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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
フィールドワーク.2『魔女ハインリヒの足跡』
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第195話 おじさん、特訓を始める②

(一般実務には一つ星と二つ星、通常実務と上級実務生がいるけど、全員がエモ力を直接扱う戦闘技術「(まとい)」を覚えている。敵として過不足無し。それより――)


 魔女ハインリヒは、アリス先生なる異常存在がこちらをじっと見つめてくることに焦燥感を覚え、これ以上の調査は危険だと判断、撤退する道を選んだ。

 特訓ルームから出ようとすると、そのアリス先生なる存在が「忘れ物をしました」とその場を離れ、ぴったり背後を歩き始めることに気づく。


「何かご用?」

「仕事が終わったら一緒にお酒を飲みませんか?」

「フンッ」


(ヴィラン相手に馴れ馴れしいわね。そういう甘ったれた正義が一番キライなのよ)

 ハインリヒは距離を離すために歩く速度を早めた。


「大人になった彼女たちと正々堂々戦いたいと思いませんか?」

「――」


 ピタッ、と足が止まる。

 本音を暴かれたのだ。

 つまるところ、私のような優秀な人間が悪事を働くのは暇だから。

 アリス先生とかいう異常存在は策謀系ヴィランのことをよく分かっているらしい。


「どれだけ才能があろうと、所詮(しょせん)は子供。大人である私たちに敵う余地はない」

「……」

「商店街の居酒屋で待っています。未来の話をしましょう」


 ハインリヒは何も言わずにルームから出ていった。

 アリス先生ことアスモデウスは手で口元を抑えながらクスリと笑い、廊下で正座待機していた黒髪メカクレの美少女、赤城(あかぎ)(ひとみ)を手招きする。

 メカクレ美少女のヒトミは不安げな様子で尋ねてきた。


「あ、あの! お姉さまたちはヒトミのお弁当を食べてくれましたか!? 特訓の邪魔だと思って悩んでいたら、今の魔女さんが代わりに渡すとを申し出てくれて――」

「ええ、もちろんですヒトミさん。お腹いっぱいになってスヤスヤ眠っておられます。このまま中に入ってライナ様たちを見守っていていただけませんか?」

「わ、分かりましたっ!」


 即座に正座を解き、ライナたちの元へ走っていく。

 アスモデウスは五日にも及ぶ正座待機を物ともしない、足のしびれすら起こさない柔軟な脚が彼女の強い武器だと気付き、「股関節が柔軟でエッチですね」と呟きながら特訓ルームを施錠し、先ほどの魔女が入ってこれないようにした。

 盗み見ではなく正式に許可を取れば見学できる封印魔法で。


 次の物語は八時間後の夜見ライナの視点から始まる。



 目が覚めると、特訓ルームの白い天井。

 それとヒトミちゃんの華やかな笑顔が見えた。


「おはようございますお姉さま!」

「あはは、おはようです。かわいー」

「ふひゃわ」


 真下から覗けたので、初めて彼女のかわいいご尊顔を拝めた。

 五日もエモ力操作特訓を頑張ったかいがある。

 ヒトミちゃんは頬をわしゃる私の手を受け止め、自身の膝に置いてまとめた。


「もう、私を愛でるのはあとにして下さいお姉さま。エモ力そのものを利用した欠損部位の再生や重傷の治療技法、「ちちんぷいぷい」のコツは掴めましたか?」

「忍法「智仁武勇(ちじんぶゆう)の術」でしたっけ。痛いの痛いのとんでけー」

「そうです。完成度はどうですか?」

「ああ、まあ、おおよそは掴めたと思います。あとは実戦で磨くしかないかと」

「お姉さまは危機感が足りませんっ。腕を斬り落とされてからじゃ遅いんですよ?」

「はは……そうならない戦いをしたいですね……」

「これから出会う魔法犯罪者はそういうことを平気でしてくる悪者たちです。魔法監獄の看守になる自覚を持って下さいっ」

「あははは、気をつけます……」


 実際は掴めているが、実戦で冷静に実行できるかどうかは賭けなので未知数だ。

 以前が以前だけに、笑い事じゃないとは分かっていても、責任追求を逃れるために重要な部分を断言しない癖が染み付いてしまって直らない。

 ヒトミちゃんも私の曖昧さを危惧したのか、こう言う。


「お姉さま。ヒトミの言う事をよくお聞き下さい」

「は、はい」

「しばらく男装の麗人になってリーダーシップを身に着けましょう」

「男装で!?」

「「ッ!」」


 私の声にピクリと反応した左右のハーレム要員ことミロ、サンデーちゃんもギンと目を開けた。すぐさま寝袋から這い出て私の肩を掴む。


「男装しましょう夜見さん!」

「善は急げですわ!」

「拒否権がない~~! わああ~―――……っ!」


 一般実務生との合同特訓は私用により取りやめ。

 改装の終わった自室に連れて行かれる。



 改装の終わった自室は、まるで別世界のように変わっていた。

 かつてはシンプルだった部屋が、今やどこぞの豪邸のリビングのように広くなり、豪華な家具と装飾品で満たされている。

 鏡台には整然とした化粧品が並び、クローゼットには男装用の衣装がずらりと揃っていた。ミロちゃんが微笑む。


「ここで準備を整えましょう、夜見さん」

「そうですわ、完璧な変身を遂げましょう」


 サンデーちゃんも力強く頷いた。

 二人に囲まれ、私は半ば呆然としながら鏡の前に立った。

 ヒトミちゃんが手際よく髪を整え、ミロとサンデーちゃんが手を貸してくれる。

 彼女たちの手際の良さには感心するばかりだが、心の中では不安が募る。


「本当にこれでいいのかな……」


 小さな声で呟くと、ヒトミちゃんが優しく微笑んで答えた。


「お姉さま、リーダーシップを身に着けるためには、新しい自分を見つけることが大切です。男装はその一環です。自信を持ってください」

「が、頑張ります」


 その言葉に少し勇気をもらい、私は深呼吸をした。

 服を着替え、整えられた姿を鏡に映すと、そこには以前の私とは全く違う、凛々しい姿の自分が立っていた。

 スタイリッシュなダークネイビーのテーラードジャケットとスリムフィットのパンツに、普段と変わらないツーサイドアップの髪型。

 私らしいピンクのネクタイとシルバーの腕時計がおしゃれだ。

 確かに、これならばリーダーとして、特に社会人としての自信が湧いてくるかもしれない。


「お姉さま、どうでしょうか?」

「うん……悪くないかも」


 私は少し笑顔を浮かべて答えた。

 緩んでいた気分がピリッと整ったので、やっぱりスーツはいい。

 その時、部屋のドアがノックされ、重々しい声が響いた。


『夜見ライナさん、一般実務科の使いの者です。準備はできましたか?』


 ドアの向こうから聞こえた声に、部屋の空気が引き締まる。

 今日は……ああそうだ、今日はたしか騎士爵を授与してもらう日だ。

 だから急に男装させられて、おめかしもしたのか。

 私は最後に鏡で自分を確認し、深呼吸を一つ。


「はい、今行きます!」


 ドアを開けると、その場に膝まづいて綺麗にたたまれた白い布――ペリースと呼ばれる肩掛けマントを差し出す男子実務生の姿があった。

 ライナは胸を張り、彼の前に立ってマントを取り、右肩に羽織る。

 新しい自分、新しい挑戦が始まる予感がした。


「行きましょう。爵位授与式が始まります。我々にはあなたの力が必要です」


 ライナは頷き、心の中で決意を新たにした。

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