マッスルたちの受難! ざまぁ、より、きもぉ!!
エイルたちの話と俺たちの話をすり合わせた結果、出た結論はこうだ。
最近のギルドのやりくりに困ったレビンちゃんが、一発逆転で何かしようと思って、魔王討伐クエストを達成させることを考えた。
だが、ただでさえ失敗続きの冒険者たちを信用できなかったレビンちゃんは、俺たちを魔王の塔に閉じ込めて、モンスターや罠の露払いをさせようとしたのだ。
そして、その後にAクラスパーティーの『深紅の殺意』を送り込んで魔王を倒させる。
仮に俺たちが魔王を倒したってレビンちゃんには損は無いし、逆に俺たちがやられたって別にいいって思ったのだろう。
エイルは塔の入り口にはロックの魔法はかかっていたが罠は無かったと言った。
という事は、俺たちを閉じ込めるため、塔の入り口にロックをかけた人間が他にいるってことだ。
ぶっちゃけ予想はついている。
魔王退治なんて大仕事、レビンちゃんが『深紅の殺意』だけに任せるわけがない。
もう一つのAクラスパーティーにも声がかかっているはずだ。
おのれ、レビンちゃんの野郎。
俺たちのことを騙しやがった。
そりゃあ、宝物出ないわけだ。
魔王の住むダンジョンは魔窟と言って、宝物の類は一切ないのだ。
魔窟と知ってたら来とりゃせん。
「レビンちゃんさん酷いです。プンスカプーです!」
フロウが腕組みをしたまま、眉間に皺を寄せ、眉を逆八の字にして怒っている。
きっと、マスクの下はへの字に違いない。
「さすがにやり過ぎだよな。あとで、俺たちもいっしょに抗議してやる。」
エイルたちも状況を把握してご立腹だ。
「さて、ちょっと休んだし、私たちは出発しないか?」
グリゴリーが提案した。
「そうですね。」
フロウも頷いた。
「これをやる。」
エイルたちが俺たちにお守りのようなものを渡してきた
「これは! 状態異常回避の護符じゃないか!」
エイルたちがくれたのは、何か一つの状態異常を1時間だけ無効にすることのできる使い捨ての魔法の護符だった。
彼らは、各々が装備していた護符を俺たちに渡した。
「こんな高価な物、受け取れない。それに、お前たちだってこの護符は必要だろう?」
「悪いが俺たちはここまでだ。ポーションは尽きたし、さっきのでシーラのマナも尽きた。正直な話、モンスターが居るかもしれないこの階層を戻ることすらできないんだ。」
「な、そこまでして来てくれたのか・・・。」
「だから、任せた。魔王を倒せばこの塔のモンスターも消える。頼む、俺たちを救ってくれ。」
「分かった。任せろ!!」
俺はエイルと固く握手をした。
彼らのためにもこの塔を踏破しなくてはならない。
エイルたちと別れてしばらく進むと、俺の地獄耳が通路のずっと先から物音が聞こえてくることに気づいた。
「この先に何かいます。」
分かれ道も無かったので、俺たちは注意しながら進む。
ん?
この声は・・・
「あれ? マッスルさん?」
フロウにも聞こえたようだ。
前方から聞こえているのはマッスルたちの喚き声のようだった。
魔窟で騒いでたらモンスターがやって来て殺されちゃうよ?
「ちくしょう! 殴っても殴っても弱ってる気がしねぇ!!」
マッスルの叫び声が聞こえた。
なにかと戦っているのだろうか。
苦戦しているようだ。
俺の前で、棒を振るっていたフロウが露骨にソワソワしだした。
「うん、いいよ。急ごうか。」
「はい!」
フロウが調べる場所を床だけに限定して、進みを速めた。
と、先の方の通路の床から光が立ちのぼっているのが視界に入った。
どうやら床に開いた落とし穴から灯りが漏れてきているらしい。
俺たちは近づいて行って、緊張しながら中を覗き込んだ。
中に広がっていたのは凄惨な光景だった。
「ちくしょう!!ちょくしょう!!」
落とし穴の中は大量のスライムで満たされ、マッチョたちは腰くらいまでスライムのプールに使っていた。
マッチョは叫びながら拳を振り回していた。
彼らは彼らの身体を舐り上げるように這いずり登ってくるスライムたちを振り払いながら、必死にスライムのプールを殴りつけていた。
スライムは低レベルモンスターだ。
マッチョたちにはダメージが行くことは無いだろう。
だが、スライムは装備から服から道具から何から、命の宿ってないものはどんどん溶かしていくのだ。
「いやぁぁああああん!」
「やめてーっ!!」
剣士と魔法使いが半裸になった胸元を必死で隠しながらスライムに攻撃している。
スライムは自らの形を触手のように変えながら、マッチョたちの身体を這いずり回っていた。
「・・・・・・。」
あまりの光景に言葉を失う俺たち3人。
「あっ!」
魔法使いが落とし穴の上から覗き込んでいる俺たちに気づいた。
「きゃあああっ! あんたたち何見てんのよっ!! えっち!!」
魔法使いが叫んだ。
ちなみにおっさんだ。
「いやああああんっ! 変態ですわ! やめて! 見ないでくださいまし!」
剣士も叫んだ。
ちなみにおっさんだ。
マッスルは両手で胸元を覆ってしゃがむと、スライム風呂に鼻まで使って全身を隠した。
意外にもお前が一番乙女なのな・・・。
「いつまで見てるのよ! 変態!!」
いや、見たくねえよ。心から。
完全に助けに行く気が削がれた。
「ど、どうしましょう・・・。」
フロウが困ったように俺を見た。
「うん、スライムだし、助けなくて大丈夫だとは思うけど・・・。」
「私たちが魔王を倒せばスライムも消えるし、魔王を倒しに行くのが良いんじゃないかな?」
グリゴリー! ナイス提案!
彼らの事はほっといてこの場を去ろう。
それが、彼らのためでもある!!
「そうですね。そうと決まれば急ぎましょう! マッスルさんたちの装備品が全部溶けちゃいます!」
ええ子や。
散々こき使われて邪険にもされて来ただろうに、マッスルの装備品の心配まで・・・!?
装備が溶けるだと!?
『フロウ! 放っておいては彼らが可哀そうだ! ここは俺たちも下に降りていっしょにスライムの中で戦ってあげようではないか!!』
って、言いたい。
「マッスルさん。灯りが溶けちゃったら大変ですから、落とし穴の上に松明置いておきますね。」
フロウが落とし穴のふちに火のついた松明を器用に置く。
無防備なお尻が蹴ってくれとばかりにこっちを向いている。
スライムと美少女・・・。
くそう。
卑猥な妄想が今がチャンスと俺を苛む。
「ディーさん? ぼっとしてないで行きますよ! 」
ぼんやりとフロウを眺めていた俺を、フロウが急かした。
「くっ!」
後ろ髪を引かれる思いで、俺はスライム、いや、マッスルたちを置き去りにして、魔王討伐へと向かった。
背後からマッスルの悲鳴のような怒鳴り声が再び聞こえ始めた。
マッスルたちがスライムとの格闘を再開したようだ。
「ちくしょう!! こいつら叩いても叩いても倒れる気配がねえ! ちくしょう! スライムのくせに、なんでだよっ!」
それはきっと、スライムたちが君らの『ヒーラーイラーヌ』からポーションをすすってるからじゃないかな?




