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世界最強の司書さんは迷宮暴走を蹂躙する

「大変だ。迷宮暴走が起きたぞ~~~~」

 一人の冒険者がギルドに慌てて入るとそう叫んだ。

 迷宮暴走・・・それは迷宮と呼ばれる普段は魔物が湧き宝箱が取れる貴重な資源である迷宮の魔物が暴走を起こして大量に繁殖もしくは迷宮によって生産されて迷宮の外にまで溢れ出して暴れるという恐ろしい災害である。


「迷宮暴走だって。暴走したのは何処だ?」

「か、火炎獄迷宮だ」

 火炎獄迷宮・・・それは火炎系統の魔物が主に出る迷宮。迷宮としての難易度は非常に高く入るには最低でもBランク冒険者でなければ難しい。そんな火炎獄迷宮の魔物が暴走となるとここら一体全てが更地になるのを覚悟しなければならない、いやそれどころか王城にまで被害が及ぶかもしれないそんなかなり危険な状態である。

「火炎獄迷宮だって。そんなまさか。本当か間違えじゃないのか?」

「ああ。本当だ。確かに火炎獄迷宮で魔物が大量に蠢き、下層の魔物含め上に上がっていっているのを見た」

「マジか。それはヤバいな。こうしてはおれん。今すぐギルドマスターに知らせなければ」

 そうして話を聞いていたAランク冒険者は慌ててギルドマスターの管理室に走った。


 ――――――――――――――――――

「ギルドマスター。大変です火炎獄迷宮が魔物暴走しました」

「何だって。それは不味いわね」

「はい。どうしましょうかギルドマスター、取り敢えず火炎獄迷宮となるとまともに対処できるのはBランク冒険者じゃなければ難しいです。下手にBランク以下の冒険者を送り込んでも無駄な死者を増やすだけです。せめてSランク冒険者である【支援王】や【氷姫】に【海回探】がいれば話は別なのですが」

「そうね。でも残念ながらその3人は今別の依頼をこなしているわ。ここに今すぐに呼び寄せることは不可能だわ。それに今は間の悪いことにSランク冒険者が全員出払ってしまってるわ。せめて昨日もしくは明日魔物暴走が起きればSランク冒険者パーティーの【摩天楼】がいたのに」

「そうですね。でもないものねだりしたってしょうがありません。ギルドマスター、今すぐに火炎耐性のある装備を用意してBランク以上の冒険者を集めてください。なんとか時間稼ぎをしましょう。そしてその間にSランク冒険者を呼んでください。もちろん私も戦います」

 彼はギルドマスターにそう頼み込む。そして魔物暴走を食い止めるという危険な戦いに志願した。彼はベテランAランク冒険者であり正義感に溢れる人物であった。周りからの人望も厚く【正騎士】という二つ名で知られる有名な冒険者であった。


「待て。正騎士早まるな。正直に言おう。火炎獄の魔物暴走を食い止めるとなったらBランク以上という貴重な戦力である冒険者がどれだけ死ぬ?どれだけの損害が出る?そしてまた次何か起こった時にこの被害は大きく響く。もしやるならば火炎獄迷宮周辺にある建物を犠牲にして土魔法と氷魔法を使い四方を壁て覆い中に人に死体や魔物の肉を入れてSランク冒険者が戻るまで時間稼ぎする。これが一番いい方法だ」

「待ってください。ギルドマスター今からそんなことしても足の速い若者は逃げれるかもしれませんが。老人や病気を患っている人は逃げ出せれませんよ。それに自分の家を離れたくないと逃げない人も絶対に一定数存在します。確実に一般市民に被害が出ます」

「ああ。知っている。でもそれが一番損失が少ない」

「ギルドマスター、それでも貴方は人間ですか。そんなこと、そんなこと・・・・・・でも。そうですね。それしか方法は・・・・・」

 正騎士は二つ名通り正しい人間である。正義感に溢れた人間である。ただベテランである。昔ならばともかく今現在ギルドマスターの言った作戦が一番被害が少なくて安全だという事を理解した。そしてそれを飲み込んだ。


