第178話 おじさん、仲間と顔合わせをする
着替えを着てお風呂から出ると、事務室には私を除いて九名と一匹の仲間がいた。
願叶さん。
池小路さん。
万羽ちゃんと三津裏くん。
技術支援チームの四人、男子大学生の鍵ピアスさんこと「猪飼真」さん。
そして私の聖獣であるダント氏。
事務室の中央には大きなパーティーテーブルが設置されていて、ホールケーキのほか、フライドチキンや宅配ピザなどが届いていた。
「わ、お待たせしちゃいました?」
「今集まったところさ。仲間はこれで全員になる」
「そうなんですか」
さっき部屋にいた水色髪の女子高生は何のためにいたんだろう。
願叶さんが個人的に雇っただけなのかな、と疑問に思うも、反指揮者派を雇ったとして、仲良く顔合わせしてたら指揮長が感づくからだと理解して思考をやめた。
これで全員と言われた以上は、これで全員なのだ。
「夜見さん缶ジュースモル」
「ありがとうございます」
「よーしとりあえず乾杯しましょう!」
「「「かんぱーい!」」」
主任さんなる人物の合図に合わせて全員でジュースの入った缶を付き合わせる。
最初に願叶さん、猪飼さんとダントさんと続き、最後は池小路さんだった。
ジュースの安っぽさといい、なんだか結成したてのベンチャー企業のようだ。
美味しいピザやチキンを食べながら万羽ちゃんや三津裏くんと話し、ボケをダント氏に突っ込まれたり、技術支援チームの方々の怪獣談義を聞いたりと楽しかった。
全員の腹がほどよく膨れたころで願叶さんがお開きにする。
「よし、これくらいでいいだろう。用事のある子はそちらを優先しなさい」
「僕たちに用事なんてありませんよ」
「部屋の確保が先だぜ!」
「ははは、嗅ぎつけたか。喫茶店の方に出なさい。そろそろ着く頃だ」
なんだろう。
願叶さんを先頭に全員で喫茶店側に向かう。
するとコンコンコンコンとドアがノックされ、開いた。
カランカラン――
「遅くなりました、相談役の紀伊です。お届け物に参りました」
最初に入ってきたのは紀伊さん。
後ろから色とりどりの布のような何かをダンボールに入れた研究員さんが入ってきて、事務室の奥へ向かい、少しして池小路さんが呼ばれてそちらに向かった。
奥は月詠学園ではなく研究施設のようなものが見える。
「願叶さん、これは?」
「人手が増えて事務室が手狭になってきたから奥の空間を改造してるんだ」
「たしかにこの喫茶店って便利ですもんねー」
「だろう?」
しばらくして工事が終わったのか、紀伊さんと研究員ズは喫茶店から出ていく。
事務室に戻ると大企業のオフィルスーム並みに広くなっており、右奥の休憩室だった場所は、一から三十までの番号が割り振られた寝室や休憩室、「転送ルーム」なる部屋、ほぼ無限に続く真っ白な空間のある部屋などなど。
用途や使い道が分からないものまで追加され、広くて便利になった。
寝室は好きな部屋を選べるようだったので、私はとりあえず三番を貰う。
「新入生ちゃんは三番が好きなんだ?」
「わ、鍵ピアスさん」
「俺もだよ。隣の部屋に失礼するね」
猪飼さんはそう言って縁起の悪そうな四番の寝室に入った。
ちょっとドキドキさせられる。
ともかく、寝室の確認だ。寝室内はふかふかのベッドと化粧台、勉強机のほか、洗面台やシャワールーム、湯船なども備え付けられていて安心だ。
はあ、やっと普段通りに過ごせるとベッドに倒れ込み、ダント氏と話す。
「願叶さんは三日後から活動しなさいって言ってましたね」
「まずは環境になれなさいってことモル」
「フィールドワークよりも高松学園都市のことを知らないと、ですね」
やっぱり移籍したばかりはやることが多くて忙しい。
学校のトップ勢力に敵対されると苦労や心労もマシマシだ。
それは願叶さんや他のみんなもきっと同じなんだろうな、と思い、まずはインターネットで高松学園都市を個人的に調べてみることにした。
◇
調べてみて分かったのは、魔法絡みの事件は南部と北部に多いということ。
どうやら私も好きな「魔剤」ことエモーションエナジー愛飲会なるグループがその地域で一気飲み集会を開くらしく、だいたいハイになって揉め事を起こすそうだ。
当然ながら南部と北部で集会を開くことが多いだけであって、東部や西部でも普通に集会を開くし、事件も起こす。カス。
さらに研究に疲れた学士が魔法生物絡みの事故を起こしたり、近畿地方を守る「晴明大結界」なる古代遺物のギリギリ範囲外だからテロ組織が潜伏しがちだったりと、発展状況に比べて問題の起こる要素しかない。
あるネット住民はこう言う。香川は末法の地だと。
ゲームは一日一時間までという条例が存在することも知り、そりゃ学生が魔法研究に熱中するし、娯楽に飢えてフィールドワークで遊んじゃうよね、とも思う。
「はあ……つまりは、騒動が起こる要素しかない場所ってことですか」
「近畿地方は遺跡や結界が多すぎてまともに開発できないという問題もあるモル」
「歴史が深いですからねー」
「じゃあそろそろ僕は寝るモル」
「はーい。私も寝るか」
ダント氏は丸まってしまったので、私もマジタブを置いて目を閉じることした。
言われたとおりに三日ほどは大人しくしておこうか、観光にでも出ようかな。
そんなことを考えながらまどろんでいると、マジタブにメッセージが届く。
願叶さんだ。開くとこう書いてあった。
「万羽さんの活動を観察しなさい、ですか……」
三日後に活動しなさいという指示と、観察しなさいという指示を両立させる方法。
ううむ、どうすればいいかな。
あれこれ考えているうちに眠くなり、そのまま寝た。
明日のことは明日の朝に考える。




