純潔の肉食聖女
勢い余って書き上げました。
反省はしています。後悔はしていません。
※下ネタ多めです。
「え? 今、何て?」
目の前に立つ剣士カインは、少し気まずそうに笑いながらもう一度さっきの言葉を繰り返した。
「ああ、故郷に帰ることにした。 俺もいい年だし、いつまでもフラフラしてられねぇしな」
「……そう」
思わず自分の二の腕をきつく握る。
聖女にさえ……こんな体にさえなっていなければ……。
「最後までアンタには振られっぱなしだったな。聖女様」
「こんなに諦めの悪い方は、私も久しぶりでしたわ」
「ははは。もうちょっと頑張れば、アンタを口説けたか?」
「それは無理かしら。少なくとも、あと五年は必要ですわよ」
「五年も経ったら、俺は四十歳になっちまうよ」
言いながら、カインが革袋を肩に背負う。
本当にもう、お別れなのか……。
もう一度カインの顔を真っすぐに見る。カインは相変わらず優しく笑っている。
はぁ…………
やっぱこの顔、どちゃくそ好みだわ。
「じゃあな」
そう言ってカインが踵を返した。
「待って」
思わず呼び止めた私をカインが不思議そうに見る。
「いえ……なんでもありません」
「まあ、元気でな」
今度こそカインは行ってしまった。
何でこうなったんだろう……。いや、理由は分かっている。
あの女神のせいだ。
こっちの世界に来た時の記憶が、また脳裏に蘇って来た。
※
あの日は確か、仕事終わりに馴染みのバーに飲みに行ったんだ。そこで年下のちょっとカワイイ男に声かけられたから、久々に『食っちゃおうか』とか呑気に考えてたな。
そんで、結局『お持ち帰り』に失敗して家帰ってふて寝して、起きた時にはこっちの世界に飛ばされてた。
異世界転生だかなんだか知らないけど、本っ当にいい迷惑よ。
カインを見送った私は、教会の『祈りの間』の奥にある聖女専用の部屋に入る。部屋の中央に置かれたベッドに体ごと飛び込み、枕に顔を埋め、頭から布団をかぶる。できるだけ声が外に漏れないように。
そして、枕に顔を埋めながら叫んだ。
「あーーーーーー!!! ヤりたかった! あの男食いたかった!
カインと○ッ○〇したかったぁぁぁぁ!!」
くぅ……何の因果でこんな体にされなきゃならないのよ!
私と〇〇ク〇した男のチ○○がもげるとか、一体どんな呪いよ!
「カズミ。聖女ともあろう者が、はしたないですよ」
突然頭上に女の声が降って来る。
出たな元凶。私をこんな体にした張本人。
「うるさい! クソ女神! 勝手にこんな所に連れて来たくせに!」
「しょうがないでしょう。『冒険者やるよりも安全な教会でのんびりできそうだ』と言って聖女というジョブを選んだのは、あなたなのですから」
「聞いてないわよ! 男とセッ〇〇できないなんて!」
「聖女には純潔が求められます。聖女と交わろうとする男性には神の加護が発動してしまうのです」
「だからって、男の○○ポを物理的に破壊する呪いなんてやりすぎよ!」
「呪いでは無く聖なる加護です」
「ど、こ、が、よ!」
言い合いに疲れて、深く息を吐く。
それを見計らったようにシスターが部屋に入って来た。褐色の肌に銀髪、スラっとした体つきに大きな目が印象的だ。シスターを装ってはいるが、コイツの正体は『色欲』を司る悪魔、アスモだ。
「聖女様おつかれ~
あの剣士様フちゃったの? せっかくイイ男呼んだのに~。それとも、フられちゃった?」
「うるさい! アンタも私を誘惑する為とか言ってイケメンばっか引き寄せるのやめなさいよ!」
「だ~って、それがボクの仕事なんだもん。魔王様から『聖女を堕とすまで帰って来るな』って言われちゃったし」
「なんで聖女を堕とさなきゃなんないのよ!」
「だから、聖女が使う浄化魔法が魔王様の弱点なんだって。前にも言ったでしょ?」
「分かった。じゃあ、私は魔王を倒さない。魔王城に足も踏み入れない。オーケー?
はい、解散!」
「そうはいかないね。心変わりは女の常でしょ? 神の加護を失うまでは安心できないね」
そう。このアスモは私と男を引っ付けるために悪魔の力で様々な誘惑を仕掛けてくる。
具体的には、教会に治療しに来る男が皆、私のストライクゾーンを攻めて来る。
高めに浮いたクールな細マッチョ拳闘士とか、甘く入ったゆるふわ系年下魔法使いとか、絶好球のイケオジ剣士とか。
クソが! どいつもこいつもどちゃくそ好みだっつーの!