「それしかなさそうですし。そうしましょう。ではギルドマスター壁を作る魔法使いの手配頼みますよ。私は今から一人でも一般市民の被害を少なくするために避難勧告をしてきます」

「ああ。まかせた」

 そして正騎士は管理室を飛び出した。


「ハア。さてと。じゃあ取り敢えずユウヤに連絡を入れるか。念話発動」

 ギルドマスターは自分のスキルである【念話】を発動させてユウヤに連絡を試みた。


「おお。カレンどうした?」

「ユウヤ単刀直入に言う火炎獄迷宮が魔物暴走を起こした。だからそれを蹂躙してくれ」

「ああいいよ。今丁度本を読み終わったところだし、仕事も取り敢えずひと段落ついているから」

「おお。そうかそれはありがたい」

「いいよいいよ気にしないで。ただ。一応聞くが、誰にも俺の事は話してないよな?」

「ああ。もちろんさ。ユウヤが目立つのは嫌いと知っているからな」

「いや、別に目立つのは嫌いじゃないよ。ただ目立って本を読む時間が減るのが嫌いなんだよ」

「そうだったのか。ユウヤらしいな」

「だろ。まあいいや。そんじゃあサクッと終わらせてくるわ。火炎獄迷宮の魔物暴走によって本が焼かれるのは許せないしね」

「では頼んだぞ。ユウヤいや、Sランク冒険者・【不可視の不可侵略】よ」

「おいおい、カレン。その二つ名少し恥ずかしいからわざわざいうなって、まあいいけど。そんじゃあ今度こそ終わらせるわ。火炎獄迷宮まで転移」

 ユウヤは念話ごしにそう言って火炎獄迷宮にまで転移した。


 ――――――――――――――――――


 火炎鳥・火炎蛇・火炎ゴーレム・火炎鯰・火炎竜・火炎狼・火炎スライム・火炎蜥蜴・火炎魚等々。

 火炎系統の様々な凶悪な魔物達が地上を目指して迷宮を這い上がっている。

 その数は驚異の1万越え。

 もし。普通ならばSランク冒険者がいない今、確実に多大なる被害が出ること間違いなしである。少なくとも犠牲無しでこの状況を打破するにはSランク冒険者が到着するか、王族の身を守る親衛隊が動くかの2択である。

 ただ前者は少なくとも半日はこれず。後者は基本的に王族を守っているため、一般市民が被害にあうというこの状況で動くことは無かった。

 つまり絶望であった。


 ――――――――――――――――――


「クソ。ヤバいまだ避難が完了していないのにもう第一陣がきやがった。しかもなんて数だ。これは本当に俺は死ぬかもしれないな」

 正騎士はそう言って乾いた笑いを出した。

 その時だった。


「水魔法・水没・氷魔法・瞬間冷凍」

 魔法の短縮詠唱が何処からともなく聞こえた。

 その瞬間、火炎獄迷宮の入口からいきなり水が溢れ出し爆発しながら水しぶきを上げてから水しぶき事綺麗に凍った。

 何もかもが凍った。

 あれだけいた魔物もその魔物によって広がり始めた火も、全てが凍った。


「へ?」

 正騎士含む、周りにいた冒険者たちが間抜けな声をあげる。

 ただ無理もなかった。それだけ今起きたことが現実離れしていたからだ。

 たった2つの魔法で火炎獄迷宮の魔物暴走を終わらせた。かかった時間も1分を切っている10秒とかいっても過言じゃない。

 それはまさしく蹂躙。

 圧倒的な格上による圧倒的な力による蹂躙。

 その言葉がピッタリ合うようなそんな状況だった。


「俺達は助かったのか?」

 想像を絶する光景を見て放心状態の最中。一人のBランク冒険者がそう呟いた。

 そして皆自分達が助かったという事実を理解する。


「おおおおおお。良かった~~~~~。怖かった。死ぬかと思った」

 一人の冒険者が安堵の声を上げた。冒険者だって人間である死ぬのは怖い。ましては今さっきまで魔物の大軍を見て死を覚悟してたのならば尚更だ。


「本当だ。俺生きてる」

「ああ。そうだな生きてるよ。いや良かった。本当に良かった」

「怖えええええええ。マジで怖かった。ママ~~~~~」

「お前泣くなって」「いや。そう言うお前こそ泣いてるじゃん」

 冒険者達は皆思い思い安堵の言葉を上げる。

 そんな中、正騎士だけが疑問を抱いて恐怖に震えていた。

 今回、自分達を助けてくれたのは誰かということに?

