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第97話 おじさん、基地内に突入する①

 バス停には多くの生徒がいたけど、帰りのバスに乗り込むのは私たちだけだった。

 ダント氏に聞いたところ、「聖ソレイユ女学院バス帰宅部」というハッシュタグが流行っていて、集合時刻が三十分後に設定されているらしい。

 帰宅部の活動として「寄り道」が女学生に人気らしく、過去の履歴を確認すると、カフェや出店などでのSNS映えを狙った画像が多数投稿されていた。


「私も参加したいなあ……」

「だめ。先に前哨基地の問題をクリアしてからだよ」

「赤城先輩は私より無冠の剣聖の方が大事なんですか?」

「夜見ちゃんの方が大事だから行くんだよ」

「よく分かんないです」


 今日の赤城先輩もなんだか怖くて厳しい。

 理由を尋ねても「あとで説明するから」の一点張りだ。

 その様子に、何となく過去の記憶と重なる部分があった。


「ダントさん」

「何モル?」

「なにか隠してませんか? また越前後矢に恐喝されてるとか」

「もう何もないモルよ」

「むう」

「夜見ちゃん」

「はい?」


 赤城先輩がこちらを見つめる。

 いい笑顔だった。マスクで口元が見えないけれど。


「着いたよ。降りよっか」

「ああ、はい」


 もう市内に到着したらしい。

 状況的に都合が良すぎて困る。


「赤城先輩」

「なぁに?」

「バスごとテレポートさせました?」

「ひみつだよ」

「どうしてそう、私だけに隠すんですか?」

「じゃあヒントね。夜見ちゃんもリズールさんのことは知ってると思うけど、あの人がどういう目的で動いているかは知ってる?」

「……そこまでは」

「今日はそれを知る日だよ。前哨基地に行こっか」

「どうしてそうなるのかよく分かりません」


 私は先輩に手を引かれてバスを降りる。

 子供っぽく()ねている実感はあるが、少し感情的になっていて止められない。

 すると、あとから降りてきたヒトミちゃんが手を上げた。


「すみませんお姉さま!」

「どうしました?」

「私は邪魔だと思いますので少し席を外します! またあとで!」

「ヒトミちゃん!?」


 引き止める間もなく走り去っていった。

 彼女が見えなくなったタイミングで、赤城先輩は手を離す。


「さて、共犯者が減っちゃったところで」

「共犯者って……」

「開示出来る情報がひとつあります」

「情報?」

「ダークライの残党が潜伏しているので、C-D部隊駐屯地には入場出来ません」

「閉鎖中なんですか!?」

「うん。ほら」


 赤城先輩が視線を右に動かす。

 視線を向けると、そこは数日前に見た産業廃棄物置き場のような公園で、入り口にはバリケードが敷かれ、厳重に封鎖されていた。

 周辺には朔上ファウンデーションの武装車両と、簡易検問所のようなコンテナハウスもあり、何人(なんぴと)たりとも寄せ付けない威圧感がある。


「ほんとだ」

「ほんとだモル」

「朔上が厳戒態勢で見張ってるから、特殊な手続きでも入れない。どうすればいいと思う?」

「「――」」


 ダント氏と顔を合わせたあと、まずは五感で情報を探ってみた。

 風に潮の香りが混じっていることから、ここが海沿いであり、バス停の標識には大きく「C-D部隊駐屯地前」と書いてあることから、目的地に到着したことも分かる。

 だから最初の質問は、前哨基地に向かう方法?


「赤城先輩。質問なんですけど」

「なぁに?」

「前哨基地はこの中ですよね」

「そうだね。廃棄物置き場の中にある」

「先に聞きますけど手段は問わない感じですか?」

「わお。わりとダーティーな考え方も出来るんだね」

「いやまあ、出来るというだけで」


 やりたくないですけど、と小声で漏らすと、赤城先輩は拍手してくれた。


「いいね。合格。賢い」

「どもです」

「じゃあ答え合わせだね。ダブルクロスのイベント運営は、参加者のポイント乱獲を防ぐために、ああしてフィールドを封鎖することがあります」

「え、ええと、運営がですか?」

「うん。それと忘れちゃいけないのが、光の国ソレイユとダークライの戦いは、ダークライの自滅により形勢が逆転したということ。実はね、越前後矢は捕虜なんだ」

「捕虜」

「分かりやすく例えるなら敵士官クラスの捕虜。リズールさんは彼の生存を釣り餌に、梢千代市に潜んでいる敵工作員(スパイ)をあぶり出す罠を仕掛けた。何かと話題の君――プリティコスモスの存在をちらつかせながらね。その結果として「無冠の剣聖」を名乗る何者かが釣れた」

「……な、なるほど」

「自分たちの存在に気づかれたくないから敵も必死みたいだね」


 どうやら私は、敵をおびき寄せる作戦に巻き込まれていたようだ。


「それはイベントと何の関係があるモル?」

「まあ分かりやすく言えば、「争奪戦の悪役」という立場を利用したリズールさんが、ダークライの残党狩りついでに超高難易度イベントを組んだ可能性がある」

「超高難易度イベントを」

「うん。あくまでも悪役だからねあの人。だから私が着いてきたわけ」

「何をするんですか?」

「テレポートで高難易度イベントをスルーして無冠の剣聖を倒す。中等部生が攻略できない難易度のイベントは私の信条的に認められない」

「――そういうことでしたか。覚悟は必要ですか?」

「いや、いい。夜見ちゃんは顔合わせだけ。私が秒で終わらせる」


 赤城先輩はマジカルステッキを取り出した。

 続いて、彼女の照魔鏡のごとき瞳が駐屯地を見つめる。

 虚空を見つめるネコみたいで可愛いな、と何となく思った。


「――見つけた。夜見ちゃん、手握ってて」

「は、はい!」


 手を繋ぐと、あっという間に風景が変わる。

 廃墟になった司令室というか、作戦室というか、大きなテーブルと世界地図が置かれた寂しい部屋に、三体の異形が立っていた。

 食いしばっているような顔付きの、白骨で出来た人間大の何かだ。

 突然現れた私たちを見て、彼らは声を荒らげる。


『HERROR!』

『HERROR! ERROR!』


「ヒーラー!?」

「何モル!?」

「――名称は欲魔(ヨクボーン)。ボンノーンの元になる寄生生物を売り捌く、密売の悪魔たちだよ。結界に引っかかって抜け出せなくなってたみたいだね」

「よくぼ、密売の悪魔!? 結界!?」


 先輩は私を守るように腕を振るう。

 マジカルステッキが変化し、黒いチェスの駒――バトルデコイになった。


「おいで。私の聖獣さん」

「赤城先輩、それは――」

「バトルデコイ・ダークナイト。スタンバイ」

『承知仕る』


 敵に向かって投擲されたバトルデコイは、中空で爆発。

 蒼炎を撒き散らし、その場を焼き尽くす。

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