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第189話 おじさん、ミステリストを倒す

 ……色々ありまして。

 高松学園都市は全身龍脈人間になった私から無尽蔵に湧き出る「神気」によって、テロリストが侵入できなくなったらしい。

 バイオテロの現場となった本社ビル街の消毒や安全確認も終わったし、余暇も出来たので、ふと気がつけば特に理由なく黒い制服姿の赤城先輩と一緒に行動している。

 ダント氏は、諸事情でここに居ない。二人っきりのデートでもあるから。

 今日は高松市の民間運営バスに乗って市内をぐるぐる巡るのが仕事だ。


「……先輩、今日はなんでバスなんですか?」

「んーなんだろうね」

「旅にでたいとか?」

「企業秘密でーす」

「もー」


 いつもと同じセリフでとぼけられる。

 香川に来てからの赤城先輩は、相変わらず何も教えてくれない。

 何かを探しているのは間違いないけれど、その何かが分からない状況だ。


「そろそろ教えて下さいよ。何を探してるんですか?」

「ルールと法則かな」

「ルールと法則?」


 ピー、バタン。

「ここが例のバスだな! さて裏世界は見つかるのか!」

「うわ、でた……」

 するとバスが停車して、派手な髪色の女性や男性が乗り込んでくる。

 香川の裏世界があると判明してからというもの、ああいうコスプレイヤーのような見た目の人たちがひっきりなしにやってくるようになった。

 赤城先輩は彼らが苦手らしく、見かけるたびにサングラスをかけて顔を隠す。

 曰く、バズ目的で裏世界探索を行う動画配信者らしい。

 好奇の目で眺めていると、先輩によってサングラスを付けられた。


「見ない。関わると仕事が増える」

「先輩はプロフェッショナルですね」

「他人に冷たいだけだよ」


 そうなんだ。でも私は他人じゃないんだ。嬉しい。

 とはいえ赤城先輩の機嫌が悪そうなので、しばらく黙ってのんびりした。

 バスが市内を二周すればチラホラと脱落者が現れ、私たちも同じように脱落する。


「なんで降りたんですか?」

「勘。乗ってたら襲われそうな気がしたから」

「何にですか?」

「夜見ちゃんは気づいてないの?」

「仮に襲われても制圧できるな、くらいは思いました」

「頼りにしたいところなんだけどね……先輩にもメンツがあるので」

「でも調べものが……あ、行っちゃった」


 バスがブロロロロ、と走り出す。

 行くよ、と赤城先輩が歩き出したところで、急に立ち止まった。

 黒いチョーカーを付けた成人男性が私たちを見ていたのだ。


「誰です?」

「チッ、敵襲!」


 シュンッ、と移動した場所は先ほどの出発したばかりのバスの中。

 しかしほっと安堵したのもつかの間。

 なんと配信者の方々も黒いチョーカーを付けてこちらを見ていた。


「こっちも!?」

「アポート!」


 先輩が聞いたことのない魔法の起動ワードを使う。

 指を鳴らして窓の外を指さしたかと思うと、バシュン、という音とともにバスの乗客全員が先ほどのバス乗り場に転送された。

 運転手さんまで巻き添えだ。まあチョーカー付いてるししょうがない。

 バスは先輩のマジカルステッキ一振りで自動操縦に変えられ、さらに座席の隅々まで観察し、安全が確保されたと確信した先輩ははあ、と一息つく。


「今のはなんだったんですか?」

「あれは――「つまらないのね。あなた」――!?」


 しかし気がつけば、先輩の背後の座席に紫髪で縦ロールのお嬢様が座っており、先輩の首を掴んでいた。


「――でも、あなたの後輩は優秀ね」

「赤城先輩を離して下さい」

『魔法少女プリティコスモス! 純正式礼装(フォーマルコーデ)!』


 同時に私も加速しながら変身していて、相手の首に儀礼用両手剣(ツーハンデッドソード)を突きつけていた。相手は静かに手を離して言う事を聞いてくれる。


「あなたは何者ですか?」

「ミステリスト。奈々氏(ななし)というネームで活動しているわ」

「私たちを襲った目的は」

「復讐。そこの赤城恵という女が裏世界を起動したのは知ってる。でもね、そのせいで私の手駒が全員高松市のお外にはじき出されちゃったのよ。だから殺しに来たの」

「私には正当防衛権を行使する用意があります」

「来なさい。格の違いを見せてあげる」

「夜見ちゃん、ダメ!」


 シュッ――

「フッ!」

 剣を振って相手の手を弾き飛ばし、初手で突きをぶち込む。

 しかし一瞬で姿を消し、気がつけば私の背後にいた。

 首元を掴まれる。

 同時にゾクリと嫌な感覚――ダークエモーショナルエネルギーの感覚がした。


「最初の一人はあなたね。完全掌(かんぜんしょう)あ――」

「あーもーッ!」


 ドゴッ!

「ぐふっ!?」

 相手の未知の魔法が発動する直前に、赤城先輩の飛び蹴りが謎お嬢様の腹に突き刺さってぶっ飛ばした。

 奈々氏と名乗ったミステリストはバス中腹の座席に当たってひっくり返るも、即座に復帰。


「まだま――」

 ゴッ!

