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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第二部 一章 シャインジュエル争奪戦・デビュー編
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第51話 おじさん、中等部一年組に相談に乗ってもらう

 多数の生徒が倒れ、あわや大惨事になるかと思われた魔法体育の授業だが、そこはエモーショナルエネルギーが力の源である不思議生物こと「魔法少女」。

 校内で待機していた医療チームによる回復ゼリーの適切な投与と、専属聖獣の応援により、数分後には完全復活。

 中等部校舎付近にある中庭で、二限目の授業開始を待ちながら、新しい友人と交友出来るほどに元気になっていた。


「本当にエモ力でなんとかなるんですね」

「そうモル。エモ力は本当に凄いパワーを秘めているモル。だからダークライみたいな悪の組織は、エモ力を独占しようと悪いことを企むんだモル」

「なるほどー」


 世界から悪が消えない理由が一つだけわかった気がした。

 ちなみに現在の私はというと、妹のヒトミちゃんには「これから用事がありますので!」と言われたので一旦お別れ。

 仕方ないのんびりしよう、とベンチに座ったら、待ってましたとばかりにやって来たZ組の中等部一年組に囲まれた形だ。いちごちゃんが真っ先に口を開く。


「それで慢心したまま負けた感想はどう? 夜見」

「悔しいです……」

「基礎魔法も固有魔法も使わんと、剣の腕だけで圧倒するのはかっこええけど、なあ?」

「流石に相手を舐めすぎですわね」

「はい、おっしゃる通りです……」


 彼女たちの言うとおり、あれは勝てた試合だ。

 先に魔法「赤」か、土壇場で固有魔法「ギフテッドアクセル」を起動すれば影縫いで拘束されずに済んでいたし、拘束されたあとでも、まだ手元に武器があった。


「――けど、あの状況で勝ちを奪えるほど、私は非情になれないですよ」

「まあたしかに、夜見ならそうよね」

「だからうち言ったやん? そういう優しいとこ、つけ込まれやすいんやでって」

「それが良いところじゃない。あんたとは違うのよ夜見は」

「なんや喧嘩売ってるん?」

「はいはい、話の腰を折らないで下さいまし」


 私の左右でいきなりバチバチし始めたいちごちゃんとおさげちゃんを、サンデーちゃんは引き離した上で、私の隣に座った。


「たしかに、あそこで非情になれずに負けてしまうのが、貴方らしい弱点なのは事実。でもわたくしは、正しい選択だったと思いますの。だから負けを悔やむより、新しいライバルが出来たと思って次に挑みなさい。そして次からは必ず勝ちなさい」

「……はいっ!」


 サンデーちゃんは私の頭をぽんぽんと叩いて、励ましてくれた。

 まるで――


『夜見さん』

「なんですかダントさん、いきなりテレパシーで」

『サンデーさんのNGワードは「お姉ちゃんみたい」モルから、思っても絶対に言っちゃダメモルよ。容赦なくぶっ飛ばされるモル』

「は、はい」


 危ないところだった。

 お姉ちゃんみたいだと言いかけた。

 何も言わずに優しさだけ受け入れておこう。


「何かあったんですの?」

「まあ色々と」

「? まあ良いですの。それより夜見さん。放課後に何が始まるかは知っていますわよね?」

「ああ、はい。シャインジュエル争奪戦ですよね」

「メイクデビューをどこからするか決めていますの?」

「メイクデビュー?」


 首を傾げると、ダント氏が教えてくれた。


「最初にどこのイベントに参加するか、ってことモル」

「なるほど。……ダントさん決まってますか?」

「昼休みからイベント参加の申し込みが始まるモル。それまで僕たちは待機モル」

「分かりました。そういうことみたいです」

「全く、二人とも何も分かっていませんわね」

「そうなんですか?」


 そこでおずおずとしていたミロちゃんから一枚の封筒が渡される。


「あの、夜見さん、これ。聖ソレイユ女学院の各陣営からの、招待状、です」

「招待状」


 受け取って、中のパンフレットを見る。

 生徒会役員の勧誘から始まり、赤、紺、緑の拠点紹介と加入申請書セットが揃い踏みだ。ちなみに紫のものは赤城先輩のサインが入っていて、加入申請書には黒いマジックペンでデカデカと「まずは赤・紺・緑のどれかからです」と書かれていた。


「イベント参加前に、所属を決めたほうが、私は、いいと思います」

「やっぱり決めたほうがいいですよね、陣営」


 ほぼ専属担任である赤城先輩の指示には従いたいが、赤・紺・緑陣営のどれに所属したとしても、ろくな目に合わない気がするので悩む。


「というか夜見、どうして今日まで決めなかったのよ」

「いや、まあ、本当にいろいろとあったんです」

「そうなの?」


 私は、入学初日には紺陣営の二度の誘拐、二日目には緑陣営にも誘拐され、あまり優秀とは言えない赤陣営も交えた三つ巴の派閥争いにも巻き込まれている。

 どの陣営にも割を食わされているのだ。

 それらを踏まえた上で、何食わぬ顔をしながら私を勧誘することに納得できない。


「信用ってなんなんでしょうね」

「腹の探り合いから始まって、先に急所を掴んだほうが勝ち取るもんやで」

「つまり?」

「全員敵なら、利害関係が一致するとこに所属するんが無難ってことや。どちらにしても、中等部一年は全員フリーランスで脱加入自由やし、そんな気負うことあらへんとうちは思うよ」

「なるほど……」

「おさげが言うと説得力が倍くらい違うわね」

「ほんっま、殴る」


 怒ったおさげちゃんは、いちごちゃんをポコポコと優しく殴りだし、いちこちゃんは笑いながら逃げ始めた。相変わらず仲がいいのか、悪いのか。


「二人とも、喧嘩はほどほどにしてくださいね?」

「「喧嘩してない(へん)!」」


 本当かな、と不安に思うと、隣のサンデーちゃんが口を開いた。


「大丈夫ですわよ、あの程度なら」

「ですかね?」

「ええ。それで話を戻しますけれど、安心なさい。貴方が陣営選びで困ったり、不安に思っていることがあるのなら、わたくしたちが相談に乗りますわ」

「本当ですか?」

「友達なのですから当然でしょう? こう見えても、わたくしたちは貴方のことを信頼してますのよ」

「おお……」


 腕組みしながら微笑んでくれるサンデーちゃんに、コクコクと静かに頷くミロちゃんを見て、私は少しだけ勇気が湧いた。

 もう一人で悩まなくてもいいと分かったからだ。


「あはは、じゃあ、お昼休み……いや、放課後まで相談に乗って下さい」

「構いませんわよ」

「……!(コクリと頷くミロ)」

「実は入学初日のことなんですけど――――」


 とりあえず、各陣営に不信感を抱いている経緯をざっくり説明した。

 全て説明し終えた数分後。


『夜見が可哀想すぎ(ますわ)よ――――!』


 あまりの顛末に驚いた四人分の絶叫が、中等部の中庭に響いた。

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