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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第四部 フロイライン・ダブルクロス編『C〜Bランク帯・C-D部隊駐屯地』 第一章
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第78話 おじさん、家庭教師が魔法少女になる①

「えと、あの!?」

『アイデンティティが崩壊しました……再構築までしばらくお待ち下さい……』

「だ、ダントさんこれは!?」

「リズ――アリスさんの心が挫けたんだモル! だから身体を保てない! みんなで応援しないとまずいモル!」

「な、なるほど!」


 やはりというか忘れていた。

 リズールさんはエモ力の第一発見者なだけじゃない。

 彼女もエモ力で生きている存在なのだ。

 心が挫ける辛さはよく分かるので、私は必死に応援する。


「リ――アリスさん安心して下さい! 貴方は美人です! そして誰よりも賢い! 超がつくくらいに! 私のあこがれの人です!」

「それにみんなが感じているのはただの恐怖じゃない! 敬意を込めた畏怖モル! 貴方は本当にカリスマ性が高いんですモル! アリスさんはカリスマ美人経営者モル! ほら佐飛さんも!」

「私もでございますか!? ええと、頑張れ頑張れ出来る出来る――」


 その甲斐あってか、リズールさんは一分ほどで復活した。

 彼女はついでに身体の微調整を行ったのか、見た目年齢が少しだけ若返った気がした。触ってみたところ、肌が人並に柔らかくなっていた。


「リズ……アリスさん」

「なんでしょうか」

「なぜいきなりもち肌に?」

「エモーショナルエネルギーは進化をもたらす力ですので、ゴーレムの私も肉体を再構成する際に影響を受け、人に近づきました。肌年齢換算すると十六歳になります」

「ダントさん、やっぱりエモ力ってグッター線……」

「ゲ。だモル。ともかく、アリスさんが元気でなによりモル」

「ありがとうございます。――それはそうと、人に近づいたおかげで出来ることが増えたようです」


 リズールさんはそう言って、メイド服を脱いだ。

 パサ、パサ、と衣擦れの音がする。目の前に彫刻像のモチーフになりそうなほど美しい全裸美女が――


「なにやってんですか!?」

「まずは身体の異変を確かめようかと」

「脱ぐ前にせめて一言下さい! ちょ、すみません! お手伝いさーん!」


 私は近くのお手伝いさんと共に、急いで自室へと連れて行った。

 しかしそれは、彼女にしてみれば初めての対応だったようで、驚いた表情で固まったままだ。

 お手伝いさんに手伝って貰いながら、私の服を着せ、全裸をやめさせた。


「……おや。気がつけば女性服姿に。人に近づくと、ときおり意識が飛ぶことがあるのですね」

「なんだろう、朝から疲れます」

「夜見さん頑張るモル。僕も頑張るモルから」

「ああ、少々お待ち下さい。先んじて我が盟主(マイロード)に報告しなければなりませんので」


 回収したメイド服から携帯電話を取り出し、操作し始めるリズールさん。

 しかしボタンを押すのが死ぬほど遅い。


「なんですかこの身体は。反応速度が鈍すぎます。操作性も悪い」


 私には分からない感覚だ。

 ともかく電話は繋がったようで、フェレルナーデさんの使いがこちらに来てくれるらしい。学校には遅刻してしまうだろうが、今日はもう、仕方がないだろう。


「やはりエモーショナルエネルギーによる干渉、強制干渉が性能の低下、操作性悪化の根源……肉体の再々構成を行わなくては……夜見さ、いえ、ダントさん」

「はいモル!?」

「まだ魔法少女と契約していない聖獣を呼びなさい。契約します。そのついでに身体を作り変えますので、早く。動かしづらくて仕方ありません」

「モル!? わ、分かりましたモル――!」


 今度はダント氏が慌てて行動し始めた。

 マジタブで職場と思しき場所に連絡し、新規聖獣の派遣要請を始めている。

 これからどうなっちゃうんだろう、と私は天を仰いだ。



 最初にやって来たのはフェレルナーデさんの使いを名乗る金髪の西洋人女性。

 カフェ・グレープでメイドをしていた人だ。


「失礼ですがお名前は」

「ソレイユ。様子を見に来た」

「光の国ソレイユに近しい方ですかな?」

「違うよ、名前が同じだけなんだ。こっちはありがた迷惑だよ」


 彼女はそれ以上の自己紹介はせず、ただリズールさんと一言、二言だけ話し、「学校生活頑張れよ」と言い残して去っていった。

 続いて来たのは、ダント氏の同僚を名乗るカメの聖獣。


「どうもリズールさん、ご無沙汰しておりますカメ」

「お久しぶりですね玄武亀のゲンさん。話は聞いておられますか?」

「ええ、ええ。こちらとしては、我が国ソレイユの発展に貢献した第一人者様がまさかという驚きですが、願ってもない大型案件ですカメ。成人するまで精一杯サポートさせて頂きますカメ」


 どうやらとんでもない役職持ちの聖獣が来たようだ。

 ダント氏が「あの聖獣様は会長クラスモル。たしかに再雇用組で同僚なんだけど、僕は怖いモル」と語ったので間違いない。

 ――というより、待って欲しい。成人するまでということは。


「ああ、ダントくん。ちょっと部屋の外に出ていたまえカメ。ここからは人に見せられたものじゃないカメ」

「どうなるんですモル?」

「契約に基づいた一般的な儀式――まあステッキ授与カメけど、リズールさんはそこに魔術的な意味を見出し、干渉出来るほどの魔法力を持った御方だから、下手したら初手肉塊から肉体を創り出すかもカメ。かなりグロいカメ」

「失礼な。肉塊から私を作り上げるのと、人間の誕生に何の違いがあるんですか?」

「ね? 言った通りカメ。早く逃げるカメ」

「夜見さん急いで外に出るモル。見たら精神崩壊するモル」

「は、はい」


 私たちは部屋の外に出る。

 同時に、部屋がどくんどくんと脈動し始めた。怖い。

 でも、リズールさんも私と同じ魔法少女になるんだなと考えると、もっと仲良くなれそうで、少しだけワクワクした。

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