跡の神言(口からでまかせ)を言う男。

 思い通りにはさせねえけどよ。


「おいおい。決戦の為に城を出る前には、サフラン夫人に逢えるってのに。随分としけた面してるな」

「え?」


 あまりに突拍子もない事を口にされ、レムナンが目を丸くする。

 そんな奴に対し、ニヒルに笑った俺は、この先の未来を口にしてやった。


「いいか? お前が情報を与えた奴は、隠れ家に向かわずそのまま獣魔軍に情報を回しに行き、そこで情報だけ取られ、奴等に命を奪われる。監視役は悪いがとっくに始末したし、既に婦人を助け出す為に、裏で兵を動かしてある。これで、獣魔軍は()()()()を掴み、俺は優位に戦いが進められるって訳だ。これも全てあんたの手柄。上出来さ」


 そう言って肩をぽんっと叩いてやると、あいつは涙目になっていく。


「……ほ、本当に、妻は無事戻って来るのですか?」

「当たり前だ。ついでに戦いにしっかり勝ちゃ、ブランディッシュ王もお前を多少の罪に問うたとしても、死罪になんざしねえよ。あの人は、愛する人を失う哀しみを知ってるからな。だからあんたも、決戦でちゃんと力を貸せ」

「……はい……ありがとうございます……」


 俺の手を掴み、感極まり震えたまま頭を下げるレムナン。

 ……ま、この件はこれでいい。後は人情味あるおっさんに任せるとするさ。

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