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第67話-閑話- 朔上社長、女体化させられる/おじさん、登校する

 青天の霹靂であった。

 齢六十歳の肉体に、半世紀を足した年月を生きてきた朔上にとって、灰の魔法少女に仕える大賢者、リズール・アージェントから伝えられた言葉は。


「――え、わしも女になるんですか? わが校の生徒だけじゃなく?」

(え、わしも女になるんですか? わが校の生徒だけじゃなく?)


「残念ながら。一部の魔法少女愛好家の方々には、男女カップリングを嫌う方がおられるため、朔上社長。貴方にも魔法で女性になっていただきます」

「わし貞操の危機じゃん」

(わし貞操の危機じゃん)


 思わず建前と本音が同じになってしまうのも当然だ。

 しかしまあ、と彼は考える。


(……でも、この老いた身体のまま長生きするのは辛いと感じてたしなぁ。若返って少しは身軽になったほうが、警備体制の見直しやらもしやすくなるか)


「そのお顔を見るに、ご決心なされたようですね」

「流石は大賢者リズールさん。我が心中を見抜くとは」

「んフフッ……」


 リズールも思わず笑う。流石の彼女も無自覚ボケには弱い。

 しかし彼女は彼のことをすべて知っている。サトラレ体質の彼には言わずもがなの弱点があり、心の声が漏れていることを本人に伝えると、半不死が剥奪され、脳が破壊されるようになっている。

 だが、そんなことはしない。彼の脳と同化した呪具が壊れてしまうからだ。


「どうかされましたかな?」

「いえ、なんでもありません。話を続けましょう。……これから私はあなたを女体化させます。あなたはその身を捧げることとなります。言わば生贄です。私の決定を受諾しますか?」

(生贄かあ……やっぱり怖い言い回しを使うなあ、秘密結社って)

「フフ、生贄か」


 その呪具の名は「愚者の宝玉」という。

 所有者の寿命を延ばす代償として、周囲に心の声が漏れてしまう宝玉だ。

 だが、その由来は北欧神話まで遡り、ミーミルの泉に投げ入れられた創造神オーディンの片目そのものとされる。どういう経緯かわからないが、彼は手に入れた。

 ゆえにその真価は、「所有者自身が犠牲になる選択した」ときにだけ発揮される。


「リズールさん、あえてお聞きしますが。その条件を飲む代わりに、わしには何が与えられるのですかな?」

「金銭面と居住面の心配はないようですので、うら若き乙女の肉体と知恵を授かります。何か望みがあるなら追加でどうぞ」

「……で、あれば。私だけが性転換させられても面白くない。どうせなら、全ての性別を逆転させて若返らせて欲しいですな。ああ、わしやリズールさんの親戚と知り合いだけは別ですぞ。事後処理が大変ですからな」

(なーんて言ってみたり……)

「望みを受諾しました。女体化の法を行使します」

「――!?」

(え、本当にやるんですか!? わしらの知り合いを除く全存在の性転換を!? 冗談のつもりだったのに嘘おおお、うわあああ身体がどんどん変化してく―――)


 呪具の消滅を代償に、たった一度だけ、どのような願いでも叶えられるのだ。

 シャインジュエル争奪戦、開催当日の深夜にその出来事があった。

 翌日には『全世界同時多発性転換事件』とニュースで銘打たれ、わけも分からないままTSして美男美女となった人々で、世界は溢れかえることとなる。


 ……当然ながら、願いの範囲はダークライにも及ぶ。

 冥府の底の異界にて、惰眠を貪っていた悪魔王グランギニョールが一夜にして青肌美女悪魔へと変貌してしまい、翌日に悲鳴を上げたこと、それが性別が自由自在な色欲の悪魔アスモデウスの性癖にぶっ刺さり、秒で捕縛されて快楽堕ちさせられたというニュースは、敵対国の光の国ソレイユにも轟いた。