しかも乙女ゲーよろしくトキメキハプニングばっかり起こしやがって……。
「じゃあ、ボクは次の男探してくるから、期待してて待っててね~」
最高の笑顔でアスモが部屋を後にする。悔しいが、アスモの選球眼は確かだ。
ああ~ヤりたいよ~ イケメン達とヤりまくりたいよ~
「コホン。心の声が漏れてますよ」
女神が呆れたように咳払いした。
コイツもコイツでちっとは融通利かせろや。
「じゃあ私、聖女やめる。セクシーな踊り子に、私はなる!」
「何度も言いますが、あと五年待ちなさい。聖女は転生者限定のレア職なので、ジョブチェンジにはそれ相応の期間が必要なのです」
何度も何度も繰り返した会話だ。
あと五年も経ったら、私はアラサーになっちゃうじゃないか。折角若いカラダで転生したのに、乙女の無駄遣いをさせるんじゃないわよ。
いっそのこと、誰かの〇ン〇を無理矢理もいでやろうか。
たった一人の尊い犠牲で乙女の性春が花開くなら、もげた男だって本望でしょうよ。
……ってわけにはいかないか。さすがに申し訳なさすぎる。
禁欲生活の苦しさは私が一番良く知っている。誰かに一生そんな思いをさせるなんて、私には出来ない。
あと五年……あと五年……
冬眠前の熊よろしく室内をウロついていると、慌てた様子でシスターが部屋に駆け込んで来た。
アスモではなく、人間のシスターだ。
「聖女様! 大変です!」
一瞬で笑顔を作り、何事もなかったかのようにニコリと笑った。
聖女はシスターの憧れなんだから、あまりイメージ崩をさないようにしなければ。
「どうしたの? シスターケイト」
「勇者様が助けを求めておられます! 魔物の毒にやられたそうで、とても苦しそうにされていて……」
「分かりました。案内して頂戴」
シスターケイトの案内に従い、私は部屋を出た。
湧き上がる性欲を心の底に押し込めながら。
※
教会の一室には簡単な寝台が置かれ、その上に一人の男が身を横たえている。
周囲にはシスターの他に冒険者らしき者が数名。恐らく勇者の仲間だろう。
部屋に入ると、勇者が苦しそうな顔をこちらに向けた。
……さすがアスモの選んだ男ね。
クリッとした大きな瞳。スッと通った鼻筋。顔の後ろに輝く謎のキラキラ。超正統派さわやか男子だわ。
こんなカラダでさえなければっ!
「もう大丈夫。よく頑張りましたね」
賢者タイムさながらの微笑みで勇者の横に膝を着く。
ダメッ! 近付くと直視できない! イケメンが過ぎるっ!
「聖女……様……」
かなり弱っていることは見れば分かる。
熱で真っ赤に火照った頬。
苦しみ疲れてトロンとした眼。
聖女を見て心底安心したような笑顔。
ダメよ私……ときめいてはダメ……
――トゥンク
不覚にも胸のときめきを感じ、私は私の頬にビンタした。
「聖女様!?」
「なんでもありません」
周囲の驚く声に対し、努めて冷静を装う。
「いえ……あの……鼻血が……」
いけない。強くひっぱたき過ぎたわ。
あの悪魔め……。
過去最高のどストライクじゃないか。
毒で弱ってるのに健気に笑うイケメンとか、なんちゅうエゲつないモノを放り込んでくるんだ。
今すぐ寝込みを襲いたいっ!
「コホン。今、毒を浄化して差し上げます。少しだけお待ちくださいね」
鼻血出しながら言う事か。と心の中でツッコミつつ、シスターケイトから受け取ったハンカチで鼻を拭う。
「俺なら……大丈夫です……から……」
おいやめろ! 健気な顔で笑うンじゃぁない!
――ドゥクン ――ドゥクン
ぐおおおおおお!
燃え尽きるほどの母性本能! 震えるほどの庇護欲!
堪りかねて石の床に額を何度も打ち付ける。このままでは性欲と母性本能の板挟みで頭がどうにかなりそうだ。
「せ、聖女様!?」
「な、なんでもありません! なんでもありませんよ!」
額から血が流れる感触がする。
これはさっさと浄化しないと本格的にヤバい! 私の体と私の社会的地位がヤバい!
額に流れる熱い血潮もそのままに、私は解毒の魔法を唱えた。
「クリアランス」
勇者の顔から赤みが抜け、苦しそうだった息がすぐに平常に戻る。
今の今まで起き上がることも出来なかった勇者は、数秒もすると何事も無かったかのように寝台から立ち上がった。
あ……背、高い……
「もう何ともない! すごい! 解毒薬でもどうにもならなかったのに!」
「魔物の毒には、解毒薬では対処できない物もあります。おおごとになる前に対処できて幸いでした」
私の性欲は既に手遅れだがなっ!
