第193話 おじさん、中等部一年組を迎えに行く②
高松学園都市は今日も平和だ。
増えた配信者が自分そっちのけで私を撮影してくる以外は。
「うっわ、プリティコスモスじゃん……」
「本物だ……めっちゃ可愛いー……」
……まあ?
私が可愛いのは全人類が知っていて当然のことなので。
多少の隠し撮りくらいは許してあげなくもないかな?
「ふふん」
「夜見さんの心が順当に成長して良かったモル」
名声を手に入れるっていいなと思う今日だ。
この分だと中等部一年組のみんなに胸を張ってドヤ顔できそう。
「ダントさん」
「一年組の目撃情報モルね。ミロさん以外は商店街付近に集中しているモル」
「ミロちゃんはどこに?」
「商店街に入るところを目撃されたモル」
「へえ、珍しく同じ場所に集まってる……」
ミロちゃんのことだからすれ違いで月読学園に到着していると思っていた。
なのに商店街に集まるということは、私と同じかも。
高松商店街に入ると、やっぱり「望月ドラックストア」の前。
どうやら観光客向けにイカ焼きの屋台をやっているらしく、四人とも長椅子に座ってもぐもぐ美味しそうに食べていた。
「絶対ここよね?」
「間違いありませんわ。三つ星の味ですの」
「みんなー! お久しぶりです!」
「「「夜見!」」」
私の顔を見たとたんに笑顔になった中等部一年組は、まずサンデー&ミロペアが私の両腕を掴み、いちご&おさげペアが背中をグッと押す。
そのままイカ焼き屋台で購入させようとしてくるので、全力で抵抗した。
「……ッ、私にも個人の自由がありますけどッ!?」
「いいから食べなさいよ!」
「めっちゃ美味しいんやで、ここ!」
「朝食を食べたばかりなので行きませんがッ!?」
しばらくは抵抗できたものの、技量勝負ではおさげちゃんに分があり、押されながら左足を絡め取られ、屋台に向かって一歩踏み出すことになった。
屋台の店主さんがこちらを向く。
「らっしゃい!」
「あっ、その」
「イカ焼き二つくださいモル!」
「あいよ!」
ダントさんは朝食をさっき食べたばかりだというのに、まだ食べられるようだ。
二パック分のイカ焼き、合計で二千円なり。インフレを感じる。
私は……
てっきり満腹で食べられないモノだと思っていると、急にお腹が反応した。
ぐぅ~。
「お、お腹が鳴った? 朝食を食べたばかりなのに」
「平和を実感して体が生育し始めた証モル。早く食べるモル」
「は、はい! えへへ」
プラパックに乗せられたイカの串焼きを持ち、ガブッとかぶりつく。
甘しょっぱい味わい、新鮮な海鮮物らしいジューシーな歯ごたえに舌鼓を打った。
「美味しっ! なんですかこれ、無限に食べられますっ」
忘れかけていた飢餓感のようなものが目覚め、パクパク食べてしまう。
食べ終わるとまだ食べたりないことに気づいた。
「もっと食べたい~」
「もぐもぐ……もっとイカ焼きを頼むモル」
「お小遣いください!」
「どうぞモル」
ダント氏から千円札のいっぱい入ったお財布を貰った。
ひとまず二個頼んで、焼き立てほかほかのイカ焼きをハムハムはふはふ頬張る。
美味しい。これすっごい美味しい。
最後の一口をゴクリと飲み込んだところで、ようやく一部始終を中等部一年組に撮影されていたことに気づいた。
「わ、恥ずかしい場面を撮られちゃいました」
「いいのいいの。いい絵だったわ夜見」
「夜見はんがこんなに喜んでご飯食べてるの始めてみたわ」
「そうですかね?」
「そうですわ。ちょっとお口の中見せなさい」
「ふぇあ」
サンデーちゃんが私の顎を持ち、頬をぐにと押して口の中を見られる。
食べたばかりなので口臭とか気になるのでやめて欲しいけど、パワー勝負ではサンデーちゃんに分があるので止められない。仕方ないので無抵抗。
そのまま口内の写真をぱしゃりと撮られた。
「なにかみえまひゅ?」
