接近戦対策も遠距離魔法対策も万全!? 用意周到、魔王インフルエンザ登場!!
5階層の大扉はマッスルたちの居た落とし穴のすぐ近くにあった。
今までのフロアボスの部屋の扉とは大きさも装飾の派手さも違った。
予想通り、この階層のボスが魔王なのだろう。
俺たちは恐る恐る扉を開けた。
中は広く、明かりが灯っていた。
部屋の中央には紅いカーペットが引かれ、奥へと道を作っていた。
カーペットの先は数段高くなっていて、椅子がおかれていたらさしずめ玉座のようだったことだろう。
しかし、そこに椅子は無く、代わりに一人の黒い人型が立っていた。大きさは人間と変わらないが大きな角が生えている。
「くっくっくっ! よく来たな勇者どもよ!」
人型は俺たちに話しかけてきた。
「我が名は魔王インフルエンザ! 貴様らを贄として我が力に変えてやろう!!」
魔王インフルエンザか!!
くそっ!
すごく有名な魔王だ。
冬近くに現れて、その呪いの力により世界中の人に病気を振りまく凶悪な魔王だ。
普段だと春先ごろまでには魔窟が見つけ出されて、誰かしらが討伐してくれているので、毎年ことなきをえている。
今年は、話題になる前に見つけられたのはラッキーだ。
しかし、俺たちで倒せるだろうか?
それでも、冒険者として一度はあこがれる展開だ。
ここは強がろう。
「魔王インフルエンザ! お前は俺たちが倒す!!」
「くっくっく。そう簡単にいくかな? 何度も退けられ、吾輩は学んだ。」
そう言った瞬間、彼の周りの空間を雷が覆った。
「この雷はお前たちを麻痺させ、多大なるダメージを与える。これで、お前たちは吾輩に近づけない。」
説明ありがとうございます。
分かるぞ。
そういうの考えると誰かに話したくなっちゃうの。
「しかも、今回! 吾輩は『HK-B型』だっ!!」
『HK-B型』とは、離れた(Hanareta)攻撃(Kougeki)を-ブロック(Block)するタイプの略号だ。
つまり、近接攻撃以外無効なタイプの敵だ。
ヒーラーの俺たちには一切関係ない。
「くーっくっく! 吾輩にはお前たちの魔法攻撃は一切効かん。 お前たちはこの雷の中、私を直接攻撃するしかないのだ!!」
なるほど!
たしかに凶悪な作戦だ。
「護符貰ってラッキーでしたね。エイルさんたちに感謝ですね。」
フロウが俺に言った。
まあ、ヒーラーだし抵抗もできれば、麻痺の回復もできるんだけど、せっかくだしありがたく使わせてもらおう。
護符に麻痺を無効化を願うと、護符は小さな光を放って消えた。
「物理攻撃無効の魔王じゃなくて良かった。」
俺はそう言って、『例の作戦』用の戦槌を取り出した。
あんな雷の空間を用意したってことは、あそこから動かないって宣言しているようなもんだ。
ヒーラーの俺たちでも当て放題だ。
「フェンリルやバジリスクに噛まれるよりは痛くなさそうだ。」
グリゴリーもメイスを構えた。
「くっくっく。全員前衛タイプか。幸運であったな。だが、この雷撃の中いつまで持つかな?」
「いくぞっ!」
号令と共に3人は魔王インフルエンザに向けて走り出し、雷撃の中に身を投じた。
「ぐああああっ!」
苦痛が俺たちを苛む。
が、この程度!
戦槌を魔王インフルエンザに振り下ろした。
「くっ、その程度のダメージかね。そんなんでは私を倒す前にお前たちが果てるな。」
「それはどうかな? ヒール!」
俺はフロウを回復した。
「ふ、お前はヒーラーか。抵抗されて雷撃のダメージの通りが鈍いのか。面倒くさい。だが、味方の回復をしながら、果たしていつまでマナがもつかな。」
今度はグリゴリーが攻撃する。
「ふん、この程度のダメージ! 貴様、さてはタンクか。ならばお前の周りの電撃を強化してやろう。」
グリゴリー周りの雷撃の密度が上がった。
「その程度、抵抗すれば屁でもない! ヒール!」
グリゴリーが俺を回復した。
「ば、馬鹿な!? お前もヒーラーだと!? ならばこの小娘がアタッカーか。 こいつを雷撃で落としてしまえばお前たちに打つ手はない。」
フロウの周りの雷撃の密度が上がった。
「私もヒーラーです!! ヒール!」
フロウがグリゴリーを回復した。
「は? 全員ヒーラーだと!? お前ら正気か? やる気あんのか? 馬鹿なのか?」
「あ゛?」
魔王インフルエンザの言葉が俺たちの逆鱗に触れた。
「なんだてめぇ! もう一度言ってみろ!」
「ヒーラーばっかりだからって舐めないでくださいっ!」
「ヒーラーパーティーの実力、その命を以て理解させてくれる!」
全員がヒールも忘れて魔王をタコ殴りにする。
「ちょ、痛い! しかも地味に! おのれ、嬲るか! お前ら勇者なのに魔王をなぶり殺そうとするのっておかしくないか?」
「これで全力の攻撃なんだよっ!!」
「ちょ、痛い、痛い。」
俺たちはヒールで回復しながら、小一時間ほど魔王インフルエンザを殴り続けた。
途中、「いっそ、ひと思いにやってくれ」と魔王に懇願されたが、これがヒーラーの全力なんだからどうしようもない。
そして、ついに、魔王インフルエンザは力尽き、雷撃も消えた。
「ついに、倒せたか・・・。」
そう呟いたのは、他ならぬ魔王だった。
「やった! やりましたよ! ディーさん、グリゴリーさん! 私たち魔王を討伐できちゃいました!!」
フロウがピョンピョンと嬉しそうに跳ねた。
「なんとか倒せたな。」
「私はもう、マナがすっからかんに近い。」
「俺もですよ。」
なんだかんだで、ここまでヒールだけでも数百回と使ってきている。
「もう10分、魔王インフルエンザに粘られていたらまずかったかもしれませんね。」
「ほう、それは、良いことを聞いた。」
倒れていた魔王インフルエンザの身体が黒い霧となって俺たちの頭上に浮かび上がった。
「くっくっく。吾輩の作戦を見事破った事を褒めてやろう、ヒーラー諸君。まさか吾輩もヒーラーだけのパーティーが来ることは想定していなかったよ、うん。」
次回から想定するのかな?
「お前たちに敬意を評して、吾輩の最終形態でお相手しよう。」
頭上の霧になんとなく目と口が浮かんできた。
試しに、戦槌で殴ってみる。
すかっ。
まあ、そうだよな。
「くっくっくっくっく! 遠隔攻撃無効の次は、魔法攻撃のみ有効というはめ技! 前半戦で魔法使いさえやっつけてしまえば吾輩の勝ちは確定だったのだよ! おっと、お前たちは全員ヒーラーだったから、今の私を倒す手段なんてそもそも無かったな! くーっくっく!!」
黒い霧となった魔王インフルエンザは勝ち誇って笑った。
俺たちはコロナ禍なので持ち歩いていたアルコールスプレーを取り出すと、魔王インフルエンザに向けていっせいに噴射した。




