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第90話 おじさん、挑戦状を送られる

 ドアが開いたのはそれから一時間後だった。

 朝の支度を終え、輝くような美少女中学生となったサンデーちゃんは、私の背後を見て眉をひそめた。


「――夜見さん、その後ろの列は何ですの?」

「争奪戦についての相談を持ちかけたい女学生の列です」

「ああ、なるほど。有名税ですのね」


 彼女の言う通り、私を先頭に聖ソレイユの女学生が列を作っている。

 自称する学年や陣営は様々ながら、私に問いかける質問はただ一つ。

 ……あ、ちょうどいいタイミングで新しい相談者が来た。


「あの、エモーショナル茶道部って、争奪戦攻略のために集まる部活って本当?」

「ダントさん」

「事実モル。まだ発足したばかりモルけど」


 噂はホントなんだ、と相談者は喜んだ。


「私も部活に入りたい! 並べばいいの!?」

「二時間待ちですから明日に――」

「分かった! 並ぶね!」

「あ……はい」


 という感じで長くなっていったのだと、視線でサンデーちゃんに伝える。

 彼女は眉間を摘んだあと、まあいいですの、と部屋に招き入れてくれた。



 部室の中は至ってシンプルな会議室。

 中等部一年組の居住スペースは隣の物置部屋にあるらしい。

 部長のいちごちゃんは、部屋の外で入部希望者が長蛇の列を作っていると聞き、目をパチクリさせていた。

 私は申請用パンフレットの束を用意しながら、いちごちゃんに聞く。


「受け入れますか?」

「受け入れるに決まってるじゃない。女学院に新しい派閥を作ってやるわ」

「ためらわないんですね」

「夜見のためだもの。私たちは中等部一年なら最上位だけど、全学年で見れば正直言って弱い。まだ徒党を組んで派閥を作ることでしか貴方をサポート出来ないのよ」

「ありがとうございます」


 いちごちゃんも色々と考えているようだ。


「それより今日は冷え込むんだから、早く配って帰宅させなさい」

「はーい」


 私はドアを開け――る前に、新しい固有魔法、コーヒーブレイクを使用して、さらに友好的に振る舞うべきではないか、と考える。


「ダントさん、コーヒー配ったほうが良いですかね。外は寒いですし」

「いいアイデアモル。変換素材は何にするモル?」

「何かあるかなあ」


 軽く部室を見回した。

 部屋の一角に給湯スペースがあり、自由自在にお湯を出せると発見。

 温度を55度に設定し、垂れ流しにする。


「よし、いきます。コーヒーブレイク」


 お湯が止まったかと思うと、蛇口からガラガラと缶コーヒーが出始めた。

 あっという間にシンクいっぱいに貯まる。

 音に驚いたのだろう、中等部一年組は何事かと集まってきた。


「夜見、何したの?」

「何って、固有魔法で蛇口から出るお湯を缶コーヒーに変換しただけですよ」

「え、すごーい! 何その魔法!」

「夜見はんそんな凄いことも出来るんやなあ!」

「えへへ」


 という茶番を挟みつつ。

 私がホットコーヒーを出した意図を理解してくれた中等部一年組は、パンプレットと一緒に配布してくれた。

 入部希望者のみんなも喜んでくれて何よりだ。


 そしてその後。

 今日は寒いし、何より雪が降るから、と新入部員たちを帰宅させたあと、エモーショナル茶道部は今後の活動方針を決める。


「とりあえず決まっているのは、争奪戦に関する情報集めよね」

「攻略用アイテムの検証とかも必要やなぁ」

「攻略に行き詰まっている子の救助も必要だと思いますの」

「そのためにも、まずはは最速でダブルクロスを攻略して、安定ルートを開拓していくべきだと、ミロは思います」

「よし決まりね。ダブルクロス最速攻略を最初の目標にしましょう」

「「「異議なし」」」


 やはり優秀だ。

 あっという間に決まってしまった。

 私は忠言をするに留めるか。


「活動方針が決まりましたね。早速ですけどテスト勉強をするべきだと思います」

「せやなぁ」

「ミロさん、テスト範囲は覚えていまして?」

「範囲は――」


 こちらもあっという間に判明し、勉強が始まる。

 学力も高いようで、自身の聖獣が出した問題集をサラサラと問いていく。

 テスト範囲の復習を終えたのは午後二時のことだった。


「これでテストはバッチリですわね」

「本当ですか?」

「や、やめて下さいまし夜見さん、不安になりますの」

「それよりお腹空いてない? なんかデリバリーしない?」

「うちはデミグラッセでええよ」

「それでいいか。注文するから食べたいの言ってー」


 なんとなくでデミグラッセのデリバリーを利用したところ、本当に届けてくれた。

 配達員さん曰く、割とよくあることらしい。


 遅めの昼食を取っていると、ピンポーンとチャイムが鳴る。

 みんなテスト勉強を終えて気が緩んでいるのか、「誰か出てー」という感じだったので、私が出ることにした。


「どなたですかー?」


 ガチャ、とドアを開けても誰もいない。

 首を傾げながら閉じると、ドアの隙間に封筒が挟まっていることに気づいた。

 取って確認。封筒には太文字で「挑戦状」と書かれている。


「みんなー、なんか挑戦状が送られてきましたー」

『挑戦状?』


 私は挑戦状を片手に戻り、みんなで中身を確認した。

 手紙にはこう書かれていた。


―――――――――――――――――――


 挑戦状


 来週の月曜日、C-D部隊駐屯地

 攻略難易度C

「前哨基地」で待つ。

 プリティコスモス、

 私と剣を交えろ。

 でなければこの街を滅ぼす。


 無冠の剣聖より


―――――――――――――――――――


「なんですかこの恥ずかしい文章」

「若気の至りって奴ね」

「夜見はん、正義の味方らしく相手の誘いに乗ってあげや?」

「分かりました」


 どうやら私は、この手紙の主と決闘しなければならないらしい。

 少し呆れたと同時に、どんな腕前の人物なのだろうと、少しだけワクワクした。

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