 自らが悪魔王であることを示す王冠を首輪のように付けたマイクロビキニ女性悪魔が、いままでの悪事を謝罪しながら快楽を求めて無様に腰を振って媚びる姿をライブ中継されれば、嫌でも分かると言うものだ。


 しかしこうして、悪魔王グランギニョールの全人類滅亡計画は途絶えた。

 首領を失ったダークライは、悪魔王を性奴隷堕ちさせた悪魔アスモデウスを筆頭に、エジプトから全人類を性的に脅かす変態組織へと組み変えられていくこととなる――――。




 翌日、登校中の私は、ダント氏からそのことを聞かされた。


「ええ……なんですかその情報……」

「リズールさんと、現地で元悪魔王の痴態を見せられた僕の親戚筋からの情報モル。冗談みたいだけどマジ情報モル。みんなドン引きしてたモル」

「脳が理解を拒むんですけど」

「それには僕も同意するモル。だから忘れるモル」

「ですね」


 どう考えても要らない情報だったので、さっさと忘れる。

 でも、そうか。どおりで観光客の人がやたらと自撮りしていると思った。性転換した自分の姿をSNSに上げて、自己承認欲求を満たしているんだな。


「……ダントさん、これ世界がかなり歪んでませんか? リズールさん凄い勢いでやらかしてませんか?」

「僕に言われても困るモルけど、あの人はシャインジュエル争奪戦の悪の親玉役だから、あの人を倒せば元に戻せると思うモル」

「なるほどつまり、元の世界に戻したいなら私を超えろ、ということですかね?」

「おそらくそうモル。でも、上司とは連絡つかないし、どう動くのが正解か分からなくて、僕は困り果てているモル」

「世知辛い世の中です」


 いつものバス停に到着すると、今日はおさげちゃんが先に待っていた。

 何も言わずに隣に立つと、周囲を警戒するような小声で、私に話しかけてくれる。


「夜見はん、ソレイユからのニュースは聞いたん?」

「まあ一通りは」

「色欲の悪魔アスモデウスが率いる新たな敵組織は、エジプトに拠点を構えて活動してるらしいで。クフ王のピラミッドが乗っ取られて、近くのスフィンクスと共に1680万色に光り出したって情報が流れとる。これが証拠の画像や」

「わぁゲーミングサハラ砂漠」

「んふっ」


 マジタブで見せてくれた画像は、ところかまわず七色に光散らすエジプトの観光資源群だった。発せられる光で衛星写真のサハラ砂漠がゲーミング化している。

 今までの景観が台無しだが、正直に言えばかなり面白い。


「まあ、いまのところ日本は安全やけど、それも時間の問題やで。シャインジュエル争奪戦、一緒に頑張ろな」

「そうですね! ああでも私、イベントに参加出来るのかな……?」

「ああー、そういえばダブルクロス落選してたんやったなぁ……やったら、他も怪しいわなぁ」

「はい……」


 少ししょんぼりする会話の終わり方。

 ちょうどのタイミングでバスが来たので乗り込む。

 振り向くと、おさげちゃんがその場に留まったままだった。


「あれ、おさげちゃんは乗らないんですか?」

「……しゃーないなぁ。うちがちょっとだけ手助けしてあげるわ!」

「わあ、ホントですか!?」

「やし、ちょっと学校遅れるわ。ほな二限目でなー」

「えええ!? あ、えっと、行ってらっしゃい!?」


 ビーっと締まるバスの扉。車体がゆっくりと動き出す。

 おさげちゃんは手をひらひらと振りながら、私を見送ってくれた。


「何をしてくれるんでしょう?」

「僕に聞かれても……」


 おさげちゃんがどうして人付き合いが悪いのか、あまり考えたことがなかった。そういえば。

 一体どういう事情があるんだろう、と思いながら、私は聖ソレイユ女学院に到着。

 昨日のヒーローショーのおかげか、さらに好意的になった周囲の視線を感じ取りながら、教室へと向かった。

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