神様と泡沫
どっか行こうよと言い出した君を自転車に乗せて当てもなくただ走り抜けていった。ここじゃない何処かへ連れて行ってくれるのだと信じて、ペダルに君の重さを確かめながら、前へ前へ。
潮の匂いがした気がして、真っ白なワンピースの裾をタイヤに巻き込まれないように脚で挟む、時折降りてスカートの調整をする君を誘う。君は何も言わないで荷台に腰掛ける。
暑さより君に頭をやられている、だから不思議と疲れも感じないで自転車は進む。海が見えて少し高揚した。君が背中越しに見ようとして危なかった。
海辺には海水浴に来た人が溢れていた。にぎやかな歓声の中、君の小さな声が背中から伝わる。
もっと、人のいないところに行こうよ。
そこからはずっと海沿いを走っていった。君は何も言わないでただ、身体を預けている。この温もりが君のなら、この浅い息遣いは君のだろうか。
人のいない浜辺を見つけたのは日が沈み始めた頃だった。
適当に自転車を放り出して、君と裸足になって波打ち際を歩く。掴みどころのないリズムで海水が攫っていく。
訳も分からない万能感と高揚感が足元の冷たさで妙に冷静に俯瞰してしまって感情や感覚がおかしくなっている。
君が小さく笑った。
ねぇ、このままどっかに消えちゃおっか。
夏の匂い立つ生とか過ちとかドロドロしたものを全て夏のせいにして、夏だからなんでも許されるように思ってる。ああいった生々しくて清々しさや爽やかさを忘れてしまったものを見るのが好きです。