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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
魔法少女プリティコスモス 第二期
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第170話 おじさん、月詠学園の通信制に移籍する

 伊勢神宮への初詣や、近場の観光スポットやテーマパークなどなど。

 三重県伊勢市での正月旅行を楽しんだ私は、願叶さんといくつか移籍候補を選ぶ。

 遠井上家別邸のリビングでホットココアを飲みながら話し合うのだ。


「まずは魔法少女としての向き不向きの視点から考えようか」

「は、はい」

「ライナちゃんは基礎スペックがまんべんなく高くて、何でもできるように見える」

「違うんですか?」

「初期コスチューム分類があるんだ。夜見ちゃんはピンクのコスチュームだから、魔法「赤」と魔法「銀」がとても得意で、どこまでも鍛えられる。ようは強化と射撃に天才級の才能があるということだね。魔法少女としては王道。大当たりだ」

「えへへ、嬉しいです」

「そして次の分類がエモーショナル武器系統。今回は大剣と超超射程の槍。とにかく派手で見栄えがいい。大企業、中小零細問わず、喉から手が出るほど欲しい人材だ」

「もー褒めても怪人退治しか出来ませんよ~」

「だから狙うべきはジャイアントキリングができる企業。魔物のほか、怪異や怪獣などの大型災害生物への対処を行う企業がもっとも適している」

「わあ……危なそうですね……」

「それがそうでもない」


 願叶さんは一息つくようにカップを傾けてココアを飲むと、こう言った。


「滅多なことでは出現しないからさ」

「つまり業界そのものが先細ってるということですか?」

「そういうことだね。近年増加していた魔法犯罪は結界術を利用した小規模テロだ。デスゲームや神隠し事件で人命を奪い、無垢な魂をダークエモーショナルエネルギーに変換することで力を蓄え、最終目標である国家転覆を目論む者が多かった」

「過去形……つまり流行が変わった?」

「ああ。つい数日前、怪獣信仰の復興を目指す巨大地下勢力の存在が確認された」

「だから先細っていた業界が再び脚光を浴び始めると」

「いや、どちらもさ。小規模テロを行っていた者たちが大災害を引き起こすための建前を手に入れた。怪獣災害というトリガーをね」

「つ、つまり?」

「小規模なテロに対処していた企業から、魔物退治や怪異・怪獣退治のできる魔法少女を求める求人がわんさか出ているよ。もちろん僕の経営する会社からも」

「雇ってくれるなら正直に言ってくれていいじゃないですかー」

「あははは、ごめんごめん。つい楽しくなってしまってね」


 ぷく、とむくれると、願叶さんは楽しそうに笑った。


「とりあえず三つの企業に絞っておいたよ。これがリストだ」

「弦楽器市場トップシェアを誇る大企業TAMETOMO、エモーショナル魔法触媒技術の最先端を行く月詠プラント、海外事業も手掛ける国有電力会社のヴォルテックスですか……」

「どれがいい?」

「願叶さんは、どこに所属してもらったほうが私を動かしやすいですか?」

「月詠プラントだね。最先端のエモ―ショナル魔法技術で作られたマジックアイテムの運用テストができる。あと研究費として活動資金の援助がしやすい」

「じゃあそこに所属します」

「感謝するよ。夜見ちゃんの履歴書と一緒に採用通知辞令を送っておこう」


 願叶さんは折りたたみ式のスマホを取り出し、指示メッセージを出した。

 これで所属する企業が決まったので、次はその企業が出資する学校法人選びだ。


「学校法人はどこにしますか?」

「僕のおすすめはあるけど……夜見ちゃんはどんな学校生活がいい?」

「魔法少女活動に集中できる方がありがたいです」

「同じ考えだったみたいだね。通信教育制度がある私立の月詠学園に通って欲しい」

「分かりました」


 秒で決まった。

 ライナちゃんとはなんだか息が合うと言われ、友のように拳同士を突き合わせる。

 それまでの会話を聞いていたダント氏もぼやいた。


「物分かりが良すぎるモル」

「ダントさんが選んだ魔法少女だからじゃないですかー」

「そうだよダントくん。君はとても優秀だ」

「わわ、ありがとうございますモル」


 ペコリと頭を下げると、彼の身体からシャインジュエルが生まれた。

 嬉しさの証だ。よしよしと撫でつける。


「さて。じゃあ月詠学園の概要説明に移ろう」

「はい!」

「月詠学園は男女共学。しかも小中高大一貫教育、エスカレーター式の私立学校だ。普通科、一般実務科、特進コースの三つの学科があって、特に特進コースの入学生は技術者・研究者になるためのエリート教育を受け、月詠プラントに入社することが確定している。夜見ちゃんは彼らの選民意識の高さに驚くことだろう」

「わあ……」


 ドキドキと喜ぶ心を落ち着かせるために私もココアを飲む。

 そんな異能モノテンプレートな学校があるんだ。


「私はどこに所属するんでしょうか?」

「特進コースだ。そして入学したら特進コースにはあまり構わず、実務科を助けてあげて欲しい。これから起こるであろう怪獣災害に対処するのは実務科だからね」

「構いませんけど、特進コースの子たちが可哀想じゃ?」

「キツイお灸を据えて欲しいってことさ。才能とは何たるか、とね」

「お父さんがそういうなら容赦はしませんよー?」

「フフフそう簡単に倒せるかな?」

「ま、まさか肝いりだったり」

「その方が盛り上がるじゃないか。新型変身アイテムとマジカルステッキの性能比較もしたいし、ダントくんが購入したエモーショナルクラフトでライナちゃん専用武器をたくさん作らせたいし……いや、違うな。とにかく娘の活躍を間近で見たい!」

「わあ」


 あまりにも楽しそうに言うものだから、少し驚かされた。

 私のファンが「完全に脳が焼かれててもうダメ」「少し特殊」と赤城先輩が言っていたけど、願叶さんもその一人だったのか。


「それで月詠学園はどこに?」

「四国の香川県高松市の海沿いにある「高松学園都市」さ。全校生徒は合計で六百人ほど。さらに特進コースは各学年に十名。ライナちゃんはそこに移籍するわけだね」

「競争社会ですねー」

「それが光の国ソレイユに関わるということさ。運も実力のうちだよ」

「逆も同じ?」

「あはは、そうだね。実力があるやつは運もいい。ライナちゃんは彼らの実力を見極めて、魔法少女らしく、あと一歩で届かない子に運命を与えてあげて欲しい」

「そういうことならよろこんで依頼を受けます」


 助かるよ、と願叶さんは言う。

 今回の移籍はただの移籍ではなく、運がなくて日の目を見ない子、きっかけが必要な子を探すのが願叶さんの望んでいる展開みたいだ。頑張ろうと思う。


「ああ、そうそう。単位は通信教育で取るから、基本的な活動方針は魔法少女。小規模なテロと怪人・怪獣災害事件の対処のために市内各地を飛び回ることになるよ」

「わあ、そうなんですかー」

「明日くらいに月詠プラントの技術支援チームが送られてくるから挨拶しよう」

「分かりました。どこに行けばいいんですか?」

「集合場所は高松学園都市の南区。魔法絡みの事件がトップクラスに多い場所さ」

「まだ月詠学園の生徒には会えなさそうな感じですか?」

「通信制なのをいいことに遊び回っている子が多いんだよ」

「ああだからお灸を」


 なるほどなるほど、と全て理解してココアを飲む。

 移籍する理由しかないわけだ。

 どんな面白い子たちに出会えるのか、とても楽しみになった。

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