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【完結】奇跡の神言《口からでまかせ》を言う盗賊のおっさんは、師匠とも英雄とも呼ばれたくない  作者: しょぼん(´・ω・`)
第五章:十年

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第八話:期待外れ

「……ええ」


 アイリとの戦いを見た後だ。

 立ち上がったエルにも、色濃い緊張が伺える。

 それでも、あいつはゆっくりと広場へと歩き出す。


「アイリ。参りましょう」

「……師匠。ありがとう、ございました」

「ああ」


 ティアラに肩を借り、顔を上げる事もできずに、力なくゆっくりと退場するアイリ。

 ……だが、顔に浮かんでいたのは悔しさ。


 なら大丈夫だ。

 こいつはちゃんと、強くなれる。


 未来ある若者の心意気に、内心安堵しながら、俺は表情を変えず、新たな若者に向き合う。


「さて。エル。お前にも勿論、俺を殺す気で来てもらうが、俺が体術で張り合ったんじゃつまらねえ。だからこうするか」


 そう言うと、俺は小剣ショートソードを俺の前後左右で振い、広場の地面に俺を囲うように四角を描き出す。


「おい。誰かエルの側に、演習用の矢筒を置いてやれ。勿論用意する矢は実戦用の奴を百本きっかりだ」

「……ディバイン。頼んでもいいか?」

「は、はい! みんな、行くぞ」

「はい!」


 アルバースの頼みで、ディバインとその仲間が地面に立てる矢筒を二つ置き、そこに矢を五十本ずつ入れていく。

 それと合わせ、俺の側に落ちたアイリの武器と盾も、しっかり引き揚げられた。


「これが私が攻撃を仕掛けられる数。そして師匠はそこから出ないでそれを避ける。合っているかしら?」

「半分はな」


 準備を待ちながら状況を確認してくるエルに、俺はそう口にすると、丁度準備を終え、ディバイン達が離れた矢筒に短剣ダガーを投げつけた。

 それが見事に矢筒に刺さった瞬間、その場から短剣は消え去り、周囲の奴等がどよめく。


「以前ガラべ戦で見たかもしれんが。こいつは無限の短剣インフィニティ・ダガーって言ってな。投擲者の意思で手元に戻せる便利な古代魔術具レアアイテムだ。お前が隙を見せたら、俺は迷わずお前をこれで狙い打つから、その覚悟はしておけ。

お前が俺に一度でも矢を掠めさせ、傷を付けたら勝ち。できなきゃ負けだ。勿論、矢が尽きる前にお前が怪我をし、動けなくなってもそっちの負けだからな」

「……わかったわ、師匠」


 表情にある迷いを、青いポニーテールを後ろに払うと同時に捨てた奴は、左手に弓を手にすると、立てている片方の矢筒から、自身の背と腰の矢筒に丸々移す。

 わざわざそこまでするって事は、あいつはちゃんと、機動力を駆使し仕掛けてくる意思表示、か。


「周囲の奴等は流れ矢に気をつけろ。野次馬するのは構わんが、死んでも知らねえからな」


 あいつから視線を逸らさず、そんな忠告をすると、周囲から「どうする?」と言ったひそひそ声がする。

 ……そんな事で迷ってたら、戦場じゃ命取りだってのに。

 まあいい。今は稽古に集中だ。


「エル。好きに始めてくれ」


 俺の言葉に頷いたエルは、静かに一本の矢を手にし弓に番えると、弦をぎゅっと引き絞る。

 その姿勢で構えたまま、矢が急に突如雷光を帯び迸りだした。

 ほう。雷撃射ライトニングアローか。開幕から本気を感じるいいチョイスだ。で。どこを狙う?


 俺は矢尻の向き先を見ながら、その軌道を読む。……肩か。まずは本気の小手調べって所だな。

 避けりゃ、背後の兵士達に被害が出るか。


「行くわ!」


 そんな思案をしていると、叫びと共にあいつは一気に俺の側面に展開し、そのまま雷撃射ライトニングアローを射った。


「エル!?」

「何やってやがる!」


 予想外の声を上げたのはルークとバルダー。

 ま、そりゃそうだ。エルと俺を結んだ先。俺の背後にいるのは、ブレイズ王子や仲間達だからな。


 受けなきゃ背後の奴等が危険に晒されるか。

 面白え!


 俺めがけ放たれた矢を、俺は小剣ショートソードで強く弾きあげた。刃が触れた瞬間、放電したような光がすっと消え、くるくると天に舞うと、そのまま重力に引かれ地面に落ちる。

 

 残念ながら、射手が矢に乗せる効果は魔力を使う。つまり術と特性は同じであり、だからこそ無の解放(リリース・オブ・ゼロ)で掻き消える。


「くっ!」


 俺の小剣ショートソードの効果を察したんだろう。少しだけ歯痒そうな顔をしながらも、あいつはその位置を維持しながら、技を惜しむ事なく、連続で矢を射続けた。


 普通の矢を素早く正面から、時に頭上に流星射メテオショットを放って俺を多角的に狙い、合間に雷撃射ライトニングアロー激流射(ハイプレッシャー)を射る。

 通常の矢の素早い連射で、大技の溜め時間を作り、隙を見せないようにする。その考え方は見事だ。

 だが、そこには俺が望むだけの疾さが足りてねえ。


 最初の内は、敢えて手にした短剣ダガーで普通の矢を、小剣ショートソードで魔力の乗った矢を、素早い剣技で叩き落としていたんだが。結局物足りなくなった俺は、合間に短剣ダガーを投げ、途中で矢を落とし始めた。