 今回使われた魔法は水没と瞬間冷凍の二つだ。

 両方とも上級魔法であり、迷宮丸ごととなるとかなりの魔力が要求される魔法だ。そんな魔法を短縮詠唱で放てる存在、少なくともSランク冒険者並の力があることは確定である。

 ただ、そうなると誰だとなる?

 Sランク冒険者で氷魔法を使うと言えば【氷姫】が有名であるが彼女は氷魔法しか使えない。水魔法で言えば【海回探】であるが彼は氷魔法を使えない。氷魔法と水魔法両方使えるSランク冒険者といえば、【魔導王】が思い浮かぶが、魔導王は基本的に自分の作った塔に引きこもって研究に明け暮れている。

 正騎士は分からなかった。自分達を助けた圧倒的な力を持つ何者かが、そしてそれが酷く怖かった。

 何故ならそれだけの力を持った存在が誰にも知られることなく存在して自由に力を振るっているのだから。もしもその力が自分や一般人に降りかかった時にどれだけの犠牲が出るか。

 それを考えたら本当に怖くて恐ろしくなり恐怖に震えてしまう。

 もちろん自分達を救ってくれたことは感謝している。ただ。理由が分からないのが怖いのだ。正義感に溢れて優しい人物ならば助けてくれたことに納得できるが。じゃあどうして姿を現さない。恥ずかしがり屋なのかなって?そんなのは流石に都合がよすぎる。

 そもそも論として人望に厚く様々な情報を持っている自分はSランク冒険者並、いや下手したら超えるレベルの力を持ちつつ優しい心で恥ずかしがり屋な存在を知らない。知ってたら噂になる。それを知らない時点でその考えはなしだ。


 ・・・・・・・・・・


 そして正騎士は考える。考えて考えて考えて。一つとある結論が思い浮かぶ。

 もしかし【不可視の不可侵略】ではないかという結論に。

【不可視の不可侵略】とは誰もその正体を知らない、誰もその正体を探ろうとしてはいけない。誰もそれと関わってはいけない。それは世界最強と言っても過言ではない程の圧倒的な力を持ちつつも誰も知らないという謎しかない存在である。

 ただ。それは一切なんの前触れもなくSランク冒険者ですら不可能な驚くべき偉業を簡単に成し遂げる。

 100万の魔物の群れをたった一人で殲滅した。火山の噴火を自力で止めた。空から降って来た巨大な隕石を跡形もなく消滅させた。世界各地に根を張る巨大犯罪組織・ウロボラスを壊滅させた。等々。

 到底たった一人で成し遂げれないような偉業。しかし誰がやったという証拠がないからこそ【不可視の不可侵略】がやったとなる偉業。

 そう考えた瞬間正騎士の中でストンと落ちた。

 なるほど。【不可視の不可侵略】がやったのかそれならば納得できた。そして同時に安堵した【不可視の不可侵略】は誰も知らないが少なくとも一般人に危害を加えたことは一度もないし。何か莫大な見返りを請求したとかも聞かない。

 だから正騎士は自分の命が助かったことを他の冒険者達と一緒に素直に喜んだのだった。


 ――――――――――――――――――


「さてと。取り敢えず火炎獄迷宮の魔物は全員死んだかな?やっぱり水蒸気爆発は強いね。流石に普通に凍らすだけだった低レベルの魔物はともかく火炎竜レベルは氷を溶かして普通に襲ってくるからな。一旦水を使って水蒸気爆発を起こしてから殺す。もしくは大ダメージを負わせてからの一気に瞬間冷凍は強いわ。まあ、迷宮って言う超硬い壁に覆われた場所じゃないと二次災害が起きそうだけどね。さて、じゃあ国立図書館に戻って新しく本を読みますか。転移」

 そうしてユウヤはいつもの様に何事も無かったかのように本を読み始めたのだった。

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