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ギルメンからのヒーラー、ディス! ギルマスからの塩対応!

 「痛いっ!」


 フローレンスが突然叫ぶと、背中を押さえてビックリした様子でうずくまった。


 何かと思って慌てて様子をみると、床に食べかけの骨付きチキンが転がっていた。


 ビュン!

 そこに、もう一本、骨が飛んできた。


 かばうようにフローレンスの前に立ちはだかるが、骨は俺たちを大きく外れて、小さな音をたてて床を跳ねた。


 「わりぃ、わりぃ。外しちまった。」


 ギルドのホールのテーブルのひとつに、こっちを向いてニヤニヤと笑っている筋骨隆々としたおっさんが居た。


 こいつ知ってる。

 Aクラスパーティー『そびえたつ頂点』のリーダー、マッチョ・デーモンだ。

 武道家でありながらタンクもこなす、ユーティリティー冒険者だ。

 『そびえたつ頂点』がAクラスなのは彼の力によるところが大きい。


 「お前、何のつもりだ!?」


 「いいんです。ディーレさん、ほっときましょう。」


 マッチョに文句を返した俺をフローレンスがなだめる。


 「別に、元メンにアドバイスしてやろうと思って呼ぼうとしただけだよ。」


 「だったら、何でこんなもの投げつけてんだよ!」


 フローレンスが蹴られて追い出されたみたいなこと言ってたが、この感じからすると本当に手ひどく蹴り出されたに違いない。


 「密接防がなくちゃダメだから、近寄る訳には行かねぇだろ? それに食事中の大声は厳禁だぜ? じゃあ、何か当てて合図するしかねぇじゃん?」


 マッチョは俺たちをみてニヤニヤと笑っている。

 同じテーブルについていた他の二人の男もクスリとして、こっちを盗み見るように視線を投げた。


 「だからって昔の仲間に対してこんなもん投げつけるんじゃねぇ!」」


 「ディーレさん! 大丈夫ですから! ほっときましょ。」


 思わず向かって行こうとする俺を、服の背中を引っ張ってフローレンスが引き留めた。


 「おいおい。アドバイスくらい聞いとけよ。お前ら、ヒーラーなんて回復しか能がねぇんだからさ、単価が安いかどうかなんだよ。」


 「あ?」


 「AクラスやSクラスになると、報酬が高くなるだろ? そうすると分け前も増えるわけだ。」


 そう言って、マッチョはフローレンスを指差した。


 「そいつがヒールをかけた回数で分け前を割るとポーションより高いんだわ。つまりだ、ポーションで回復したほうがマシってことよ!」


 「回復以外にだっていっぱいあっただろっ!」


 「なんか、あったか? なあ?」


 フローレンスがうつむく。


 「てわけよ。だから、あんたらもそんな無能なアバズレ仲間にしないでポーション買ったほうがいいぜ。ヒーラーなんかよりポーションのほうが役に立つからな。キャハハハハ。」


 別のテーブルの若い冒険者が合いの手を入れてきた。


 「マッチョさん、それじゃ、全員、ポーションになっちゃいますよ!」


 「ちげぇねえ!」


 ギルド中から笑いがおこった。


 「てめぇ!」


 さすがに、今、一番言われたくない事を言われて頭に血が上る。


 グリゴリーも前に進み出てきた。


 「お? やろうっての? ヒーラーなのに?」

 

 『そびえたつ頂点』の奴らがゲラゲラ笑いながら立ち上がった。

 彼らはきとんとマスクをつけると、こっちに進み出てきた。


 くそ。

 勝てるだろうか?

 

 殴られてもすぐ回復する自信はある。

 俺は無詠唱可能だし、まちがいなくグリゴリーさんもそうだろう。


 ただ、殴り返した拳があてられるか解らない。あたってもダメージが行くかどうか・・・。


 「ディーレさん、グリゴリーさん。止めましょうよ!」


 フローレンスが後ろから俺たちの服を一生懸命引っ張る。

 それでも引くわけにはいかない。


 互いに詰め寄る。



 「はい! そこ! 4人以上で集まらない!!」



 俺たちの後ろから、不機嫌そうなレビンさんの声が上がった。


 「ちっ!」


 「命拾いしたな!!」


 すごすごと席に戻るマッチョたち。


 「パーティー登録前に早くも騒ぎですか?」


 レビンちゃんが俺たちを睨みつけた。


 フローレンスがすぐさま反論する。


 「悪いのはマッチョさん達です! ディーレさんたちは私をかばってくれたんです。」


 「ヒーラーの集団なんだから、何かしら言われるのは当たり前でしょう? さっさと、登録欄に必要事項を記入して下さい。」


 そう言って、レビンちゃんはカウンターに下がっているビニールの下から書類とペンをこっちに放り投げてきた。

 めっちゃ塩対応。


 「居ても居なくても同じようなパーティーにだって、登録とか施設の利用料とかの費用がかかってるんですからね。」


 レビンちゃんがため息交じりに呟いた。


 何なの?

 このパーティーってそんなに悪い?

 俺たちヒーラーって今までずっとそんなふうに思われてたの?

 

 隣でグリゴリーとフローレンスも歯を食いしばってうつむいていた。


 「とっとと登録済ませちゃいましょう!」


 俺は務めて明るく言った。


 「そうだな。ヒーラーばっかりのパーティーなんてきっと冒険者家業が始まって初めてだろう。俺たちが、他のヒーラーパーティーの道しるべになってやろう!」


 グレゴリが無理やり笑った。


 フローレンスが涙目で頷いた。


 「パーティー名はどうしましょうか?」


 「『奇跡の癒し手』なんてどうかな?」


 グレゴリーが素早く提案した。


 「いいですね、そうしましょ。」


 俺も即座に採用する。

 何よりも、早くここを立ち去りたい。


 フローレンスも同じ気持ちだったようで、小さく頷いた。


 俺たちは記入の済んだ登録用紙をカウンターに叩きつけると、逃げるようにこの場を去ることにした。



 出口まで来たころで、骨付き鳥の食べガラが山なりの放物線で落下してきて、フローレンスの頭にあたった。


 「おい! ダンジョン前で立ちんぼして回復してくれよ。ポーションより安かったら使ってやるよ!」


 ギルドのホールから大きな笑い声が起こった。


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