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第94話 おじさん、SNSを始める

 遙華ちゃんと共に映画を見て、就寝し、土曜日は終わる。

 日曜日は外出日和ではあったが、マジタブを前に一歩も動けず一日を終えた。

 翌朝の登校中、ダント氏からこう言われる。


「マジスタを始める勇気がないモル?」

「あはは、何というか、久しぶりに一人おじさん問答しました」

「一人おじさ――何モル?」

「本当に大丈夫なのか、始めるべきかと頭の中で考えることです」

「悩むより先に行動するべきだと僕は思うモル」

「でも、承認欲求に負けて裏アカ女子みたいなことしそうで」

「負けても良いと思うモルよ」

「どどど、どうしてです!?」

「夜見さんの性欲が僕に向き始めてるモルから。正しい方向に発散して欲しいモル」

「で、でも、えっちなのはいけないと思いますっ!」

「それに承認欲求を満たすことで生まれるエモ力は多いモル」

「そ、そうかもしれませんけど……私で、良いんでしょうか」

「はあ、この鏡をじっくり見てから言って欲しいモル」


 ダント氏に手鏡を渡された。身だしなみチェックに入る。

 ピンク髪をツーサイドアップにした主役級の美少女がそこにいて、高校生に見間違われるほど発育した容姿に、白い制服が十一月中旬の梢千代市に映えて綺麗だ。

 これで中学一年生なのだから、自分の将来性が末恐ろしい。


「とりあえず鏡に映る私は今日も世界一の美少女だなってことは分かりました」

「第一印象とチャームポイントはどこか分かるモル?」

「ええと、顔の良さ、身長の高さ、発育の良さ」

「それが世間一般の方から見た夜見さんの優れている点モル」

「なるほど?」

「改めて言うモルけど、魔法少女が自己承認欲求を満たすために活動するのはわりと自然なことモル。自分の優れている点を前面に押し出すことに何の罪もないモル」

「そ、そうなんですか」


 同時にバス停に到着。

 そうか、いいのかと納得した私は、勇気を振り絞った。


「まずは中等部一年組のみんなに相互フォローをお願いしようと思います!」

「じゃあ先にマジスタのアカウントを開設しておくモル」

「あ、お願いします」

「何の話してるんー?」

「ひゃああっ!?」


 つう、と背筋を指でなぞられ、思いっきり女の子の声を上げてしまう。

 ひょいと後ろから顔を覗かせたのはおさげちゃん。

 彼女は私を見ながらクスクスと笑った。


「夜見はんは隙だらけやなぁ」

「お、おさげちゃん、いきなり何するんですか」

「ちょっと機嫌が良いだけやで。夜見はんおはよう」

「ああ、はい。おはようございます」


 よく分からないけど、機嫌が良いのは助かる。

 到着したバスに乗り、昇降口でいつものように向かい合うと、おさげちゃんはマジタブを取り出した。


「夜見はん、うちをフォローしたいんやろ?」

「だ、だめですか?」

「一緒に写真取ってくれたらええよ」

「ああ、それくらいなら」


 おさげちゃんがカメラを起動したので、彼女と同じ枠内に収まるように屈んだ。

 カシャ、と撮影音が鳴ったと同時に、車内が色めき立つ。

 自身のマジスタにツーショットを投稿した彼女は、ご満悦いった表情だ。


「うちの勝ちやな」

「何かの勝負を?」

「夜見はん」

「はい」

「自分が世間でどれだけ好かれてるか、はよう自覚した方がええよ」

「? はあ」


 と言われても、という顔でキョトンとする。

 マジスタ活動はこれからなので何とも言えなかった。


「夜見さん。アカウント開設できたモル」

「ありがとうございますダントさ――」


 おさげちゃんに相互フォローを申し込もう、というタイミングで、ポコロン、と音が鳴り、赤城先輩からフォローされた。コメントも付く。


『でも夜見ちゃんのファーストフォロワーは私のもの』

「赤城先輩は動きが早いなあ」

「だって近くにいるもん」

「うわあああ!?」


 驚いて後ろを見る。

 赤城先輩がバスの座席に座っていた。全く気づかなかった。


「い、いつから!?」

「入学初日からずっと後ろにいるよ?」

「なんで!?」

「私もバス通学だから」


 怖い!


「なんで話しかけてくれないんですか!?」

「友達と仲良くしてるとこに水を差すのは良くないからね。いつ気づいてくれるかなー、って静かに見守ってた」

「あわわ、お、おさげちゃん」

「うちは知ってたで。見えるし」

「なんで教えてくれないんですか!?」

「だって、バスの中の夜見はん、ずっとうちのことだけ見てくれるし」


 視線を独占したかってん、といじらしく振る舞う。

 周囲の生徒を見ると、ようやく気づいたか、と腕組理解者のポーズ。

 そりゃ毎朝、私たちが話題になるわけだ。


「夜見ちゃん」

「な、なんですか赤城先輩」

「ようやくマジスタを始めてくれたね。早速ここで自撮りしよっか」

「わわ、分かりました」


 言われるがままにカメラを起動。

 赤城先輩とおさげちゃんを左右に侍らせつつ、精一杯の笑顔で写真を撮った。

 ハッシュタグ「#聖ソレイユ女学院バス通学部」を付けてマジスタに上げると、真っ先に赤城先輩がいいねし、三秒後には百件を超え、通知が鳴り止まなくなった。

 バスを降りる頃には、いいね数が1万件を超えるという異常事態だ。


「夜見ちゃん、また明日もバスで会おうねー」

「あわわ、はい」


 赤城先輩や同乗者の方々は満足そうに去っていく。

 私も続いて正門に向かうも、心がバスの中に取り残された感じだ。


「だ、ダントさん」

「めちゃくちゃバズってるだけモル」

「は、はい。どうしてです?」

「あんな夜見はん。聖ソレイユ女学院の部活はな? 毎日マジスタのハッシュタグで参加者を集ってるんよ。現地集合、現地解散が基本のな。この一期一会の部活動がな、ファンの間でめちゃくちゃ人気やねん。せやからバズるんよ」

「へえー……」


 初めて知った情報だ。

 マジスタをやっていなかったのだから当然か。

 おさげちゃんと一年Z組の教室に入った私は、いちごちゃんに「他のSNSでめちゃくちゃ拡散されてるわよ」と教えられ、さらに情報を聞きつけたファンが流れ込んだらしく、私のマジスタフォロワーが十万人を突破したとも知り、さらに驚いた。

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