第五話:言うは易し
王との謁見の日。
俺は普段と変わらず、露骨に盗賊らしい装備のまま、悪びれない様子でシュレイド城にやって来た。
露骨に怪しい姿のせいか。
衛兵達が怪訝な顔をするも、アイリ達も一緒なためか。咎められる事も特になく、堀に架かる橋を渡り城門を潜る。
城に入り、応接間に向かう途中、久々にディバインとその部下とすれ違った。
とはいえ足を止める事もなく、互いに少し視線を交わすだけ。
とはいえ、露骨に敵意を見せる部下と違い、少しだけ悔しそうな顔をしながらも、俺達に頭を下げたのには少し驚かされたな。
ま、それでもあの日の結果に納得などしちゃいねえだろうが。
結局、奴等にとっちゃ、俺は卑怯者だからな。
そんな招かれざる客としての視線を浴びながらも、俺は気にかける事なく歩き続け、アイリ達と一緒に応接間の豪華な扉の前に立った。
コンコンコン
「誰だ?」
「アイリにございます。ヴァラード様をお連れしました」
扉の向こうから聞こえた威厳ある声に、真剣な声でアイリが言葉を返すと。
「そうか。入りたまえ」
落ち着いた声で俺達の入室は許可された。
「失礼致します」
挨拶と共に扉を開けると、豪華極まりない広い部屋の奥のテーブルに腰を下ろす、王冠を被り、白髪のオールバックに髭を生やす、威厳しか感じない懐かしい男と、脇に座るブレイズ。その背後に立つ緊張したアルバース、バルダー、セリーヌの姿があった。
ブレイズやセリーヌは、たった三日で姿を見せた事に、露骨に不安そうな顔をしていたが、俺の平然とした顔を見ると、ほっと安堵の顔になる。
アルバースやバルダーの方も、緊張した面持ちのまま、じっとこちらに視線を向けてくる。
アイリ達に続き部屋に入った俺は、閉めた扉の脇に逸れ待機するアイリ達をそのままに、一人部屋の奥まで歩いて行くと、テーブルを隔て国王達と対峙した。
落ち着いた、しかし眼力のある視線を向けてくる男。
こいつこそ、ブレイズの父であり、この国の国王、ブランディッシュだ。
「久方ぶりだな。五英雄、ヴァラードよ」
「……ふん。改まるのはなしだ。ブランディッシュのおっさん」
「お、おい! ヴァラード!」
敢えて生意気な口を聞いてやると、慌ててそれをバルダーが咎めようとする。が、国王はそれを片手を挙げ制するとにやりとし、お堅い表情を崩す。
ま、十年前から裏の関係を持っている俺達だからこそ、これが許されるんだがな。
普通ならとっくに首が飛んでるぜ。
「ふん。やはりお主はそうでなくてはな」
「ありがとさん。で、俺に力を借りたいと聞いたが。盗みでもすりゃいいか?」
「回りくどい話は止めよ。アルバース達から話は聞いておるだろう?」
「まあな。だが、あんたはどこで俺の奇跡の神言を知ったんだ? 直接あんた達に話した記憶はないんだが」
俺は、答え合わせをする為、敢えてそんな質問をする。
まあ、どうせ……。
「メリナの遺した手紙からだ」
……そんな事だろうと思ったよ。
メリナ。お前はどこまで俺を売り込む気だよ。ったく。
「メリナが『デルウェンが復活したのであれば、ヴァラードの口からでまかせを頼れ』と書き残していてな。とはいえ、その真意が分からず、アルバース達を問い詰めたのだ」
「それで口を割ったのかよ。お前らしくないじゃねえか。アルバース」
「済まないとは思ったが、メリナに応える為だ。勘弁してくれ」
皮肉を込めたツッコミは、あいつらしい温和な返しで相殺される。
ま、この辺りは予定調和。気にする事でもねえ。
「はいはい。で、おっさんもブレイズも、俺が話す奇跡の神言を信じれらるってのか?」
俺の問いかけに、流石の国王も笑みを潜め、真剣な顔をする。
「無論だ。国の命運がかかっているのだ。救いの手となるものを信じぬ訳にはいくまい」
「僕は十年前、ヴァラードさんと知り合ってから、あなたの優しさを見習いここまできました。謂わば人生の師でもあるあなたの神言、信じます」
一人余計な考えを持っている奴がいるが、 二人の真摯な言葉にゃ感服する。
……が。
「そうか。じゃ、この話はなしだ」
俺は冷めた目で二人にそう告げると、くるりと背を向けた。
「ちょ、ちょっと待って下さい! 師匠! どういう事ですか!?」
「国王も王子も、あなたの言葉を信じると言ってくださったじゃない!」
流石に横暴と感じたのか。慌ててアイリとエルが俺の前に立ちはだかり、部屋を出るのを必死に止めに掛かる。
唯一ティアラだけは、その場を動かず、こちらを真剣な顔で見つめてくるだけ。
「ティアラ。お前は理由を分かってそうだな」
「え?」
俺があいつに笑いかけてやると、アイリとエルは驚いて彼女に振り返る。
ティアラは俺達の視線を受けると、静かにこう答えた。
「お二人が、簡単にヴァラード様を信じた為、でしょうか」
「そういう事。十年前に『メリナの亡骸は絶対に故郷に持ち帰る。それを許さねえってなら、盗んでもだ』と言い切って、あの墓碑に埋葬させなかった男だぞ。それをあっさり信じるなんて言われちゃ堪らねえよ」
「え!?」
ふっ。
流石のティアラも、これには驚いてくれたか。
最近こいつは落ち着いてばかりいたからな。たまにはこういう顔を見とかねえと、面白くねえ。
敢えて驚きに答えは返さず、俺は再び国王達に向き直る。
「いいか? 俺は十年間この城に尽くした、後ろの部下とは違う。十年間何かに属す事なく一人で生きてきた、ただの悪な盗賊だ。お前達はそんな奴を簡単に信じ過ぎだ」
「ですが! ヴァラードさんのお力を信じずにどうしろと言うんですか!?」
俺が呆れながらそう口にすると、ブレイズが思わず身を乗り出し抗議する。
ま、その通りではあるんだがな。
「それは最もだが。じゃあ、俺が信じられないような事を口走った時、迷わず信じられるのか?」
「信じねば始まらぬのなら、信じるのみ」
ブランディッシュのおっさんまで真顔でそう口にしたが。こりゃちゃんと経験させねえと分からねえようだな。
「ほう。じゃ、ここからの話、平然と受け入れてみろ」
俺はそんな二人を前に、この国の為を思い、奇跡の神言を語り始めた。
勿論、悪らしく、嘘偽りも混ぜてな。