 流石に全てを短剣ダガーを投げて落とすのは無理だが、この程度なら合間で十分合わせられる。

 何よりあいつは結局背後の奴等を利用し、ほぼ俺の正面からしか仕掛けてねえからな。


 バラバラと俺の周囲に落ちていく矢。

 だが、どれも未だ俺の身体に触れる事はない。

 そして、最初の五十本が底を突き、一旦エルの攻め手が止まった。


「……ここまで、凄いのね。師匠は」

「そりゃどうも」


 軽く汗を拭いながら、エルは冷静な表情のまま、再び矢を補填すべく、立てた矢筒の元に戻って行く。


「す、すげえ……」


 なんて野次馬の声が兵士達から漏れ聞こえる。

 どっちに掛けた声かは知らんが、この程度で驚いてたら、この先が思いやられるぞ。


 さて。今の所、エルは()()を見せちゃいねえが、奥の手にしてるのか? それとも……。


 暫しの休戦に、俺はあいつの実力を測る。

 確かに今でも十分実力はある。が、それはあくまで()()()としてだ。

 俺が望むのはもう一つ上の世界。

 アイリは残念ながら、そこに届かなかった。ま、理由は分かってるが。

 そしてエルもまた、物足りない結果しか出せていない。


 ……期待外れ。

 何となく、俺の勘がそう告げる。

 そして、それは現実となった。


 今度は俺の周囲を動き回り、全方位から仕掛け始めたエル。

 だが、多少の疲労もあるだろうが、矢の本数が減ってきた焦りもあってか。何とか状況を打破したいと、魔力を乗せた大技が増えていく。

 確かに、受けさせるならそれはあり。

 だが、手数が減れば、こっちに余裕を与えるだけ。


 結局、そこまでの間に放たれた矢を全て落としながら、俺は残り本数が心許なくなる頃合いを狙って、曲芸を繰り出した。


 雷撃射ライトニングアロー小剣ショートソードじゃなく、短剣ダガーで強く弾き上げた刹那。俺は矢尻がエルを向いた瞬間またも短剣ダガーで弾き、流れで短剣ダガーを鋭く投げ付ける。


 雷撃射ライトニングアローは駆け抜けようとしたエルの進行方向に対し、疾さと威力をそのままに飛んでいく。


 矢返し(カウンターアロー)

 前衛の技術ながら、普通はまず覚えも使いもしねえその技を、俺はエルに見せつけてやった。 


「えっ!?」


 予想外の反撃に、咄嗟に踏み止まり、矢の直撃を避けたエルだったが。同時に放たれた短剣ダガーまでは意識できなかったんだろう。その刃があいつの頬を掠め、すっと傷を作る。


 ……俺にとっちゃ狙い通り。

 つまり、俺はあいつを殺せた。

 そんな落胆を乗せた白い目をエルに向けると、あいつの顔が悔しさに歪む。


「残り五本って所か」


 手元に短剣ダガーを戻しつつ、俺が決着へのカウントを伝えると、ぎりっと歯軋りしたあいつは、弓にその五本全てを同時に番えた。

 そして。


「まだ!」


 悲壮感と共に、あいつは一気に俺との距離を詰め駆け込んでくる。

 ……ふん。もう少し早くそれを選択すりゃ良かっただろうが。びびってたな。


 そう心で愚痴を言った俺は、素早く地面に伏せると、目の前に落ちた多くの矢の下に小剣ショートソードを差し込み、剣を勢いよく剣を振り上げた。

 あいつの突貫を邪魔するように、派手に跳ね上がり舞い散る矢の数々。

 それに思わず目を瞠り、視線を奪われた瞬間。俺は覇気を乗せ、小剣ショートソードで空を一閃した。


 魂の一閃(ソウルブレード)

 本来の刃以上に伸びた、まるで長剣ロングソードのようなオーラが、舞い上がった矢ごと、エルが構えた弓を真っ二つにする。


「あ……」


 持ち手と弦を同時に斬られ、番えていた矢が地面に落ち。戦いの終止符が打たれたと知ったエルは、茫然としたまま、力なく両膝を突いた。

 

「……ったく。情けねえなあ」


 静まり返った広場で、俺は腰に短剣ダガー小剣ショートソードを戻すと、ひとりそんな事を口走り頭を掻く。

 が、これは別にアイリやエルに言ったもんじゃねえ。

 こいつらには十分に素質があるし、まだまだ強くなる伸び代がある。

 そう。伸び代があるってのに、この程度で()()()()()()()()()()事に愚痴っただけ。


 俺は静かに向き直る。

 こいつらを、この程度の実力に留めた元凶に。


「バルダー。ルーク。お前達はどれだけ器が小せえんだよ」

「は? 何言ってやがる。負けたのはこいつらの実力だろうが」

「そうだ。二人がまだ未熟だった。それだけじゃないのか?」


 説教くさい俺の口調に、カチンときた二人が怪訝な顔をする。

 が、もう俺の言葉は止まらなかった。

 アイリとエルには、もっと強くなってもらわねえといけねえからな。

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