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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第二部 一章 シャインジュエル争奪戦・デビュー編
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第47話 おじさん、マジカルスポーツチャンバラにハマる①

「――ということがあってですね、ただ顔見知りなだけなんですよ」

「ふーん? なら良いけど」

「そやったらええけど、な?」


 朝方の出来事を説明したら、二人とも納得はしてくれた。

 しかし不服なのか、私に詰め寄った。そのまま身体に寄りかかる。

 ふんわりと甘い香りがして、暖かさを感じた。


「――!?」

「でも、他の女の子に粉をかけるのはほどほどにしてよね」

「そうやで? 寂しくて泣いてまうよ?」

「は、はい……」


 ……困った。

 私は二人のことが好きだ。親愛の念を抱いている。

 でも、いきなりこんな行動を、こんなに寂しそうな顔を見せられては、本気で二人のことを好きになってしまう。


「モテる女は辛いモルね」

「あはは……ちゃんと、惚れさせた責任をとらないと、ですね」

「「!!!!?」」


 その言葉を聞いて我に返ったのか、おさげちゃんといちごちゃんはバッと離れた。

 さきほどとは態度が一転して、顔を耳まで赤くさせたまま、こちらを責めるような視線を向けている。


「な、なななっ、責任取るって、何するつもりよ!」

「私たちにエッチことするん!?」

「ええええ!? いや違いますよ、本気でお付き合いを始めた時のために、デートプランを考えようかと――」

「「最後はホテルに連れ込むつもりなんでしょ(やろ)!?」」

「なんでそうなるんですか!?」


 耳年増というか、ムッツリスケベにも程がある。


「二人とも、少し落ち着いてください。私は手を出すつもりはありません」

「なんで出さないのよ!」

「怒られた!? ええとそれは、私たちはまだ未成年ですし――」


 キィン――

『おーぅい、そこの生徒たちー?』

「「「―――ッ!?」」」

 ゾアッ、と背筋が一気に凍りつくような恐怖を感じる。

 ゆっくりと振り向いてみれば、漆黒のオーラを出す体育の先生が立っていた。


「グループを組んで楽しくて嬉しい気持ちはわかりますけど、そろそろ静かに。授業の説明が出来ませんからね。あと、これが魔法「灰」の注目(ブレイブ)を使った際に現れる覇気です。覚えておくように」

『ごめんなさい……』


 私を含め、騒動の中心人物となった三名が謝罪したことで、先生の怒りは収まった。その後、これから習うことについての説明が行われる。


「これからみんなに教えるのは、魔法少女同士で勝ち負けをはっきりと決めるときに行う宣誓決闘――競技名称は「マジカルスポーツチャンバラ」のルールについてです」

「マジカルスポーツチャンバラ」


 マジカルが付いただけなのにパワーワードすぎる。


「まずは基本ルールから。発泡ウレタン製の武器をお互いに構えて、「デュエル」と言うのが開始の合図。マジカルステッキから五枚の魔法障壁が召喚されて、決闘が始まります。制限時間は五分です。相手のシールドを全て割るか、時間切れまでに多く割っていた方の勝利です。もちろん、時間内に降参(サレンダー)しても負けです」

「あの、先生」

「はい、さっきの桃色髪の子。なんでしょうか?」

「学校外部――つまり、梢千代市でのマジカルスポーツチャンバラ競技でもウレタン製の武器を使用するので、マジカルステッキの武器機能は使わない、という認識で良いんでしょうか」

「いい質問ですね!」


 先生は私の疑問に乗るようにして、詳しい内容を語った。

 どうやら他のイベント内でも「揉め事の解決法」として利用されているらしく、その際に基本ルールか、武器機能を解禁した旧ルールの決闘を使うようだ。

 後者は「クラシック・スタンダードルール」と呼ばれていて、「魔法少女の攻撃は精神攻撃であり、守るべき人民や物を物理的に害さない」という特性と、万が一の時でも、聖ソレイユ女学院や、梢千代市のイベント開催地域に多数設置された再生医療カプセルと医療チームによる完全救護体制(アフターケア)の徹底により、最高裁でも「勧興業務の一つ」と認められているので、法律的にも人道的にも問題はない、とのこと。


「――以上の権利を勝ち取り、この学校を立てるまでに十五年かかりました」

「色々とあったんですね」


 魔法少女の歴史は法廷闘争の歴史でもあるらしい。

 なお、私以外の生徒はぽかんとしていたため、先生は慌てて訂正した。


「ああ、難しかったよね。みんなごめんね。こういうのは高校生になってから習うことだから、まだ覚えなくていいからね! とにかく、マジカルスポーツチャンバラの話に戻ります! ええと、ルール説明は終わったので、今度は聖獣さんと一緒に武器を選んでくださいね!」

「「「はーい!」」」


 先生が手を叩くと、生徒グループそれぞれに、スポーツチャンバラ用具一式入りのカートが魔法で運ばれてきた。私は右肩のダント氏に目配せする。


「夜見さんは使い慣れているロングソード型を選ぶモル」

「分かりました」


 ピンク色の発泡ウレタン製特大剣があったので、引っこ抜いた。

 「DXポリウレタンカリバーLLサイズ」という商品名が印字されている。


「DXポリウレタンカリバーLLサイズ……」

「かっこいい名前モルね」

「ですよね! おしゃれな響きがあって――」

「ふーん? 夜見の使い慣れてる武器ってそれなんだ」

「ああ、はい! デラックスカリバーちゃんです! 良いでしょ!?」

「へえ――」


 いちごは、夜見の無邪気な笑顔を初めて見た。

 その心中では、自分とあの子の喧嘩を収めるために、彼女が苦心していることを反省しており、どうにかして恩返ししたいと思っていた矢先に、相手の好みが垣間見えたのだ。逃す手はなかった。


