千里の道も一歩から! いざ初心者クエスト!!
「なんだあいつら?」
ギルドを出てから、イライラが収まらない俺は思わず呟いた。
「ちょっと酷いですね。」
グリゴリーも声に怒り成分が感じられる。
「ごめんさい。ごめんさい。」
「フローレンスさんが悪いわけではないですよ。」
「どうも、リーダーが私を目の敵にしているんです。」
「そうなのですか?」
「リーダーがパーティーのメンバーを独占したかったみたいで・・・。それには私が邪魔だったみたいなんです。」
ああ、追放でよくある・・・ ん?
グリゴリーも俺もフローレンスの言ってる意味がよく理解できない。
「えーっと、あの三人みんなおじさんだったよね?」
「はい。」
「あ、うん。そう。」
恋愛関係が原因でパーティーから追放されるなんて話、腐るほど聞くから、一個くらい性別的な関係性がマイノリティな話が合ってしかるべきだとは思うけれど、俺、そのマイナーケースに巻き込まれたん?
「たぶん、さっきも私がディーレさんやグリゴリーさんといっしょに居たから、嫉妬したのもあるんだと思います。」
え!? 俺、射程に入ってんの?
次の日、朝一で俺たちは冒険者ギルドにやってきた。
朝一は他の冒険者たちが少ない。
これなら、誰からも罵詈雑言を浴びることなく依頼を探すことができるはずだ。
レビンちゃんが言った。
「えー。何でこんな朝早くに来るんですか? 別にたいした仕事がこなせるとも思わないですし、そんなやる気出されても私の仕事が増えてめんどくさいんですが? 私、超忙しいんで、依頼は掲示板見て持って来てください。」
くそ。
こいつが居る限り、絶対に何かしらは言われんのか。
ともかく、依頼だ。
依頼の張られている掲示板のほうに向かおうとする。
って、あっ!
同じように珍しくも朝一で入ってきた冒険者パーティーに気づいた。
『深紅の殺意』の面々。
つまり、俺の元仲間だ。
「あっ!」
向こうも気づいたようだ。
シーラも居る。
こっちを見ていたが、気まずそうに顔をそむけた。
最後に会えなかったし何か言おうと思ったけど、一週間会わなかっただけなのに、シーラとの間には分厚いアクリル板が立ちはだかっているかのようだった。
「よ、よう。」
3人に恐る恐る声をかける。
3人は、一瞬ビクリとしたが、小さく会釈した。
とても、よそよそしい。
少しだけ、傷ついた。
互いの距離は政府推奨の距離を保っていたが、心の距離はもっと遥か彼方にあるようだ。
「その、少し、話をしないか?」
シーラも交えて話をすれば、まだ何か解決策が・・・
「いや、3密になっちゃうから・・・。」
エイルが非情な返事を返してきた。
「そうか・・・。」
押し黙った俺の横を、三人はこちらを見ることも無く通り過ぎ、レビンちゃんとカウンターで話し始めた。
「あらーエイルさん、今日は早いんですのね! 何かお手伝いする? 今暇だから大丈夫よ。」
レビンちゃんの対応差が酷い。
Aランクと俺たちとじゃ、それだけ期待値がかけ離れてるってことか。
そんな俺の前にフローレンスがくるりと回り込んで、見上げるようにしてじっと俺の目を見つめた。
「ほら!元の奥さんにいつまでも後ろ髪引かれない!」
「えっ?いや?奥さんとかじゃなくて・・・。」
「今は、私たちとパーティーなんですよ?」
そうだった。
何、女々しいことしてんだよ。
俺のほうがみんなによっぽど失礼だったじゃないか。
「ごめん。」
「よろしい!」
マスクの下で見えないが、フローレンスがニッカリと歯を見せて笑ったのが解った。
「フローレンス、ディーレ、とりあえず、連携を深めるためにも簡単なクエストから行きたいと思うんだ。これなんかどうだろう?」
グリゴリーが依頼書を掲示板から持ってきた。
「てか、これ初心者クエストですよ?」
「さすがに簡単すぎませんか?」
フローレンスも困惑した様子でグリゴリーを見上げた。
「残念だが、ギルドの皆の言う通り、ヒーラーばっかりのパーティーやっていけるかどうかは未知数だ。私たちにどのくらいの事ができるのかを知っておきたい。それに、今のこの状況で、クエストに失敗するのはまずい。様子を見ながら徐々にレベルを上げていこう。」
「そうですね。一歩一歩頑張っていきましょ!」
「うーん。しかたないか。」
若干不服というか、このクエストを受けたら受けたで笑われるんだろうなと考えると、プライドが邪魔をする。
しかし、元Sクラスのグリゴリーがそう言うんだ。
俺が強がるのはもっとダメなような気がした。
自分の足元を見ていこう。
俺には隠された能力も才能もない。
「さっさと申請して、こんなクエストとっとと片づけちゃいましょう。」
俺は、グリゴリーから受け取った依頼書をレビンちゃんに渡し・・・
「カウンターに置いてくれます? 今コロナ禍なんで。」
さっき、エイルからは直で受け取ってたじゃんかよ!
腹立つなあ!
もう!!