表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
フィールドワーク.2『魔女ハインリヒの足跡』
200/268

第196話 おじさん、騎士爵を授かる

 夜見ライナが爵位授与式に参加するために東京都千代田区にテレポートした頃、魔女ハインリヒとアスモデウスは居酒屋で再会していた。

 日本酒を入れたお猪口(おちょこ)で乾杯し、軽くあおってからアスモデウスが口を開く。


「ハインリヒさん。どうして世界から貧困がなくならないか分かりますか?」

「金持ちが資産を独占しているから」

「違います。父なる神と呼ばれる存在がゲイのサディストだからです」

「……冗談でしょ?」

「本当の話なのですよ。だから女性は社会参画が認められず、男性に生涯の努力と自己犠牲を強いるのです」

「一理あるわね」


 シャインジュエルの正しい換金方法を思い出して肯定した。

 魔法の存在が世界に広く周知された現世では、キリスト教の常識や正義を多く取り入れた西洋的価値観や哲学は社会の成長を阻害するものでしかない。

 倫理観を語り、悔い改めることを叫ぶ宗教色の強い人間や聖職者たちが、裏では人体実験や児童買春を行う組織的な魔法犯罪グループだったなど日常茶飯事だからだ。


「それでどうすれば貧困をなくせるの?」

「フフ、そのための未来の話です。少し寄り道をしましょう」

「寄り道って?」

「ゲイのサディストの性欲の矛先を資本家に向けます」

「面白いことを言うわね。どうするの?」

「ダークエモーショナルエネルギーを一般流通させます。ダンピング殺しですね」

「へえー……つまり、ソレイユはエモ力の販売を完全に中止するってこと?」

「ええ。元は内部流通資源を社会平和のために公開しただけですから。同等の技術で作られた代替のエネルギー資源があるなら、生産を一任してしまいましょう」

「面白いわね」


 唇を濡らすように日本酒を飲む。

 絵空事か、いや、未来の話だから事実どころか本当に起こすつもりなのだ。

 それもかなり近いうちに。

 私に話したのは彼女たちの思惑に巻き込むためか。


「どこの誰とも知らないあなたにどうしてそんな権限が?」

「実は長野県に多くの知り合いが集まっているのです」

「長野……どんな罪の犯罪者?」

「色欲が九割。傲慢と憤怒が少し」

「ふぅん」


 こいつ悪魔か。それもかなり高位。

 だから妙に波長が合うわけだ。

 本望だからちょうどいい。取って食われておこう。


「いつ始めるの?」

「言えません。ただ、やってほしい行動が一つだけ」

「何?」

「魔法少女にセクハラを行う犯罪組織を運営して欲しいのです」

「主食の生産ね。量は?」

「多ければ多いほど助かります」

「考えておくわ」

「フフ。では、会計は割り勘ということで」

「ええ」


 依頼者への奢りすら注意する――賄賂すら出来ないということは、日本政府直属か、国家の権威そのものに関わる裏のエージェント。宮内庁の未公開官僚か。

 しかもおそらく、大罪クラスの大物官僚だ。

 とんでもない魔法を持った人間なんだなと少しキュンとした。


「あとは、個人的な注意になりますが」

「何?」

「本番行為はさせないように気をつけてくださいね」

「ゲイのサディストが新しい性癖に目覚めるのを待つため?」

「フフ、よくお分かりですね。完璧な尊厳破壊を行うためにも、まずは性癖を自覚して貰わないといけないのです」

「サドだと思いこんでいる人間の破滅衝動を目覚めさせるのって最高よね」

「ええ、いいものです」


 コト、お猪口とを持ったアスモデウスは、クイッと一飲みする。

 そしてほんのりと赤く火照った頬で優しい笑みを浮かべた。


「久しぶりに美味しくお酒が飲める人間と出会えました」

「どういたしまして」

「ああ、いけないいけない。このままだと愚痴が漏れてしまいそうですから、重要な数字だけ明かして去ることにします」

「何年後?」

「三。それでは」


 注文した日本酒の料金の半額だけを置き、アリス先生を名乗る悪魔は去っていく。

 魔女ハインリヒは絵空事を真に受けて犯罪を行うだけだ。


(三年後……つまり、彼女が父なる神と呼んだゲイのサディストの欲求が爆発する時期が三年後。そのゲイはエモ力の供給を絶たれて、不純物の多い代替資源で生きるのが相当苦しいと見た)


