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【完結】奇跡の神言《口からでまかせ》を言う盗賊のおっさんは、師匠とも英雄とも呼ばれたくない  作者: しょぼん(´・ω・`)
第三章:覚悟

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第四話:それぞれの理由

 あの後、一通りアイリ達の着替えが済んだ所で、俺は順番に二人を俺の部屋のベッドに寝かせ、額に濡れタオルを乗せ、身体に毛布をかけてやった。

 凍傷の危機は去ったにしても、結局風邪を引いたような熱がある。今晩はこのまま安静にしとかないといけないからな。


 ティアラには休むように告げ、俺は薄暗い部屋の中、徹夜で彼女達の看病をした。

 彼女も手伝うと譲らなかったが、流石に旅の疲れに術による疲労もある。体力だけなら俺の方があるし、職業柄夜にも強いからな。


「こいつらのためにも、俺達が同時に倒れる訳にはいかねえんだ。朝になったら交代する。だから、ここは我慢しろ」


 そんな真っ当な理由を話し、彼女には渋々納得してもらって、今この部屋には俺だけが残っている。

 定期的に薪を焚べ、暖炉の火を絶やさないようにし、額のタオルを変えてやる。


「……し、しょう……」


 タオルを変えた瞬間。アイリがうなされながら、そう口にする。

 何となく、それが誰に向けられた言葉かを理解し、俺は少しだけ奥歯を噛みつつ、静かにその場から椅子に戻り、腰を下ろす。


 ……ったく。何でこんな雪の中、わざわざ俺達を追ってきやがったんだ。

 折角助けてやった命を、ここでみすみす捨てる気だったのか?

 そんな愚痴が頭に浮かぶ。が、それは今考えても仕方ないこと。

 俺はふうっと息を吐くと、ランタンの灯りに照らされる二人の寝顔を見た。


 その内、心の中に生まれたのは、ちょっとした葛藤。

 その感情は少しずつ大きくなり、鬱々した気持ちが膨れ上がる。

 が、それらを吐き出す先もなく、俺は感情をごまかすように、薄暗い部屋の中、ただ静かに二人の介抱を続けた。


 ──どれくらいの時間が経っただろうか。

 多少ぼんやりとした頭に、僅かに扉が軋む音が届き、静かに視線だけをそっちに向ける。


「……起きていらっしゃったのですか?」


 できる限り静かに扉を開け、顔を覗かせたティアラは、俺がじっと見ていたのに気づき、少しだけ驚きを見せた。


「そりゃな。それより、まだ三時半じゃねえか。起きるには早いだろ?」

「そうなのですが……」


 静かに部屋に入り、扉を締めたあいつは、おずおずとそう口にすると、俯き申し訳無さそうにため息を漏らす。


「二人が心配で寝付けなかったか?」

「……申し訳ございません」

「……同郷の仲なら仕方ねえさ。立ち話もなんだ。座れ」

「はい」


 俺がそう促し、側にあった椅子を脇に並べると、ティアラはゆっくりとそこに腰を下ろす。


「病状は……」

「凍傷は回避できているし、残った風邪も、こいつらならすぐ治る。心配いらねえよ」


 俺が気を利かせ、安心させるようにそう言葉にしたんだが。


「では、何故そのようなお顔をなされているのですか?」


 あいつは俺に不安そうな顔を見せながら、そんな事を口にした。

 ……ったく。俺は盗賊だってのに。感情すら隠せてねえのかよ。

 やれやれ、と俺は自身に呆れ首を振ると、ティアラに自嘲してやった。


「……何。大した話じゃない。こいつらがこうなったのは、俺のせいじゃないかって思っちまっただけだ」

「そんな。貴方様は、何も間違ったことはしておりません」

「かもな。だが、俺がわざわざあいつらに逢いに行こうとしなきゃ、結果こんな事にはなっていないだろ?」


 後悔をため息に変え、俺は言葉を続ける。


「……俺はこの十年、できる限り、人と深く関わるのを避けてきた。ハイルの村やサルドの街なんかにたまに顔を出すが、そこの奴等との付き合いだって、良い人ぶった上辺うわべだけ。だからこそ、ある程度割り切れはする。が。お前達みたいに踏み込んでくる奴と接するのは、今でも正直怖い。こいつらやお前も、メリナみたいに、俺より先に死ぬんじゃねえかってな」

