4人以上の集まり禁止! ヒーラーなんてポーションみたいなもん!
『ピン↑ポン↑パン↑ポーーン』街に放送が鳴り響いた。
緊急時に使われる回線だ。
『コロナウィルス対策のため、本日正午より、4人以上での集会を禁止いたします。これは、飲食、職場、移動のための集合も含みます。破られた方々については厳罰に処します。家族間におきましても、できる限り4人以上の密接を避けるようにしてください。』
都民たちは放送の響く空を見上げてため息をついた。
また一つ制限が増えた。
政府は次々と対策を繰り出してきた。
それでも感染者は増える一方で、コロナ禍は収まる様子を見せない。
『繰り返します。コロナウィルス対策のため、本日正午より、4人以上での集会を禁止いたします。これは、飲食、職場、移動のための集合も含みます。破られた方々については厳罰に処します。家族間におきましても、できる限り4人以上の密接を避けるようにしてください。』
繰り返される放送をもう一度聞いて、人々はリリィ王都知事に悪態をつくのだった。
『ピン↓ポン↓パン↓ポーーーン↓』
俺はエイルに呼び出されて、酒場に降りてきた。
二階は宿屋で、俺たちパーティーは全員ここでお世話になっている。
自慢じゃないが良宿だ。
下にはエイルとビーリーが待っていた。シーラは居ないようだ。
彼らと同じテーブルについた俺はアクリル板越しに二人に話しかけた。
「いちおうコロナ禍だし、飲み会は控えようって話じゃなかったっけか?」
王都では7人以上でなければ飲み会は禁止はされていないが、控えるようには言われている。
いや。
そういえば今日の昼から4人以上は飲み会にしろ何にしろダメになったんだっけ。
「ディーレ。今日はお前に大事な話があるんだ。」
エイルはかしこまって言った。
「なんだ?」
「お前にパーティーをやめて欲しい。」
「なっ!?」
俺は、思わず絶句した。
「なんで? なんでだよ・・・。ずっと仲良くやって来たじゃないか。」
「仲良し? 仲良しとかじゃない。俺たちは冒険者と言う仕事での集まりだ。」
エイルはアクリル板越しに俺をキッと睨んで話を続けた。
「知っての通り、4人以上の集まりが禁止された。だから、俺たちも3人パーティーにしなくてはならない。だから、一番必要性の薄いお前を解雇することにした。」
「なんでだよっ!」
俺は机をドンと叩いて思わず立ち上がった。
「お客様、大声はご遠慮ください。」
酒場のマスターが静かに注意を促した。
俺は気まずくなって、酒場のマスターに頭を小さく下げると着席してエイルに訊ねた。
「何だよ。俺が役立たずとでも言うのか?」
「別に役に立たないとまでは言わない。ただ、回復だけならポーションでだってできるんだ。今は、在宅が多くてみんな怪我をしないからポーションが余っていて安い。」
エイルは死刑宣告をするかの如く、低い声で俺に告げた。
「ビーリーはタンクだ。後列職が居る限り抜けるわけにはいかない。そして俺は剣士でアタッカー。前線に必要だ。残るはシーラとお前だが、シーラは俺たちに補助魔法がかけられるし、アタッカーとしても優秀だ。それに、魔法しか効かない敵が出てきた時に絶対に必要だ。」
「アタッカーが二人居るんだったら、お前が抜けて俺が残る可能性だってあっただろ!」
「後列二人の前列一人は複数の敵に対処できない。」
エイルは冷徹だ。
ちくしょう。
今までいっしょにやって来たのにそんなに簡単に切るのかよ。
「俺だって回復の他にも色々やってきただろ? ずっといっしょにやって来たじゃないか!」
「例えば何がある?」
エイルが挑戦するかのように俺に訊ねた。
くそムカつく。
「例えば・・・ヒーラーは援護魔法がかかりやすい。肉体の構造を知っているからだ。シーラの支援魔法を生かすことができる。」
「お前は支援されたところで敵への攻撃力が弱い。そもそも、今までシーラに支援魔法をかけてもらったことなんてあるのか?」
くそっ!
ねえよ。
「そうだ!俺はヒーラーだから抵抗値が強い。だから、カウンターマジックからも俺は外れても問題ない。」
「それで敵が倒せるのか?敵を倒しているのは結局俺たちだ。」
「それに、後方職だとはいえ戦えないわけじゃない。」
「そうだな。でも、俺は剣士だ。俺のほうが戦える。そう思わないか?」
「・・・えーと、その、怪我や毒の回復が・・・。」
「そうだな。それは本当に助かった。ありがとう。だが、それはポーションで代用できるんだ。」
「・・・・・・。」
くそ・・・。
何だよ・・・。
何でだよ。
今までみんなと戦ってきた思い出が脳裏をよぎる。
あれは全部見せかけのものだったのだろうか。
「シーラは? シーラはここに居ないんだ? 彼女はなんて言ってる?」
シーラはうちのパーティーの魔法使いだ。結構カワイイ。
同じ後列だけに何かと話すことが多かったのに、何で来てくれなかったのか。
彼女ならきっとこの状況を止めてくれるはずだ。
恋人同士という訳ではないが、パーティーの中では一番話をした仲だ。
互いについて軽口叩いたり、罵りあったり、忌憚なく文句を言い合えるような仲だった。
・・・あれ?
俺、良いこと言われて無くねぇか?
もしかして、ホントは仲良くなかった!?
「お前はバカなのか!?」
冷ややかにエイルが言った。
「俺とビリーがここに来ているという事をよくよく考えてみろ。」
くそ。
シーラはやっぱり俺の事嫌いだったのか。
思い返せば文句と罵詈雑言しかあびてねぇ!
「シーラが来たら4人の集まりになってしまうんだぞ! 3密違反だ。」
まじかよ。そんな理由かよ。忘れてたよ。
「これは彼女も納得済みの決定だ。」
「そんなの納得できるか! シーラも呼んで意見を聞かせてくれ! きっと彼女なら解ってくれる!」
「甘ったれるな!」
エイルが机を叩いた。
酒場のマスターが再びこっちを睨んだ。
エイルは小さくなって続けた。
「じゃんけんで負けて、彼女はここに来るのを断腸の思いで諦めたんだぞ。」
じゃんけんで決めないでくれ。
「会いたいというなら尚更・・・。」
「ふざけるな! シーラは泣いて我慢したんだぞ! お前がワガママを言うんじゃない!」
泣きたいのはこっちだよ!
てか、泣いてたんなら、どっちかここに来る権利を譲ってやってくれよ。
特にビーリー。
お前、ここに来てから何一つしゃべってないじゃん。
そうだよ!
よく考えたらシーラとよく話してたのだって、お前が全然しゃべんないから、エイルが居ない時は必然的に二人の会話になってたんじゃねえかっ!
おかげでシーラといっぱい話ができました。その点についてはありがとうございます。
「俺たちだって、お前と別れたくはないんだ・・・。」
そう言って、エイルは泣き始めた。
ビーリーも目に涙を湛えている。
ええぇ・・・。
ホント、泣きたいのはこっちなんですけど・・・。
そっちが先に泣くのってずるくない?
さすがにこういう時に発すべき言葉が見つからなくて困惑する俺。
「お前という回復役が居なくなってもやっていかなくちゃ行けない俺たちだって辛いんだ。こっちの気持ちにもなってくれ。」
エイルは泣きながら言った。
なにが、こっちの気持ちだ。
さっき、俺の変わりはポーションでできるとか言ってたじゃねえか?
結局のところ、お前ら、俺のことをポーション程度にしか見てないってことだろ。