今更助けを求めたってもう遅い! ヒーラー冒険者やめるってよ!?
「さあ! 今月のNo.1も、もちろん『奇跡の癒し手』様たちですわ! さあ皆様拍手!!」
満面の笑顔のレビンちゃんはそう言って、ギルドに居た面々に拍手を煽った。
俺たちは拍手に囲まれながら、銀貨の袋をレビンちゃんから受け取った。
「いやぁあ、『奇跡の癒し手』様! 皆様のおかげでうちのギルドは何とか今月もやってくことができました。」
レビンちゃんが揉み手をしながら俺たちの事をニッコニコで見上げた。
魔王討伐の報奨金は高い。
インフルエンザともなればそれは莫大で、ギルドにも多くの金が入る。
「ディーレさん、グリゴリーさん、フロウさん、みんなマジぱねえっす!」
「魔王討伐者がうちのギルドから出るなんて、誇らしいっす!」
ギルメンたちが綺麗な手のひら返しで俺たちを褒めそやかす。
どの口が言ってんだか。
「てめぇら! すごいのは『奇跡の癒し手』様で、お前らじゃねえんだよ! 爪の垢でも煎じてもらって、もっとしっかり働きやがれってんだ、失敗ばかりの雑魚共が! ねぇ~ディーレ様!」
誰よりも手のひら返しがすごい人が目の前に。
美少女レビンちゃんはニッコニコの上目づかいで俺を覗き込んだ。
そんなことしたって俺たちを騙したこと忘れてねえからな?
と、
後ろで大声が聞こえた。
「たのむ、フローレンス!! 俺たちのサポート役をしてくれ!」
振り向くと、マッチョがフローレンスの前に土下座をしてた。
「俺は、あの二人を愛しているからお前をパーティーに入れるわけにはいかねぇ! でも、俺たちにはお前の力が必要なんだ!!」
なんと都合のいいお願い。
「いやです。」
フロウは口を尖らせて断った。
当然だな。
「頼む! 金ならちゃんと払う!!」
「それでもいやです!」
と、
今度は別の所で大声が聞こえた。
「何で、そんなひどいこと言うのっ!!」
振り返ると、シーラが立ち上がって向かいの席のエイルとビーリーに叫んでいた。
泣いてる。
「ど、どうしたんだよ、お前ら・・・。」
俺は3密にならない程度に近づいて訊ねた。
「ああ、ディーレ。こっちに来てくれて構わない。」
エイルは俺を手招きした。
「ディーレ、俺たちはお前を『深紅の殺意』戻そうと思うんだ。」
そして、今度はシーラに言った。
「シーラ、とっとと行ってくれないか。3密になってしまうからディーレが来れない。」
何を勝手なことを。
俺にしたのと同じことを今度はシーラにしやがった。
シーラは立ち上がったままめそめそと泣いている。
「なに勝手なこと言ってるんだ? 俺はお前たちの所になんか戻らない。」
「頼む! 俺たちにはお前が必要だって気づいたんだ。またやり直させてくれ。」
「仲間を平気で泣かせたり、追放したりする奴とは、コロナ禍が治まったとしても組むことはない!」
「頼む! お前を追放したことについては謝る! 反省している!」
反省してねえじゃなぇか。
シーラのこと、こんだけ傷つけて。
「断る!!」
と、
今度はレビンちゃんの悲鳴にも似た叫び声が上がった。
「何ですって! ギルドからパーティー全員を抹消するですって!?」
「はい。今日でこんなギルドとはお別れです。」
グリゴリーがレビンちゃんにほほ笑んだ。
「な、なんで急に?」
「いえ、魔王討伐した後には決めてましたよ? 大事なパーティーをだまくらかすようなギルマスの居るギルドになんて在籍し続けるわけないじゃないですか。月間ランキングの銀貨を受け取るまで待っていただけですよ。」
グリゴリーは容赦なくレビンちゃんを追い詰めた。
レビンちゃんの顔が真っ青になる。
「今、あなた達が居なくなったら誰も稼げる方がいなくなってしまいます。後生ですから、残ってください!」
「ダメです。」
「頼む! ディーレ! 俺たちのパーティーに帰って来てくれ!」
「お願いだ! フローレンス! サポート役をやってくれ!!」
「後生です! 皆様! 私を見捨てないでぇっ! 行かないでぇっ!!」
懇願する三人。
しかし、俺たちは答えた。
「俺たち!」
「私たちは!」
「冒険者を卒業します!!」
ギルドが俺たちの宣言に騒めいた。
「な、なんで・・・。」
レビンちゃんが、呆然とした顔で俺たちに訊ねた。
「私、魔王倒す夢かなえちゃいましたし。」
フロウはもう心残りはないというような笑顔で笑った。
「フロウやグリゴリー以外と冒険者を続けるのが嫌になったからかな?」
俺はエイルを睨んだ。
「私は、このまま冒険者を続けていたら何かを失うようなきがして・・・・。」
実はこのパーティーでなら冒険しても良いって俺もフロウも思ってるんだけど、それだとグリゴリーがグリゴリーで無くなってしまう。
だから、俺たちヒーラーはここを人生の一区切りとすることに決めた。
「レビンちゃん頑張ってくださいね。」
グリゴリーはレビンちゃんに手を振ってギルドを後にした。
「そんな訳で、協力はできませんけどマッチョさんたちも頑張ってくださいね。」
フロウはマッチョに笑ってお辞儀をしてから、揚々とギルドを出て行った。
「エイル・・・と言うわけだから、冒険はお前たち3人で続けてくれ。俺の分までさ。」
俺は寂しそうにエイルを見た。
きっと、もう、『深紅の殺意』は無理だ。
シーラの気持ちは戻らない。
マッチョたち3人のほうがずっと深い絆で結ばれていた。
絆と言うか愛か・・・。
いや、止めよう!
深く考えるのは止めよう!
最後の思い出が彼らであって欲しくない。
俺は3密を無視して、シーラの肩をポンと叩くと冒険者ギルドの扉を開けた。
俺の次の第一歩は――。




