順調な船出! 仲間になってよかった!!
俺たちが受けたのは、キューアの実の採集。
よりによってポーションの原料の一つだ。
そこら辺に生えているので、バイト感覚で集める人もいるくらいの代物だった。
ピクニックのように採集用の籠を片手にぶら下げた俺たちは、王都を出てキューアの実の多い場所まで向かった。
一応、出来立てのパーティーとは言っても、みんなAクラス以上のパーティーに在籍していた実力者だ。
キューアの実がたくさん自生している場所は知っている。
王都から一時間くらい行った森の手前の平原で、俺たちはキューアの実の摘み取りの作業にかかった。
「ディーさん、どのくらい貯まりました?」
「ディー!?」
「あ、にゃっ! ごめんなさいっ! ついうっかり。」
「い、いや、別に。なんか嬉しいから良いけど。」
思わず顔がにやけてしまう。
「ごめんなさい。前のパーティーだと常に気を張ってないといけなくって・・・。」
「まあ、今日は簡単な仕事ですし。でも本当に危険な仕事の時は緊張しなきゃダメですよ?」
「いえ、その・・・、そういうのではなくて。私、回復しか能が無いから、前のパーティーではずっとみんなのサポートをこなしてたんですけど、今日もみんなの荷物持ったりとか、偵察とか、移動の調整とかをしなくていいのが楽で楽で。」
「そんな事までしてたの!?」
今まで、後ろで黙って俺たちの事を眺めていたグレゴリーが思わず声を上げた。
「みんなヒーラーだと道具とかの手入れもいらないですし、近場だとみんなの分の替えの服とかが無いから荷物が軽くていいですよね。」
「このパーティーではそんなことしなくていいからね?」
「そうですよ。普通、そのくらいの事は自分でやるもんです。」
「だいたい、今はみんなヒーラーだからね。」
「でもでも、私、お二人に比べたら私は全然役に立たないですから。」
「そんなことないさ。頼りにしているよ。君もディーも。」
グレゴリーが俺に片目をつぶってみせた。
「そうだよ。俺たちは仲間なんだから、ね、フロウ。」
思い切って愛称で呼んでみる。
「!! えへへ。」
フローレンスのクリクリの目が細くなって嬉しそうに垂れた。
マスクの下ではにかんでいるに違いない。
採集は昼までで終わった。
あの後、ちょっと身の上を話したりしていたので予定より少しかかった。
グリゴリーは俺たちに比べると、割と納得してパーティーを離れたようだ。
最近、ロックダウンのせいで遠くへの遠征が難しく、近場クエストだとSクラスパーティーの実力に見合ったクエストが少ない。そのため、メンバーに怪我が少なく、ヒーラーの出番がほとんどなかったのだそうだ。
グリゴリーは高レベルクエストを何度もこなしているから打たれ強いのは間違いないと胸を張っていた。
逆に、攻撃面は周りのパーティーが強すぎて出番が無かったので自信が無いそうだ。
俺は逆にシーラを守って戦うことがあったので攻撃は多少できる。防御も悪くないと思う。
フロウも俺と同じようだったが、物理戦は基本的に苦手らしかった。
そんな訳で、俺たち『奇跡の癒し手』の編成は以下のように決まった。
グリゴリー: ヒーラー(タンク)
ディーレ: ヒーラー(剣士)
フローレンス: ヒーラー(ヒーラー)
以上だ。
役割が決まったところで、フロウが言った。
「お弁当作って来たんですけど、食べてもらえませんか?」
ずいぶん荷物多いなと思っていたら。
「よ、喜んで!」
「私も喜んでいただくよ。」
フロウが大きなお弁当箱を取り出した。
中には色とりどりの綺麗なサンドイッチが入っていた。
どれもこれも美味しそうだ。
俺たちは、アルコールで手を消毒すると一つつまんだ。
「いただきます!」
俺とグリゴリーが一口大の四角形にカットされたサンドイッチを口に放り込む。
!!
「美味い!」
「おいしい!!」
「えへへ。良かったです!」
フロウが顔を真っ赤にして嬉しそうに笑った。
「フロウもいっしょに食べよ?」
俺たちの様子を見ていて、サンドイッチに手を付けないフロウを促した。
ここは重要分岐点だ。
フロウが初めてマスクをとるのだ。
いや、別に、顔がどうだからって邪険にはしないよ?
今後の話よ、今後の話。
な?
ちなみにグリゴリーは予想通りの顔だった。
「じゃあ私もいただきますねー。」
フロウがハムの入ったサンドイッチを片手に、もう一方の手でマスクをとった。
YEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEESSSS!!!!!!!!
やったぜ!!
さて、
なんの苦難も無く、順調に進み始めた俺たち『奇跡の癒し手』だったが、受難は突然訪れた。
サンドイッチを残さず平らげ、キューアの実が足りているかをきちんと確認した後の事だった。
森から小さな人影が、俺たちに向かって飛び出してきた。
3匹のゴブリンだ。
ま、たかがゴブリンだ。
ヒーラーだけのパーティーがどこまでやれるのかを確かめるのにはちょうどいい。
そう思ったのが間違いだった。
遭遇した時点では、キューアの実を持って逃げるという選択肢があった。
この場所は王都から近い。
10分も走れば、ゴブリンは追いかけてこなかったであろう。
だが、俺たち3人はみんな、ヒーラーがどこまでやれるかを試してみたかった。
それが地獄の幕開けだった。