 そして魔法少女にセクハラを行う犯罪組織の運営依頼は、魔法少女を応援していないアンチ層の指示を集め、貧困層にエモ力を供給するための手段なのだろう。

 怪人を倒せと圧をかける国家権力や一部資本家への忖度を捨て、正当な消費者に寄り添って需要と供給を完全に一致させるつもりなのだ。

 お猪口を口に傾けつつ、考えを巡らせる。


(だとすると、中核になる幹部ヴィランは生半可な人間じゃダメね。異常な性欲と紳士性が両立している職人気質な人間でなければ……じゃあスカウト先はあそこか)


 ひとつだけ思い当たる節があった。

 秘密結社カタルシス。

 インターネットで「変態番付」と呼ばれるネタを、現代で真面目に実現しようとしている異常な信念と偏執性を抱えた悪の変態結社だ。

 私が彼らの資金源になっておけば、嫌でも世界中に性犯罪が広まるだろう。

 それに対する批判的な世論が父なる神「ゲイのサディスト」を最も苦しめる核だ。


(ただ、それだけじゃ私がつまらないから、思春期の少年少女の性欲を刺激する何かを考えないとね。……ああ、医療用の触手型魔法生物を魔法で飼いならして高松学園都市に放流しようかしら。株式会社ファンデットのオクトパスシリーズとか)


 夜見ライナを裏世界に導くための怪しい行動の詳細も煮詰まっていく。

 ある程度決まったところで別の私にも情報共有しておいた。

 これで今後三年間、魔法少女に対するセクハラ犯罪は許される物となる。

 すると別の私から『そういう写真をアップロードするSNS交流サイト「SICK'S(シックス)」を作るね。名前の由来はセックスと悪魔の数字「6」の語呂遊びと、病んだものたちのたまり場という自嘲を込めたダブルミーニング。ヴィランたちのための無法地帯があった方が面白い』と情報共有され、流石は優秀な私と褒めた。



 一方その頃、夜見ライナは東京都千代田区一丁目某所にて、遠井上家本家「広幡家」の家紋――十六葉裏菊の付いた鞘付き直剣(ショートソード)を授かっていた。

 本家の方とほんの一、二言だけ会話が許されたので、相手にこう尋ねる。


「世界で唯一の皇帝ですか」


 尋ねられた本家のお方は静かに頷いて微笑まれ、「世界平和のために頑張ってください」とおっしゃられる。

 なるほどこれは、これは……うん、責任重大だ。

 これ以上は失言になるので黙り、順序よく式場を後にした。


「はあー……」

「も、モル?」


 転送陣で香川のデミグラシアに戻った瞬間、その場でしゃがんで数々の甘え行為を自省し、社会人たらねば、騎士たらねばという使命感を取り戻す。

 一緒に式に出たダント氏は戸惑いながら私の頬をぺちぺちした。


「夜見さん大丈夫モル? テレポートで疲れちゃったモル?」

騎士爵(ナイト)の称号の格を舐めてました……重用されてない、評価されてないなんて思い込んで、なんて恥ずかしい……」

「そっちモルか。称号の重みなんて僕たち一般人に分かるわけないモル。僕も今日まで知らなかったモルから。だからこれから頑張ればいいモル」

「ですね。ダントさん部屋に帰ったら慰めて下さい。りんごあげます」

「しょうがないモルね。変化生得(へんげしょうとく)


 ダント氏は美少女モードになったかと思うと、義理の姉のように私の肩を抱き、甘やかしながら部屋まで連れて行ってくれた。

 そこには一般実務生が集まっていて、特訓ルームに連れ込まれたと気づく。

 しかしすぐに騙されたことなどどうでもよくなった。

 私の身長の倍くらいはある真っ白でモフモフの雷鳥が鎮座していたからだ。

 一般事務生の一人が「お疲れ様ですライナ様」と私に近づく。


「そ、その大きな鳥は?」

「大霊鳥ガルーダという名です。ライナ様は騎士ですから、騎乗できる生き物が必要でしょう?」

「私のですか!? いいんですか!?」

「ええ。本家の方から授かった剣はお持ちですか? 霊鳥に見せてあげて下さい」

「は、はい!」


 腰に下げていた家紋付きの剣を見せると、大霊鳥ガルーダなるデカい雷鳥は私を主と認識したのか、ピーウピーウと鳴きながら歩き、頭部を擦り寄せてきた。

 撫でてあげるとクルルルル……と爬虫類のような猫なで声も出すので、実質猫。

 するとクソデカ雷鳥は私の服を嘴でつまみ、乗り方を教えてくれる。

 どうやら首に抱きつくように飛び乗ると背中に乗れるようだ。


「ピーウ!」


 私を背中に乗せたクソデカ雷鳥こと大霊鳥ガルーダは、ご機嫌になって特訓ルームを歩き始めた。なので、このまましばらく騎乗訓練を行うことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あとがーきいもー がきいもー 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