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【完結】奇跡の神言《口からでまかせ》を言う盗賊のおっさんは、師匠とも英雄とも呼ばれたくない  作者: しょぼん(´・ω・`)
第五章:十年

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九話:十年の差

「馬鹿も休み休み言え。バルダー。お前はアルバースと共にアイリを鍛える事になった時、こいつの怪力を知って、()()()大剣グレートソードを薦めたよな?」

「……え?」


 椅子に座り項垂れていたアイリが、思わずバルダーの顔を見た。

 奴はといえば、図星と言わんばかりに、目を皿のようにしてやがる。


「こいつを鍛える前、アイリの実力を確かめるた為にバルダーは剣を交えたんだが。その時直感的に感じたんだろ。『こいつは俺より強くなる』ってな。だが、それはこいつのプライドが許せなかった。最強の五英雄と謳われ、ちやほやされてきたんだ。それがぽっとでの若い、しかも女に脅かされる。そんなのありえねえってな」

「お前。何口から出まかせを──」

「言ってるぜ。その意味、わかるよな?」


 必死に口答えをしようとするバルダーにそう声を掛けると、あいつは視線を逸らし、苦虫を噛み潰したような顔をする。


「アイリ。お前が奴の元で腕を磨く際、こう言われたろ? 『お前の馬鹿力なら、大剣グレートソードも片手で扱えるだろ。それで戦う所を見せりゃ、予想外の事に相手も畏れ慄く。相手を萎縮させりゃこっちの勝ち。お前にとっちゃ最高の武器だ』ってよ」

「は、はい。確かに、そう言われました」

「確かにそれは間違っちゃいねえ。だが、それが同時にお前の枷になってるんだよ」

「ど、どういう事ですか!?」


 俺の言葉で生気が戻ってきたアイリが、食いつくように尋ねてくる。


「いいか? お前が俺に勝てなかった理由。それは疾さだ」

「疾さ、ですか?」

「ああ。お前は確かに力があるし、大剣グレートソードをまるで両刃剣バスタードソードのように扱えている。が、逆を言えば、まるで両刃剣バスタードソードレベルでしか扱えてねえんだよ。もしお前が両刃剣バスタードソードを手にしていたら、武器の重量差でより鋭く、より疾い剣捌きができたはずだってのに」

「ですが、それでは威力が落ちるのでは?」

「あのなあ。お前の馬鹿力で振るうんだぞ? それこそ大剣グレートソードなんざ振るわなくても十分威力を出せるだろうが。大体重さで威力を出そうとした所で、とろい剣じゃ当たらねえ。なら、多少軽くても疾い攻撃をした方がいいに決まってるんだよ」

「言われてみれば、確かに……」


 呆れながら指摘した俺の言葉から何かに気づき、神妙な顔で考え込むあいつは置いておき、俺はそのまま語り続けた。


「ルーク。お前もだ。折角お前が弓を教えておきながら、何で絶対衝撃アブソリュート・インパクトを教えてねえんだよ。あれを使いこなせりゃ、こいつはもっと鋭く疾い矢を放ててただろ。」

「そりゃ、あれは俺の奥の手──」

「嘘は要らねえよ。まだ冒険者をしていた頃のお前なら、迷わず教えていただろ。お前はそれくらい面倒見がいい奴だからな。だが、お前はエルに()()した。その才能と立場に」


 俺の言葉に、ルークもまた目を泳がせると、何かを誤魔化すように、渋い顔でガシガシと頭を掻く。


「師匠。どういう事なの?」

「あいつは見ての通り、片足を失い冒険者降りざるおえなくなった。そして、国の一大事である戦いにも参加できず、仲間は英雄となり、自分だけ取り残された。そんな劣等感を持っていた奴にとって、お前の才能は眩しすぎたんだよ。そして、バルダー同様気づいたのさ。こいつは大成するってよ」

「私が?」

「ああ。だがあいつは、自分ができなかった事を成し得るほどの才能を見て嫉妬した。だからこそ、全てを教えなかったんだよ。自身が教えた技で、お前が活躍するのが悔しくてな」

「……ったく。そこまで口にできるのかよ」

「まあな。ま、諦めろ」


 ため息をいたルークに笑ってやると、俺は仲間達を改めて見た。


「いいか。アルバース。バルダー。アイリを正しく鍛え上げろ。ルークはエルを。そして、ティアラは勿論、セリーヌがだ」

「……はん。ふざけるな」


 俺の指示に、ぺっと地面に唾を吐いたバルダーが俺を睨む。


「確かにお前のでまかせは凄えがな。俺はお前とは違う。万が一の有事に備え、この国で多くの兵士を育て、自分の腕も磨いてきたんだぞ。だがお前はどうだ。ティアラから聞いたぞ。この十年、森でのうのうと暮らしてただけだってよ」


