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バンキシャ部!  作者: マムシ
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ブレッドⅡ

 翌日の昼休み、岩寺は一つの上の階に足を運んだ。

 第二学年の教室が建ち並ぶ階層。階段を昇り切り、三番目の教室が雷伝のクラスだ。〝雷伝の〟というとかなり語弊がある。むしろ雷伝が身を細くしているクラスと言ったほうが正しい。そのくらいクラスの中では影が薄かった。

 教室の入り口付近で、立ち尽くす岩寺。かなり挙動不審な態度で周りを見渡している。その姿に気が付いた雷伝は早歩きで、岩寺の元に向かった。

 一学年上の教室に来るという勇気は生半可なものではない。岩寺が挙動不審になるのも無理はないだろう。

 雷伝はそう思い、すぐさま話しかけた。


「岩寺、どうした?」


 周りに聞こえないような小さい声で問いかける。

 だが、どうやら先輩に囲まれて怖がっていたわけではなさそうだ。目線の先には女子生徒の太腿があった。

 急いで話しかけて損した。


「あ! 部長……」


 こいつめ太腿に気を取られて、我の存在に気が付いていなかったな。雷伝は怒りを抑えながら言った。


「わざわざここまで来るとは何かあったのか」


「例の件で……」


 その一言で全てを察した。いや、岩寺が来た時点で察していたが、こういう会話をしてみたかっただけだ。


「分かった。場所を変えよう」


 二人は弁当を持って、屋上へ向かった。今日はボッチ飯を回避できそうだ。今日は教室の隅っこでボッチ飯か、そそくさと廊下に飛び出し、便所飯にしようか迷っていたところだった。

 前を歩く岩寺、よく見るとランチバッグの他に学生カバンを抱えている。どうせ下らないものが入っているに違いない。

 屋上に到着すると、予想通り誰もいない。ここは案外穴場なのだ。

 たまにカップルが入ってきて、屋上で乳繰り合いながら手作り弁当を食べているが

 そんな時はこの貯水タンクの上に登ってしまえばいい。

 鉄の梯子がかかる貯水タンクに上なら、誰も来ない。


「岩寺、この上に登るぞ」


 例のように雷伝が梯子を指さした。だが二人とも登ろうとしない。


「おい、早く登れ」


「いやここは部長に譲りますよ。紳士はレディファーストですからね」


「お前はパンツを見たいだけだろ……」


「チッ、バレたか」


「いま舌打ちしたよな」


「いいえ気のせいです」


 先に岩寺が登り、貯水タンクの上で弁当を広げる二人。広さは八畳分くらいで、下からは角度がつくため見えない。一人でくつろぐには最高のスポットである。

 弁当を開け、昼飯を食べ始めると、岩寺が早速本題に入った。


「今日、僕が部長は呼び出したのは見て欲しいものがあったからです」


 岩寺はそう言いながら、学生カバンからノートパソコンを取り出した。


「まさかエロ画像とかではないよな」


「見たいですか」


「いや見たくない」


 岩寺は慣れた手つきで、パスコードを入力し、スライドパッドであるソフトをクリックした。

 見た感じ自作ソフトのようだ。ディスプレイに映し出されたのは海常臨高校の全体図である。平面なマップの他に校舎を輪切りにした3Dマップまでも作られていた。


「なんだこれは……?」


「『ブレッドⅡ』です」


 なんという格好いい響き……雷伝は思わず目を輝かせてしまった。

 ここぞとばかりに役に入り込み、深く頷いた。


「ここには全校生徒の行動パターンが記録されています。過去の統計から演算し、この後、生徒がどのような動きをするのか、だいたいの予測は出来るようになっています」


 確かこいつ頭が悪かったような……雷伝はそう思いながら核心をつく質問した。


「本当か、なら青橋の動きも」


「ええ、もちろん」


「凄いなお前……なんでまたこんな綿密なデータを」


「真の目的は学校内のどの場所でパンチらが望めるか。それを計算するソフトです。季節や場所、風向きや風速は異なり、パンチらポイントは日々変動しています。そのために演算システムを用いて、全てのパンチらを拝むために制作したのがこのブレッドⅡでございます」


「なんたる下衆な……ブレッドⅡ……? その名前まさか」


「『パン』『ツー』です」


 かっこいいと思った我が馬鹿であった。


「だが確かに使えそうだな」


「青橋星美のデータはこちらとなっています」


 岩寺が見せてきたページには青橋の行動パターンが全て記録されていた。


「青橋は非常にガードが堅い女子ですね。こちらのヤ〇マン先輩と比較しても、平均パンチら率は二パーセントとかなり低い水準です」


「パンチらはどうでもいが、これさえあれば盗撮ポイントも……」


「もちろん可能です」


 キーンパットを軽快に操作し、ページを変える岩寺。


「これが青橋のクラスの時間割です」


 表示されたのは二年一組の時間割だった。なぜこんなものを一年生の岩寺が入手できたのか分からない。そしてここまでパンツを見るために努力をしていると、もほや軽蔑ではなく感心してしまう。


「狙うならここか……」


 雷伝は月曜日二時限目の体育を指さした。

 そこが直近の体育だった。


「そうですね。これが全校における体育単体の時間割ですが」


 岩寺が次のページを表示した。


「いま部長が言った時間が最も現実的です。例えば二年一組の体育は水曜日にもありますが、他のクラスと体育の時間が続いています。となると更衣室に侵入する時間がかなり限られてしまう。やるなら月曜日の二時限目しかないかと」


 女子更衣室に忍び込み、カメラを仕掛けるとなると十分な猶予を持って行動したい。失敗は許されないのだ。この日は遅刻し、二時限目から出るのはやむを得ない。

 いよいよ本格的に始動する本作戦を前にふっと息を吐いた。



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