久しぶりの元パーティーメンバー! そして明かされる真実!!
「嘘だろ!? さすがにあれは無理だ!!」
5階層までモンスターにも会うことなくゆうゆうと到達したマッスルたちだったが、順調だったのはそこまでだった。
まさか、フロアボスでも無いのにヒドラが出てくるなんてあり得ない。
マッスルたちはすぐに踵を返して走り出した。
ヒドラはどたどたと追いかけてくる。
マッスルの走る先に分かれ道が見えた。
「ちくしょう! どっちからきた!」
「憶えてないわよっ!」
いままで、マップ把握はフローレンス任せだったマッスルたちにはどちらから来たかなんて判ろうはずもない。
「右に行きましょう! 狭いからきっとヒドラも追ってこれませんわ!!」
剣士の提案で、少し狭めの通路に入る。
剣士の目論見通り、ヒドラは通路から長い首を何本か差し込むだけで、追っては来れないようだった。
「奥に急いで! 確かヒドラにはブレスがあるはずよ!!」
魔術師が警告し、マッスルたちは通路を奥に進んで曲がった。
ようやく一息ついて、マッスルは言った。
「ここなら、大丈夫だろ。」
「まいったわね。これじゃ戻れない。」
「先に進むしかありませんわね。」
「これ、魔王、私たちじゃ倒せないんじゃない?」
「・・・アイツらが先に戦って、弱ったところを狙うしかないかもしれん。」
「『深紅の殺意』たちが戦っているところを、遠隔から貴方が魔法でとどめを刺せばよいんじゃないかしら。」
「それはちょっとずるすぎない?」
「あちらさんだって、3密を無視しているのでしょう? でしたら、わたくしたちだってこのくらいは許されるのではなくて?」
「確かにいいアイデアだな。」
「そうでございましょう?」
「まあ、それが一番良さそうよね。」
「まずは魔王の場所を把握しておくところからだな。こっちが迷ってるうちにアイツらが魔王を倒してしまうのが一番まずい。」
「そうですわね、急ぎましょう。」
そういって、マッスルたちは進み始めた。
しかし、彼らはフローレンスほどの罠探知能力は持ち合わせていないのだった。
* * *
用意周到なフロウが準備していた透明ビニールシートで通路を仕切って、『深紅の殺意』と『奇跡の癒し手』のふたパーティーは向き合った。
「どうして街に戻らなかった? 背中のポーション機械は壊されてしまっていただろう?」
「ああ『ヒーラーイラーヌ』は壊れてしまった。」
すげえ悪意ある名前だな、あの機械。
「あの時はもう終わったかと思った。」
「ならなんで、危険を犯してここまで上がってきたんだ?」
シーラが俺のことを上目づかいで見つめて口を開いた、
「べ・・・
「別に、お前が心配だったとか、助けられた借りを返したかったからとかいうんじゃ全然ないんだからな! ただ、俺がどこまでいけるか試したかっただけなんだからな!!」
シーラの言葉を遮ってエイルが真っ赤になって言った。
それはシーラに言わせてくれよ・・・。
間違いなく彼女の見せ場だったよ・・・。
シーラは台詞を取られて呆然と口を開けていたが、何故か俺をキッと睨みつけると、プイと横を向いてしまった。
エイルぇ・・・。
「フロアボスを撃破してきたのはお前たちか?」
エイルが訊ねた。
「そうだが?」
「うそだろ・・・お前ら、そんなに強かったのか!?」
「いや、そんな驚かれても。最初のオーガ一匹にすら手こずったんだぜ。」
「あれはオーガキングよっ!!」
シーラが叫んだ。
「普通のオーガと違うの?」
「違うっ!!」
俺らみんなヒーラーだから、魔法使いみたいに細かいモンスターの違いはよくわからん。
「2階層のフロアボスもお前たちがたおしたのか?」
「そうだけど、2階層だってジャイアントクロコダイルだったし・・・
「あれはバジリスクよっ!!」
えぇ?
「バジリスクだったら俺も名前くらい知ってるけど、石化ブレスなんて一切吐いてこなかったぞ?」
「もしかして、グリゴリーさんがずっと噛まれてたからブレス吐けなかったんじゃないですか?」
「そういえば、噛まれたまま顎にしがみついてたからなぁ。」
「おお、なるほど。」
「という事は3階層のボスも?」
「うん? 3階層はただのジャイアントウルフだったけど・・・
「あれはフェンリルよっ!!」
えぇ?
「フェンリルは俺も知ってるけど、あいつ喋りもしなかったし、氷魔法とかも唱えてこなかったぞ?」
「もしかして、グリゴリーさんがずっと噛まれてたから喋れなかったんじゃないですか?」
「そういえば、噛まれたまま顎にしがみついてたからなぁ。」
「おお、なるほど。」
「お前たちは一体どういう戦い方をしてきたんだ・・・?」
エイルが困惑している。
ああ! そうか。
「4階層のフロアボスはファンタンゴかと思ったけど、きっとファンタンゴじゃなくて、キノコ人間型の別のモンスターだったんだな。だから弱かったんだ。」
「キノコ人間型のモンスターなんてファンタンゴしかいないわよっ!!」
「お前ら・・・ファンタンゴを弱いとか・・・。」
エイルたちがドラゴンでも見るかのように俺たちのことを、畏怖の眼差しで見つめた。
「お、おう。」
なんか俺たちの株が爆上げしてるみたいだから、ファンタンゴにマスクが有効なことは黙っておこう。
「くっ!高レベルヒーラーの抵抗力とはファンタンゴの胞子すらもものともしない程なのかっ! ディーレを追放した俺の目は完全に節穴だったようだ・・・。」
エイルはがっくりとうなだれた。
たった今、全国のヒーラーに対して正当ではない評価が生まれてしまった気がする。
でも、黙っちゃう。
空気的に言い出せん。
「まあ、ほら、俺たちお前らが来てくれなかったらいまの幽霊も倒せなかったしさ。そんな気を落とすなよ。」
あまりにエイルががっくりとしているので慰める。
「あれは幽霊じゃなくてリッチよっ!!」
「リッチ?」
知らない単語だ。
「王冠かぶってたでしょ?」
「王様の幽霊なんじゃないの?」
「幽霊の王様よっ!!」
「へぇ~。」
俺たちヒーラー3人はシーラの博識に舌を巻いた。
さすがは魔術師だ。
エイルは呆れたように俺たちを見た。
その眼差しには馬鹿にしたような色は無く、尊敬や憧れのような強い思いが乗っていた。
「お前たちなら、この塔の魔王も倒せるかもしれないな・・・。」
ん?
「魔王?」
俺たちは3人そろって首をかしげた。




