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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第四部 フロイライン・ダブルクロス編『C〜Bランク帯・C-D部隊駐屯地』 第一章
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第79話 おじさん、家庭教師が魔法少女になる②

 真面目に測ったわけでないが、部屋を出てから一時間ほどで脈動が止まり、ガチャ、とドアが開く。顔を見せたのはカメの聖獣ことゲンさんだった。


「大変ご迷惑をおかけしましたカメ。満足されたようなので、中へ」

「は、はい」


 中に入ると、リズールさんと瓜二つの顔ながらも、胸部やふとももの肉付きがよい、私と見た目が同年齢――十六歳くらいの美少女がベッドで眠っていた。

 彼女が身にまとっている魔法少女衣装は黒と白のツートーンで、何というか、本物のゴシックロリータコーデはこうだぞ、と教えられた気がする。


「えと、起こせばいいんですか?」

「そうカメ。だけど注意点があるカメ」

「注意点?」

「リズールさんはゴーレム。生きる目的を与えられただけの人工物カメ。だから人間やソレイユの賢人たちとは違って、生まれつき自我や感情が希薄なんだカメ」

「はあ」

「それでも十分なほどに感情豊かなお方が人になり、人間と同じ自由と感情を手に入れ、感情の揺れ幅がもっとも激しくなる思春期を、感情が原動力の魔法少女として謳歌しなければならなくなった場合。どうなるか分かるカメ?」

「私なら暴走しますね」

「そうカメ。自我を手に入れて初めて見る人にしては、君はあまりにも顔が良すぎる。だからリズールさんは、君を見た瞬間に恋に堕ちるカメ」

「そうですか? ふふ、嬉しいかもです」


 くすりと笑うと、カメのゲンさんは頭を抱えた。


「笑い事じゃないカメ。ファーストキスを奪われた上で貞操を失う危険性も視野に入れておくべきカメ」

「あー、なるほど。でも、リズールさんならいいかもです。タイプだし」


 私にだって好きなタイプや、人の選り好みはほどほどにあるのだ。

 その点で言えばリズールさんは完璧だ。大好き。以上。


「……君は意外と神経が図太いカメ?」

「上手くやっていけそうです」

「なら起こしてあげて欲しいカメ。ずっと待ってるから」

「?」


 後ろを振り返ると、リズールさんの閉じたまぶたがピクリと動いた。

 どうやら童話のお姫様のような目覚めがお望みらしい。


「やれやれ。しょうがないですよね、ダントさん」

「僕まで巻き込まないで欲しいモル……」


 ダント氏は嘆く。


「まあ、夜見さんが他人との距離感を大事にしていた理由が分かったモルし、なんかエモ力が限界突破し始めたから、キスでもなんでもすればいいモル」

「心得ました」

「何をモル?」


 許可を出してくれたダント氏には感謝だ。


「彼女を恋人にしますね」

「待って。僕はそんなこと言ってないモル」


 彼女の艶やかな唇が私を誘う。

 側まで来るとなおさらだ。今すぐにでも目覚めのキスをしたい。

 でも、それは最後まで取っておきたい。

 だから最初はこう言うのだ。


「リズールさん、起きて下さい」


 返答はない。

 理由など分かりきっている。

 これは私の意地悪だ。


「起きないと、キス。しちゃいますよ?」

「!」


 ピタリと相手の顔に手を当てる。

 ぴくん、と反応したリズールさんの頭を愛おしく撫でて、少しずつ緊張をほぐす。

 経験はないが、身体がこうするべきだと教えてくれた。


「普段の私は、女の子が嫌がらないよう気をつけて振る舞ってますけど、どうしてか分かりますか?」

「――」

「リズールさんみたいな可愛い子じゃないと、本気になれないからです」


 ――ちゅっ。

 唇と唇が合わさり、私たちは一瞬だけ一つになった。

 そこで彼女は目を覚まし、宝石のように赤く澄んだ瞳が私を見つめる。


「……それは、困ります。人になった私では、貴方に依存してしまいます」

「ふふっ。二人だけの秘密の関係になりますか?」

「困ります、本当に」


 顔を赤らめて目線をそらすリズールさんが本当に愛おしい。

 ベッドの上で寄り添い、逃げようとする相手の手を握って、もうキスするような間柄なんだぞ、と行動で示す。ダント氏とカメ聖獣のゲン氏は砂糖を吐く。


「ですが、私が、魔法少女になったのには――」

「理由ありきだとしても、ですよ。魔法少女として学校に通って、一緒に過ごせるのは、変わらないですよね?」

「そうですが……」

「私と恋仲になれば、色々と便利だと思いますよ」

「――っ」

「私は心から好きなれる恋人が欲しい。リズールさんは聖ソレイユ女学院に入ってやりたいことがある。――だったら、取引しませんか?」

「取引……っ、あう、身体が熱い……これが、心臓の高鳴る感覚……?」


 初めての感覚に戸惑うリズールさんが、初々しくて、本当に可愛い。

 私は相手の胸に耳を当て、トクン、トクンと早まる鼓動を聞き、あの冷たさが嘘のように温かい、今の彼女を知る。


「生きてますね、リズールさんも」

「……やめて下さい。断れないんです、本当に。貴方への興味がますます強くなっていくのが、分かって」

「じゃあ、私から手を出すのはここまでにしましょうか」

「……それは、その」

「どうしました? あ、もっと手を出して欲しかったですか?」

「それは」


 肯定とも否定とも言えない、曖昧な表情でうつむくのがいじらしい。

 生まれ持った高潔な理性と、初めて芽生えた恋心の狭間で葛藤しているのだろう。

 最後の踏ん切りがつかない様子なので、耳元で甘言を囁いた。


「はいかいいえで言ってくれたら、もう一度だけ、キス出来ますよ」

「~~~~――……っ、……い」

「ん、なんですか?」

「はい、です。もっと、キスしてみたい、です」

「よく言えましたね。ご褒美にぎゅっと抱きしめてあげます」

「なっ、これは……はぁぁぁ……」

「それが幸せホルモンのセロトニンが出た感覚ですよ。安心しますよね」

「これが、幸福という、感覚? これは、凄い、です。頭が弾け飛びそうです……」


 私にハグされたリズールさんは、生まれて初めての多幸感に包まれたようだ。

 もっと感じたいと言わんばかりに、ぎゅっと抱きしめてくれる。

 そのとろんと溶けた表情があまりにも可愛いので、学校のことは一旦忘れ、彼女をひたすら甘やかすことにした。

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