 それと同時にテレポートした赤城先輩の無言のグーパンが相手の顔面に炸裂する。

 それだけに終わらず、紫のエモ力をまとった拳で二撃、三撃と連打連打。

 相手をサンドバッグのようにボコボコにした。

 最後に正拳突きを食らわせ、バスの上半分をブロッコリーのように吹き飛ばしながらノックアウトKOを決める。

 ミステリストは電柱をガァンと歪ませながら止まり、白目をむいた。


「よ、容赦ない……」

「はぁー、何あいつ。正当防衛しちゃった」

「先輩って武闘派魔法少女だったんですか?」

「固有魔法を活かすのに最適な戦闘法は誰でも考えるでしょ。ともかく、逮捕」

「どうやって?」

「だから私はこれを愛用してる」


 続いて先輩は黒いチェスの駒――バトルデコイ・ダークポーンを出す。


「これ、倒した悪人を収容できるの」

「へえーすっごい便利ー」

「――ぐっ」


 すると、ミステリストがびくんと動いて目を覚ました。

 両手を上げ、投降を示している。

 近づくと、にっこり笑いながらも苦しそうに声を出した。


「はは、ハァ、やるじゃない、あなた」

「私に殴られてまだ意識があるなんて強いじゃん」

「――無礼(なめ)るな。私の固有魔法「完全掌握(かんぜんしょうあく)」は、死体すらも動かして生き返らせることができる最高峰の肉体制御魔法。自らの生死、年齢や容姿。人としての形。寿命操作だって自由自在なのよ」

「その魔法の発動条件は首元を掴むことでしょ? 掴めなきゃ勝てない」

「くっ……術式は開示したわ。ハーグ陸戦条約に基づく対応を」

「分かった」


 赤城先輩は黒いポーンを相手の額に当て、こう言った。


「でも公務執行妨害罪と傷害罪と器物損壊罪で逮捕します。ミステリスト奈々氏。夜見ちゃんの小間使い(メイド)になって反省しなさい」

「ふざけッ、バスを壊したのはおま――」


 弁解する余地もなく、頭から青い魔力の粒子になってポーンの中に吸い込まれた。

 カチッと音がして、ポーンの先に十字が生えたので収容成功だ。

 先輩は高そうな木箱を取り出すも、ポーンは数がいっぱいで入れられず、ポイっと私に投げてくる。慌てて受け取った。


「わ」

「夜見ちゃん、そろそろ警察とは別の仕事をしたくない?」

「何をするんですか?」

「魔法犯罪刑務所の看守。人手が足りないの。兼業でいいからさ」

「赤城先輩が導いてくれるならやりますが……」

「マジ? 決まりだね。実家に連絡入れたいから――ああいや、まずは後片付け」


 ステッキの一振りでブロッコリーになったバスや、歪んだ電柱が元通り。

 少し戻ってみれば、ミステリストの完全掌握から開放された一般人の無事も確認できた。

 異常事態に巻き込まれたことを自覚したのか、バズっているようで良かった。


『ええ!? バスにラズライトムーンが乗ってた!? なんで教えてくれないんだよ視聴者ー!』


「楽しそうですね」

「私はまた噂が広まって仕事しづらくなって困る」

「あはは」


 有名になりすぎるのも困りものらしい。

 私にはまだまだ分からない感覚だなぁと思いつつ、先輩から渡されたミステリスト入りの黒ポーンを大事に抱えたままデミグラシアにテレポート。

 願叶さんに事情を話すと快諾してくれた。

 理由はアスモデウスのような悪魔を使役するためにも必要な経験だ、とのこと。


「それでこのダークポーンを収納する箱は」

「かなり特別なものが必要だね。任せて。僕たちが作るよ」

「あ、着いていきます」


 一緒に事務室に向かって技術支援チームの方々に伝えると、慣れた手つきで作ってくれた。ミニアタッシュケースのようなチェス箱にダークポーンは収納される。

 怪獣の捕獲や研究も想定しているようで、アイデアが腐るほどあるらしい。


「すごいですね!」

「ありがとう! あとは怪獣を捕まえてくれれば技術支援チームは幸せだ!」

「頑張って捕獲します!」


 ひとまず、ハウンドドッグやテロリスト絡みの問題はこれで終止符が打たれた。

 次に私たちの物語が紡がれるのはいつか分からない。

 なぜなら、ミステリスト「奈々氏」を名乗る人物を収容してから世界の魔法犯罪がなくなり、平和な世界が訪れたからだ。

 それだけ精神支配によって操られていた人間が多かったのだろう。


 ちなみに私と赤城先輩は成人してすぐに結婚し、例の妙薬で双子を生んだ。

 人としてはハッピーエンドだけど、心の中では求めていなかった結末だ。


 私は最後の最後まで正解を選び、世界を救った。

 ただ願わくば、次の私はこのような結末にならないように気をつけてほしい。

 これは私の願いを押し殺してしまったことで生まれた物語(ルート)だから。


‐fin‐

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