 ……のうのうと、ね。

 ティアラはそこまで言わねえだろうが、お前から見りゃ、そういう気持ちにもなるだろうな。


「さっきの腕前程度なら、俺だってお前に余裕で勝てる。平和ボケして、ただ口だけ達者になったお前の言う事なんて聞けるか」


 吐き捨てるようにそう言い切ったあいつは、不貞腐れたままそっぽを向く。

 へこたれるなとか手を貸せと言いながら、この言いよう。よっぽどプライドに障ったか。

 ……ま、いい。それなら話は簡単だ。


「……じゃ、俺がお前より強きゃいいんだな?」

「ああん?」


 俺の一言が気に入らなかったあいつが、眉間に皺を寄せ俺を白い目で見てくる。


「立てよ。バルダー。お前は自分で口にしたんだ。強い奴になら従うってな。エル。下がってろ」

「え、ええ……」


 戸惑いながら立ち上がったエルは、そのままアイリ達の元に去っていく。

 そして入れ替わるように、やれやれといった顔で、バルダーは立ち上がり、俺の前に立つ。

 厚い鎧に柄の短い巨大な戦斧バトルアックス

 ま、ちゃんとした装備をしてるんだ。ハンデなしでいいだろ。


「十年間のうのうと暮らしてた奴が、俺に楯突くのかよ」

「……ああ。そうだ」


 俺はそう言いながら、まず腕に付けた腕輪を床に落とす。

 ドスンという音。その重々しい音に、ぴくりとバルダーが眉を動かす。


「この国で、最も危険と言われるフォレの森。その側に家を構え、毎日のように森に入り、目についた魔獣を、メリナを殺された恨みをぶつけるように、ひたすらに狩った。森の中で見つけたダンジョン。そこにたった一人で何度も潜り、魔族や魔獣を狩りながら、何ヶ月もかけ最深部まで踏破して、古代魔術具レアアイテムを手に入れた。……俺はそんな虚しさばかり残る事を繰り返しながら、ずっと独りで暮らしてきた」

「ヴァラード様……」


 感傷的になったのか。切なげなティアラから俺の名が漏れる。

 それに答えず皮の胸当てを外すと、こいつもまた見た目に反し、落ちた瞬間どしゃっと重い音を立てた。


「今更強くなってどうする。古代魔術具レアアイテムなんて手に入れてどうする。そんな鬱々とした気持ちを抱えながら、同時に腹黒い俺は考えた。もしメリナの施した封印を解けば、あいつの仇を討てるんじゃないかと。だが、あいつが齎した平和を壊してどうする。そんな気持ちとの板挟みに遭い、結局踏み止まった。そうやって、何度も何度も意味なく葛藤を繰り返し、やり場のない気持ちを胸に、また森に入っては己を危険に晒し。俺はこの十年、お前が言う通り、のうのうと暮らしてきたのさ」


 腰に巻いたベルトの一本を外す。

 三度届いた重々しい音に、バルダーの目が大きく見開かれる。


「バルダー。確かにお前の言う通り、俺とお前の十年は違う。平和な王都を満喫し、英雄なんて言葉にしがみつき、育てるべき奴を生半可に育成したお前とはな。……俺は、メリナを護れもしなかったのに手にした、英雄なんて意味のない名声に興味はねえ。あいつの仇を討ちたいと願い、そんな未来が来ちゃいけえねえと思いながら、意味なく牙を磨き続けた、ただのワルな盗賊だ。お前はそんな俺より強いと言い切った。だから、俺はお前に全力で剣を振る。アイリの時みたいに寸止めなんざしねえ。……受け損ったら、死ぬと思え」


 己の鍛錬の為だけに課したおもりを外し、身軽になった俺は、ただ酷く冷たい殺意を込めた目をバルダーに向けると、改めて腰から短剣ダガー小剣ショートソードを抜き、静かに構えた。


 バルダーもまた、無言のまま戦斧バトルアックスを両手で構える。

 表情にあるのは、殺意を感じての緊張。だが、それを押し返す威圧感は皆無。

 ……昔のお前は、こんなもんじゃなかったろうが。

 強い奴にギラギラとした瞳を向け、愉しげに挑みかかる。

 まるでアイリのような反応をしてやがった癖に。丸くなりやがって。


「……いくぜ」


 敢えてそう宣言してやると、ふうっと息を吐いた直後、俺は奴の顔めがけ、短剣ダガーを投げ、同時に瞬く暇すら与えぬ神速で、一気に踏み込む。

 周囲に落ちた矢を全く跳ね上げる事もなく、音もなく疾駆した俺は、あいつが斧で短剣ダガーを弾くのと同時に、背後に回り込むと背中を斬りあげた。


  ガキィィィィン!


 刹那、響き渡る金属同士がかちあう音。

 バルダーは振り返る事すらできちゃいねえ。

 が、代わりに俺の一撃を止めたのは、魔防の盾マジックディフェンダーでその背を守ったアルバース(奴の仲間)だった。


「な……」


 意味をなさない声を漏らし、ただ茫然とするバルダー。

 ま。間違いなく奴は、俺を目で追えなかっただろ。俺はそれくらい本気だったからな。


 そして同時に、何が起きたか分からなかったであろう周囲からも、「おお……」と感嘆の声が漏れる。


「おい。何で邪魔をした?」

「本気の殺意を感じたんでな。ここで仲間を失うのは、パーティーの盾として失格だ」


 俺の冷たい問いかけに、飄々と答えるアルバースは、細い目を少しだけ開くと、にっこりと笑う。

 

 あの疾さに付いてきて、しっかり間に割って入ったアルバース。

 やはりお前は鍛錬を怠らず、ここまで生きてきたか。

 そして、バルダーの気持ちを知って、あいつも俺と同じ事に気づきながらも、敢えてそれを指摘せず、あいつとしてできる限りの技を教えたんだろ。

 

 流石。頼りになる聖騎士であり、優しきリーダーだよ。


「……ったく。つまんねえなあ。邪魔が入るとか興醒めだろ。止め止め」


 ニヤリと笑い返した俺は、やれやれと両手を上げると武器を仕舞う。


 まあ、正直こいつなら割り込んでくると思ったけどな。

 そんな予想が当たったのに満足した俺は、未だ立ち竦むバルダーに目をやったんだ。

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