「――そういうの、好きなの? もっと欲しい?」

「そうですねえ……こういう商品が沢山販売されていて、みんなが楽しめるなら、私も流されて欲しくなっちゃいますよね。義妹(いもうと)の遙華ちゃんも喜びそうですし、人気魔法少女の武器を完全模倣したコンプリートモデルとかで、わかば幼稚園のみんなと魔法少女ごっこをして遊びたい、かも」

「……ふーん、ふーん? そう。そうなのね。ふふ、夜見が楽しそうで私も嬉しいわ」

「?」


 突然上機嫌になったけど、どうしたんだろうか。


 この時の夜見は知る由もない。

 彼女の両親が経営する会社が、このスポーツチャンバラの製造元だということを。

 商品のネーミングは彼女由来だということを。

 尋ねてくる夜見に対して、いちごは何でもない、と言いつくろい、話題を替えた。


「それより、先生が呼んでるわよ」

『はーいみんなー! 武器を選べましたかー?』

「あ。本当ですね。……うん、ここは静かにしますか」


 本当は、サンデーちゃんの装備している腕部一体型のスポンジグローブやら、おさげちゃんの身長の倍ほどもあるスポンジ棒について「かっこいいですねえ! いいですねえ! なんて名前ですかそれ!」と質問したかったが、あえて静かになることを選ぶ。

 全てのグループが先生に目を向けてから、ようやく本題が切り出された。


「はい、選べたみたいですね! ではグローブ型の子は手のひらを、ソード型・棒型の子は底面を見てください。番号が書いてあると思います」

『番号?』


 生徒は自らの武器を確認し始める。

 私のものには三番と書かれていた。


「一戦目は同じ番号の子同士でチャンバラして貰います。グループ内で探してみてください。――え? ああ、ごめんね! 奇数グループは、他の奇数グループと一緒になってください! それでまとまると思うから――」

「なるほど、そのための番号ですか」


 どうやら最初のマッチングのための番号だったようだ。

 私たちのグループは六人。偶数なのでグループ内にいるはず。


「すみません、三番の方は居ますか?」

「おさげ、あんたは?」

「うちは二番。あんたはんは?」

「喧嘩になるから言わない。ま、一戦目は別々ね。じゃ、また後で」


 いちごちゃんは上機嫌に、ミロちゃんやサンデーちゃんの元に向かう。

 そして、サンデーちゃんと同じ番号と聞いて、うへえ終わったーと叫んでいた。


『いちごさんとペアになるのは初めてですわね。エモ力にも差があることですし……全力で叩き潰しますわ』

『いや手加減して差し上げますわって言う場面でしょ今の!』


 相変わらずいちごちゃんはツッコむのが上手い。

 おさげちゃんも同じ意見のようだった。


「ふふっ、相変わらずおもろいなあ」

「……あの、おさげさん。ミロです」

「なんや、どしたん?」

「私も二番、でした。――お覚悟を」

「ひ(おさげちゃんが絶望する音)」


 今度はミロちゃんが、青ざめた顔のおさげちゃんを引き連れていった。

 二人にどうか幸あらんことを。


「……ということは」

「あ、あひゅ、わたひゅれす! 三番れひゅっ!」


 手を上げたのは、残った緑髪のメガネっ子。

 少し離れた場所で静かにしていたので、存在感が薄まっていたようだ。

 緊張しすぎて呂律も回っていない。


『よし、番号の子を見つけられたみたいですね! じゃあ決闘訓練を始めます! 武器を構えてください!』


 しかし、相手の緊張を解く時間もないようだ。

 私は先生の指示通り、DXポリウレタンカリバーLLサイズこと、デラックスカリバーを構える。メガネちゃんもあわてて構えた。緑のショートソード型だ。

 もう遅いかもしれないが、あえて名前を聞いてみる。


「私の名前は夜見ライナ。夜見って呼ばれてます。貴方は?」

「あう、い、一年Z組! 丸メガネなのでマルちゃんれひゅ!」

「……マルちゃんですね。覚えました」

「よろしくおねがいしまひゅ!」

『では、決闘開始の宣言をしてください!』

「「デュエル!」」


 宣言すると、お互いに隠し持っているマジカルステッキから五枚の六角形シールドが展開する。

 前面を守るようにズラッと並んだ。

 マルちゃんはメガネが壊れないよう、外して聖獣に預かってもらっていた。

 メガネは数万単位の高額商品。当然だろう。

 ……さて、始まる。意識を集中し、感覚を研ぎ澄ませ。


『では、行きます! デュエル開始――――!』


 ピ――――ッ!

 ホイッスルが力いっぱい鳴らされる。

 私は正眼の構えを崩さず、相手に向かって駆け出し――


「――チェリアァッ!」

 パリィンッ――

「なっ――――!?」


 ――相手の先の先を取る神速の牙突で、一枚目のシールドを失った。

 偶然か? いや違う。必然だ。そんなやわな剣筋じゃない。

 驚き、戸惑い、マルちゃんを見る。マルちゃんの瞳には、私のよく知っている炎――青い炎が宿っていた。

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