「これエッチですわ」
「せやな」
「なんなんれひゅかもう……」
どうやら特に意味のない行為だったようだ。
バシンとサンデーちゃんを叩くと、手を離してごめんあそばせとくすくす笑う。
お姉さんのハムスター先輩に似てきたかも。
するとプロペラの付いた全方位撮影が可能な球体ドローン(裏世界探索を行う配信者が好んで使う撮影機材だ)を浮かせながら、いちごちゃんがこちらを向く。
「それで夜見、急に会いに来てどうしたのよ?」
「どうって、皆さんを宿泊場所に案内しようと」
「うちらは高松に自分専用の別荘ぐらいあるで? また寮生活なんて嫌や」
「えー私と一緒に住みたくないんですかー……?」
「住みたいからついてく~」
そう言って私の側にぴったり寄り添うおさげちゃん。
よし、まずは一人。
いちごちゃんも堕ちそうだが、我慢している。
「でもね夜見、一般実務生と一緒に特訓するんでしょ? プライベートまで一緒だとよくない噂が流れるじゃない」
「いちごちゃんは私のことが嫌いですか……?」
「大好きぃ~夜見しゅきしゅき~」
二人目。いちごちゃんとおさげちゃんを左右にはべらしながらドヤる。
するとミロちゃんが「あう、その」と発言に戸惑ってたじろいでいたので、歓迎するように腕を広げると、無言で飛び込んできた。三人目。
「サンデーちゃんはどうしますか?」
「まあ修行の頻度によりますわね。週何回ですの?」
「毎日でも戦えますよ」
「組手の人数は?」
「一般実務生が二百五十人ほど。年齢は中等部から大学生まで。男性もいます」
「フゥー……強い相手と競い合えるなんて最高ですわね。特訓ルームになら住んでいいかしら。サイズ的な余裕は?」
「めっちゃデカいので何人でも住めます」
「では私も」
最後にサンデーちゃんが後ろに回って抱きつく。
懐かしのフルアーマー夜見の完成だ。
「夜見はーん、このまま運んでくれへん?」
「ええ? 私には……」
少し戸惑うと、ダント氏と目が合う。
彼は腕にはめた転送陣を出す青いリングを見せてきた。
そう言えばできるんだった。
「ダントさんお願いします」
「任せるモル! テレポート!」
彼が真下に手を向けると、地面にインスタント魔法陣が刻まれ、いちごちゃんの出した撮影ドローンごとバシュンと私の自室にテレポートした。
中等部一年組のみんなはスンスンと鼻を鳴らして「これ夜見の部屋だ」「ですわ」など、恥ずかしくないはずなのに恥ずかしいことを言うので、ぺしぺしお尻を叩きながら部屋を追い出し、好きな部屋を選ばせた。
埋まっている部屋や空き部屋などをすべて見回ったあとで、彼女たちは一つの部屋の前に集まる。
「「「「この部屋がいい」」」」
「そこ私の部屋なんですけど……」
全員が私の部屋を指差し、さらにたまたま近くを通りかかった赤城先輩まで紛れ込んで指差すので、ダント氏を見る。
「じゃあ僕たち聖獣組はお隣の二番の部屋に行くモルから、夜見さんたちは三番を使うといいモル」
「あのそういう意味じゃ」
「ああ、もちろん仕切りなしの大部屋モル。部屋の改造は池小路さんに連絡しておくモルから、それが終わるまでは特訓ルームで遊ぶといいモル。じゃあ僕たち聖獣は忙しいモルから」
「わあすごい問答無用……」
ダント氏はそう言って、先輩聖獣を連れて二番の部屋に入っていった。
どうやら拒否権はないらしい。
すると興奮したサンデーちゃんにガッと腕を掴まれる。
「夜見さんマジカルスポーツチャンバラをやりますわよ」
「あっはい……部屋から出て左奥の事務室に万羽凛さんと三津裏霧斗くんという特訓部屋の管理者がいますので、使用許可を取りに行きましょう」
「分かりましたわ! ふっふ~ん♪」
まあマジカルスポーツチャンバラは楽しいからいいか……
ヒロインズを引き連れて、流されるように引っ張られていった。




