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第89話 おじさん、州柿先輩に口説かれる

 富谷模型屋に入ったとたん、


「よーし仕事の時間だライブリ!」

「C-D駐屯地でボンノーン目撃情報! 討伐しにいくぞオラ!」

「うぉお、待ち伏せとは卑怯――」


 数人の高身長美女たちがライブリさんを捕縛し、どこかへ連れ去っていった。

 彼女たちは赤いつなぎ姿だった。少しだけ勿体ないと思う。

 顔と容姿だけでご飯を食べていけそうなのに。


「監視やっと終わったー! 夜見ちゃん、迷惑かけてごめんね?」

「大丈夫ですよ。州柿先輩もお疲れ様です」

「ちょっと気になったんだモルけど」

「どしたのモル聖獣ちゃん」

「モル聖獣……」


 州柿先輩の言葉に、ダント氏はショックを受けたようだ。

 すぐに「僕にはダントという名前があるモル」と訂正したのち、話し出す。


「そのボンノーンが争奪戦運営にかかわる人間だと知ってるモル?」

「ああ、越前のことね。私からすれば、ようやく明るみに出たかーって感じだよね」

「有名人モル?」

「後ろ盾が強すぎて手が出せないグレーゾーンの方々だったけど、魔法で善悪が見破れない人種だと分かれば、ソレイユ陣営も話は別みたい。聞いた話では、近いうちに粛清に走るだろうってさ。今は自分ができる最善を尽くそうって感じかな」

「ついに僕の国が動くモルか」


 ダント氏は私の胸に飛び込んできた。


「わ、どうしました?」

「複雑な気持ちモル。重い荷が降りた安堵感と、本格的な戦争になる予感で」

「悲しいですよね」


 私は彼を優しく抱きしめてあげる。


「必要だと分かっていても、戦うのは」

「もう正義とか悪とかいう話じゃないもんね。ただただ自国の利益のために奪い合い、種の生存を求めて戦う生存競争は。私はそういうの好きだけど♡」

「州柿先輩は生存競争が好みなんですか?」

「相手の勝利を奪い取ることで上下関係を分からせたいタイプの人種なの♡」

「だからメスガキムーブを」


 先輩が表舞台に立ったことがない理由が少しだけ分かった気がした。

 おそらく、裏方が楽しいのだ。


「夜見ちゃん。それよりどうするの? バトルデコイ作る?」

「ええと――先輩は作ったほうがいいと思いますか?」

「わあ、私に聞いてくれるんだ♡ アドバイスするとすれば、バトルデコイ・ナイトは早い内に作ったほうがいいよ♡ 旬がすぎる前に動画配信しないとファンが増えないよ♡ それと私と戦うまで残しておいてね♤」

「ライブリさんをボコりたいんですね」

「もう合法的に身の程をわからせないと気がすまないの♡ エモ力返せ♡」


 クスクスと愉快に笑って話されておられるが、目が怖い。

 生きるための目標というか、狩りの獲物を見つけたような、そんな視線を私に向けておられる。私の豊満なバストを眺めて舌なめずりは……うん、そっち方面でも。


「すみません先輩。私はこれから部活が――」

「そういえば私、夜見ちゃんの担任代理なんだっけ♡ じゃあ、夜見ちゃんを強くするために戦うのは当然だよね? バトルデコイ作ったらデュエルしよっか♡」

「さ、先にパフェを奢ってくれると助かります」

「エッチとデュエル、どっちがいいかな♡」

「会話のドッチボールができない!」


 困ってダント氏を見た。

 彼は左右に首を振って答える。


「そろそろ同性同士との色を知るのもいいと思うモル」

「諦めてる!?」

「はあ、逆に聞くモルけど、どうして自分の気持ちに嘘をつくモル? 州柿先輩に迫られるたびに、夜見さんのエモ力は上がっているモル。それはもう恋心と同じモル」

「それはっ、その」

「わ、両思いなんだ♡」


 距離を詰められ、ぎゅっと手を握られて脳がバグる。

 次はあっという間に頭を引き寄せられ、耳元で囁かれた。


「もっと気軽に付き合っちゃおうよ♡ 女の子と♡」

「わわ、私は、まだ、そういう、のは」

「大丈夫だよ、返事はいつでもいいから♡ 勇気が出たら話してね♡」

「ひゃぁ、ひゃい」


 心臓の高鳴りが早まり、今までほとんど意識していなかった州柿先輩の魅力が視界から流れ込んでくる。

 静かに紅潮していく私を見て、州柿先輩はいたずらっぽく笑った。


「照れちゃったんだ♡ 可愛いね♡」

「か、からかうのはやめてください」

「分かってるって、離してあげる――でも夜見ちゃんが悪いんだよ? 強者の匂いでたまらなく誘うんだから♡」


 離れ際、首元に軽くキスをされた。


「予約、入れておくね♡ 夜見ちゃんの初恋は私が貰う♤」

「……え、あ」

「また遊ぼうね♡」


 州柿先輩とはそうやって別れた気がする。

 次にハッとしたときには、富谷模型屋の模型製作ブースで、ダント氏と共にバトルデコイ・ナイトの製作風景を撮影し終えていた。

 だからそう思うしかなかった。

 頭がのぼせていて途中の記憶がない。


「この感情の暴走は、一体」

「焼肉を食べたのが原因かもモル?」

「媚薬か何かなんですか? 魔法少女にとっての焼肉は」

「分かんないモル。焼肉じゃないとすれば、色欲の悪魔に好かれているからモル?」

「……肯定も否定できない」


 理由が多すぎて答えが分からなった。

 とにかく今日はいつもより恋に落ちやすい、そういう日なのだ、と認識を改め、聖ソレイユ女学院の部室棟に出向く。

 エモーショナル茶道部の部室は一階の右奥だ。


「綺麗な廊下ですね」

「聖ソレイユ女学院は部活が少ないモルから」

「ね。どうして少ないんでしょう?」


 綺麗で閑散とした廊下を通ると、緑に塗られたドアまでたどり着く。

 近くには「エモーショナル茶道部」と書かれた緑の立て看板が設置されていた。

 チャイムも外付けされていたので、ピンポーン、と鳴らす。


『はーい、どなたですの?』


 ガチャ、とドアを開けたのはサンデーちゃん。

 寝起きなのか、フェイスパック姿で出てきた赤髪の少女は、私を見るなり「少しお待ちになって」と慌ててドアを閉めた。

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