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限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第七章 課外活動編『赤城先輩とのデート配信』
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第163話 おじさん、寝落ちしていたことに気づく

 それから三日ほど経った。


「空を飛ぶポテトの話はもう嫌モル……」

「んう」


 急に顔まわりを熱く感じて目を覚ます。

 場所は変わらずデミグラッセの席。熱源は窓から差し込む陽の光。

 どうやらおしゃべり中に寝落ちしていたようだ。

 前を向けば赤城先輩も爆睡していて、ダント氏も聖獣用パソコンを開いたまま丸まっていてかわいい。昨日は何の話をしてたんだっけ。

 するとテーブルに置かれた赤城先輩のマジタブが光った。誰かから着信だ。


 ブーッ、ブーッ――

 ガタンッ!

「はい赤城起きてますっ」

「うわ!?」

 急に目を覚ました先輩は、マジタブを取って電話に出た。


「あー、おはようございます」

『――、―――――』

「あははそれはよかった。……ワイルドハント? そっちは警備隊案件でしょ?」


 仕事のお話らしい。

 そう言えばいつでも出動できるよう待機してたんだっけ。


「まあはい分かりますよ? 気持ちは。でも私がやりたいのは本当のデート配信であって、撮影じゃないんですよ。……あの人が怒る? いやそれはないです。魔法少女史を履修してないんですか?」


 本当に何の話だろうか。


「だから。梢千代市で特撮を取りたいなら、役所の方に正規に依頼を出してと言ってるでしょ? ……はい。そうです。電話受付は市の方です。はい。ええ。応援ありがとうございます。では」


 プチッ。ツー、ツー。

「はぁ」


 電話を終えた赤城先輩はテーブルに前のめりに倒れる。

 よく分からないけど、気になるから聞いてみるか。


「おはようございます先輩」

「おはよ、夜見ちゃん」

「今の電話は」

「聞く?」


 先輩は頬杖をついた。

 すごく面倒くさそうに話してくれる。


「ボケ老人。私のファン。魔法少女と怪人を戦わせたいがために事件起こすタイプ」

「厄介なお方ですね。お名前は?」

「ダークライを名乗るやつ」

「敵じゃないですか」

「いや匿名って意味。私たちの世代とは用語の使い方が違うの」

「どうして私を連れてってくれなかったんです? 楽しそうなのに」

「その前準備してたら夜見ちゃんが急に話を変えたんじゃん?」

「あ、そうでしたね」


 とぼけたフリをする。

 すると先輩は三日前の話を蒸し返すように笑った。


「なんだっけあれ。たしかチャンバランキングだっけ」

「先輩もあの日は深夜テンションで女学院転覆計画とか練ってたじゃないですか」

「いやぁ、久しぶりに楽しくて。少し悪ノリしすぎたね」

「三日経ちましたけど、実際どうしますか?」

「まあ真面目な話をすると」

「はい」

「平等や平和はね、絶対的な暴によって壊されるものです。ちなみに逆も同じ。平和な世に力を持って生まれたことで狂い、壊れる人間が怪人なんだよ」

「ですねえ……」


 平和が守る命もあれば、平和で壊れる心もある。

 二律背反でままならない世界だ。


「戦わずに分かりあえたらいいのに」

「お互いのことを分かり合うためにも、戦うしかない瞬間があるんだよ」

「せめて想いを背負ってあげたいですね」

「背負ってどうするの?」

「背負うだけです。今はちょっとまだ助ける余裕がなくて」

「そういう返しのワードセンスが好きだなぁ」


 プルルル。プルルルル。

 また赤城先輩のマジタブが鳴る。今度は朔上警備隊からだ。


「先輩、電話来てます」

「はいもしもし赤城です。え? ワイルドハントを捕まえた?」

「!」

「ああ、そういうことにするから家に帰りなさい? 嫌でーす」


 プチッ。

 先輩は電話を切る。


「今のは?」

「警備隊からだね。多分相手に逃げ切られたっぽい」

「やっぱりデート配信した方がよかったんじゃ」

「実はもう配信してますって言ったらどうする?」

「また騙した罰として私のお願いを聞いてもらいます」

「どんな罰? なんでもするよ」

「え、本当に配信してるんですか?」

「んー、まず前提が違うんだよね」

「とは?」

「あ、ごめんタンマ」

「はい」


 赤城先輩は「ちょっと待ってて」と言ってトイレに行った。

 しばらくして二人分のお冷を持って戻ってくる。

 渡してくれたので飲んだ。美味しい。


「私は初日にサーキュラーを使っちゃだめと言いました」

「言いましたっけ?」

「あれ、言ってなかったっけ」

「言ってましたよ」

「むー」


 騙されてむくれる赤城先輩がかわいい。

 これでおあいこだ。


「ともかく、赤城先輩は言いました。それは見るなのタブーと言います」

「はあ」

「魔法少女が事件の解決をするには、必ず何らかの「してはいけない」タブーを破って騒動の真相や元凶の思惑にふれる必要があります」

「業界用語では?」

「境界渡り、冥界航、もしくはライン超えと言います」

「へえー」

「夜見ちゃんは遵法精神が高すぎるから、正しい行動は出来ても正解は導き出せない。だからここで教えて、タブーの存在に気づかせる必要があったんだよね」

「とぼけてるわけじゃないんですけど、ちょっとよく分かんないです」

「分からないよねー。高等部一年で追加される実戦講習の座学で習う情報だもん」

「わあ先取り教育……」


 実戦講習と言えば、あの入学初日に食らったシュミレーションか。


「だとすると、私ってまだまだ知らないこと多すぎ?」

「聖ソレイユ女学院って怪人や怪奇事件についての総合学科だからね。中等部生は義務教育と平行しながら基礎魔法教育をする必要があるから、専門教育が遅れるの」

「なるほど。どうして各分野で学科を分けなかったんですか?」

「全部教えないと死人が増えるからだって」

「ですよねー」


 魔法少女の歴史を考えればとてもよく分かる理由だ。

 だから高等部生徒会は現役魔法少女を担任に付ける校則を定めたのか。

 有望そうな子にはちょっとでも早く成長してもらおうと。

 でもそれだと効率が悪いなぁ。


「うーん、思ったんですけど」

「なぁに?」

「実戦講習の座学は魔法少女じゃなくて聖獣に行った方が良くないですか? 魔法少女一人に全部覚えさせるより、魔法少女は戦闘、聖獣は座学と役割を分けた方が教育コストが短くなると思いますよ」

「ん、言われてみればそうだね……学習効率がいい」


 赤城先輩は文面を少し考え、副会長にメッセージを送る。

 しばらくするとこう返ってきた。


「夜見ちゃん、いいアイデアだってー」

「やりました。ふふん」

「さらに言えば犠牲者そのものを減らす方法って何かあるか? だって」

「あー犠牲者そのものを減らす方法ですか……」


 腕を組んで考え込む。

 デミグラッセへの滞在はまだまだ長くなりそうだ。

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