「すごいや! ありがとうございます! 聖女様!」
「きゃっ――」
回復した勇者が勢い余って私に抱きついてきた。
ローブ越しの背中に勇者の暖かな手の感触が伝わって来る。
「ああ! すみません! つい――」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
「うごっ!?」
耳の端まで真っ赤に染まった私は、勢い余って勇者のボディに左フックを突き刺し、返す刀で捻り込むような右ストレートを叩き込んでしまった。
「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」
謝罪の言葉を叫びながら、私は部屋を飛び出して自室に駆け込んだ。
背中にまださっきの手の感触が残っている気がする。
アカン! アレはアカンてぇぇぇぇぇ!
顔を赤く染めて身もだえしながら、先ほどの出来事を反芻する。
危うく勇者の唇を奪ってしまう所だった。
……もう無理だわ。誰でもいいからもげさせよう。
「せ・い・じょ・さ・ま」
いつの間に入って来たのか、部屋の中にはアスモが座っていた。
顔にはゲスい笑顔が張り付いている。
「アスモ! 何よアレは!」
「んふふ~♪ なかなかヤバかったでしょ」
確かにヤバかった。次に会ったら自分を抑える自信がない。
といういか、今ももうヤバい。ムラムラを抑えきれない。
「勇者様から伝言だよ。
大変失礼な振舞をしました。明日改めて謝罪に伺いますってさ」
明日、またあのイケメンに会うのか……。
本当に誰でもいい。誰でもいいから――
「アスモ……そう言えば貴女、ボーイッシュな顔してるわよね」
「……へ?」
アスモの間の抜けた返事に構わず、私は虚空に呼びかけた。
「女神~」
「はいはい。お呼びですか?」
虚空から女神が姿を現す。
首から上だけを動かして私は女神に問いかけた。
「確認だけど、神の加護って人間の男相手にしか発動しないのよね?」
「ええ。まあ……?」
私の言いたいことが理解できないのか、女神が怪訝な顔で頷く。
私は再びアスモに視線を戻した。
「アスモ……綺麗な顔、してたんだね……」
「え……? ちょ……? ボク、女の子だよ?」
「うん……知ってる。アスモならもげたりしないって、私知ってる」
アスモの座る椅子の背もたれに両手を置き、アスモを逃がさないように正面から顔を近付ける。
気を利かせた女神が、そっと虚空に消える気配がした。
「えっ!ちょっ!待っ!」
「目ぇつぶってればすぐに終わるンだから、大人しくしてなさいよぉぉ!」
「や、やめてぇぇぇぇぇぇ!」
※
「本当に、すみませんでした」
「いいえ。こちらこそ、取り乱してしまって申し訳ありませんでした」
翌日、訪ねて来た勇者とお互いに謝罪を交わす。
昨日のうちに少しスッキリしたからか、今日は何とか取り乱さずに対面できた。
相変わらず謎のキラキラが眩しいけれど……。
「オレ、感動しました! 聖女様の噂は聞いていたけど、本当にあんな奇跡を起こせるなんて!」
おいやめろ。どさくさ紛れに手を握るな。
「それでオレ、思ったんです。聖女様がパーティに加わってくれれば、魔王すらも倒せるんじゃないかって」
「……え?」
「不躾なお願いは承知の上です。どうかオレ達と一緒に冒険してください!」
勇者が頭を下げて手を差し出す。
コレはアレよね? この手を握ったら承諾したことになるとかいう、アレよね?
一緒に冒険? このイケメンと? 毎日一緒に寝泊まりするの?
「えと……五年後とかでよろしければ……」
「やっぱり、オレみたいな半人前じゃ頼りないですよね……」
「い、いや、そういうわけじゃ――」
「でも、オレ諦めません! 必ず聖女様を口説き落として見せます!」
「えと、そう言われても……」
「とりあえず、明日出直します! 明日も明後日も、何度だってお願いしに来ます!」
勇者はそう言って走り去って行った。
人の話を聞けぇぇぇぇぇぇ! 毎日来られたら私の理性が保たないって!
……え?
明日も明後日もこれがずっと
「つづく……の?」
(注:つづきません)
お読みいただきありがとうございました!
思いっきり勢いで書きました。
現実恋愛カテで昭和初期を舞台にした夫婦の恋愛物も連載しています。
(こっちはドシリアスです)
よろしければ是非お読みください!
https://ncode.syosetu.com/n0833hx/