「そんな……」


 そう口にしながらも、言葉に詰まるティアラ。どんな声を掛けるべきか、分からないって顔をしてる。


「……悪い。困らせるつもりはなかった」

「……いえ……」


 俯き、少し哀しそうな顔をする彼女をそのままに、俺はぼんやりとランタンの灯りを見る。


「……きっと、褒めてやるべきだったよな」


 その言葉に、ティアラがこっちを見たような気がするが、俺は視線を向けはしなかった。


「アイリもエルも、助けた日に掛けた言葉だけを信じ、心の支えとしてここまで来た。それなのに、俺に口にされたのは、褒め言葉どころかダメ出しだけだ。ほんと、ろくでもないったらありゃしねえ。こんなんだから、俺は師匠なんかにゃ向かねえんだよ」


 吐き捨てるように、そんな情けない言葉を口にした俺が、何処か鬱々としながら、ぼんやりとしていると。


「……二人が、何故ヴァラード様を師匠と呼ぶか、知っておりますか?」


 ティアラがそう尋ねてきた。


「俺が口にしてやった言葉で強くなった。それが理由じゃねえのか?」


 俺がそう返すと、あいつは静かに語り出す。


「それもございますが、もうひとつございます」

「他に何があるってんだ?」

「お二人は、助けていただいた貴方様のお名前を聞かずに別れた事を、子供ながらにとても後悔なされておりました」


 ちらりと横目でティアラを見ると、とても優しそうな顔で、アイリ達を見る目を細めていた。


「そこで、お二人はこう決めたのです。命の恩人であり、成長の橋渡しをしてくださった貴方様を、師匠と呼ぼうと。名を知らずとも、ヴァラード様への尊敬の念を忘れないように、と」

「……ったく。馬鹿な奴等だ。こんな奴を尊敬だなんてよ」


 自然と自嘲した俺もまた、あいつらに顔を向ける。

 静かな寝息を立てている二人は、未だ目を覚ましてはいない。


「……ティアラ。あいつらは何故、ここに来たと思う?」

「……あくまで憶測にございますが。ひとつはディバイン様の代わりに、ヴァラード様を説得に。そしてもうひとつは、貴方様に謝罪しに、でしょうか」

「そんな所だろうな。……なあ。俺は、こいつらに応えてやるべきだと思うか?」


 正直自分でも、ティアラを困らせる酷い質問をしたと思ってる。

 だが、あいつは俺に向き合うと、こいつらしい真摯な答えを返してきた。


わたくしは、アイリやエルの過去も、ヴァラード様の過去も知っております。ですので、どちらを取るべきとは申しません。……ただわたくしは、貴方様が参る場所に、共に参りますので」


 その答えに、俺はふっと頬を緩めると、立ち上がって肩を竦める。


「中々厳しい事言うじゃねえか。お前らしい答えだが」

「いえ。ヴァラード様はお優しき方。どちらを選ぶにしても、何も問題はないと信じております。わたくしもまた、貴方様の優しさに助けられた一人ですので」


 にこりと微笑み応えるティアラ。

 そこに一瞬、メリナの姿が重なる。


  ──「いい? あなたは悪ぶっても、結局お人好しよ」


 あいつはあいつで、俺によくそう言っていたな。


 ……お人好し、か。

 正直、どうだか知らねえし、別に自分を優しいなんざ、思った事もねえ。

 ただ、ティアラが言った、()()()()()()()()って言葉。

 それはつまり、俺がここじゃない何処かに行くって言ってるようなもの。

 その時点で、俺が取る行動がわかってるって事か。やれやれだぜ。


「どちらへ?」

「スープを温めてくる。まだ夜は長い。夜食のひとつでも食わねえと、体力が持たねえからな」

 

 俺はティアラ達を背にし、振り返る事なく部屋の出口に歩き出す。


 ……王都にいるアルバース達の事を思い返すと、正直胸糞悪い。

 あいつら自身が動こうとせず、アイリやエル、ディバインを寄越すなんてのもふざけてる。

 が、それならそれで、こいつらを責めたり愚痴ったりしたって始まらねえよな。


 部屋を出て扉を閉めた俺は、頭を掻き生欠伸なまあくびをしながら、気を紛らわせるように、一人静かにキッチンで夜食の準備を始めたんだ。

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