表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
限界社畜おじさんは魔法少女を始めたようです  作者: 蒼魚二三
第七章 課外活動編『赤城先輩とのデート配信』
164/268

第160話 おじさん、赤城先輩を迎えに行く

 正門前の停留所で送迎バスに乗り、新しくなった連絡橋を眺めながら市内へ。

 梢千代駅で降りると、検問である踏切の向こう側でデモを起こしている市外民の侵入を防ぐために、バリケードや侵入防止フェンスを敷く朔上警備隊の方々がいた。

 赤城先輩も警備隊に混じってお手伝いしていたようで、私と目が合うなりその場から離れて抱きついてくる。


「夜見ちゃーん!」

「わ」

「頑張ったからよしよししてー」

「お疲れ様です」


 言われた通りに先輩の頭を撫でてあげる。

 そこで近くの女性警備隊員さんと目が合った。

 黒いコンバットスーツに身を包み、フルフェイスヘルメットを被っているけど、背が高くて、紫がかった銀髪がはみ出ていて……あ、見覚えがある。


「もしかしてライトブリンガーさんですか?」

「……これを」


 急に名刺を貰った。久城霧夜の名前。

 今は「特別警備隊ソレイジャー」所属だそうだ。


「今はソレイユシルバーです」

「分かりました。……ああ、私は夜見ライナ。魔法少女プリティコスモスです」

「把握しております。ここは我々にお任せください」

「お願いします」


 いつの間に魔法少女から警備隊に戻ったんだ、などの疑問はあるが……

 ライブリさん、じゃなくてソレイユシルバーがいるなら大丈夫だ。

 仕事の邪魔にならないよう、赤城先輩とともに駅前から逃げる。


「敬語になっただけで印象が変わるなあ」

「なんの話ー?」

「いえいえ、赤城先輩は気にしなくても大丈夫です。どこに行きますか?」

「デミグラッセー……」

「了解です。強化(ストレンジ)


 先輩がなんだかもうダメそうなので抱き抱え、デミグラッセまで走った。

 中に入ると、赤城先輩が予約していたようだ。

 すぐに案内してもらえる。

 しかし先輩は席につくなりソファに寝そべってしまった。


「もうむりーつらいー」

「大丈夫ですか?」

「朝ご飯まだなの」

「あ、代わりに注文します」


 日替わりランチ(ドリンク&スープバー付き)を注文しておく。

 空腹のまま待つのもキツイだろうと思い、ドリンクサーバーエリアでコーヒーカップにコーンスープを注ぎ、先輩の元まで持ってきてあげた。

 先輩はズズズ、と飲む。


「野菜スープがいい」

「持ってきます」


 再びサーバーエリアに行き、野菜スープを用意してあげる。

 今度はコクコク、と早めに飲み、ぷはーと満足そうに一息ついた。


「このぬるさがいいよね」

「すみません、気が効きませんでした」

「いいのいいの。用意してくれるだけで優しいって分かるもん」

「ど、どもです」

「……」


 話が続かない。

 赤城先輩が空腹でフラフラしているのもあるし、緊張して話題が浮かばない。

 駅の外で起こっているデモについては、空気が悪くなるかも。

 いや、下手に話すよりも静かにしていたほうが相手が疲れないかな。


「おまたせしました。日替わりランチになります」

「!」


 ちょうどいいタイミングで店員さんが料理を持ってきてくれた。

 今日はハンバーグとエビフライ定食らしい。

 しまった、朝から胃に重いモノを頼んでしまった。

 恐る恐る赤城先輩を見ると、いつものマスクを外し、気にせずにもぐもぐ食べてくれる。


「たまにはガッツリ食べるのもいいよね」

「は、はい……」

「どしたの? 今日のランチメニューは当たりだよ?」

「そ、そうですか! 良かったです!」

「ふふ。食べ終わるまで待ってね」

「はいっ!」


 カチャカチャ、と食器の音が鳴り、先輩の胃に収められていく。

 マスクを外した赤城先輩はとても素敵で、所作の全てが美しく、同時に色っぽくてどうしようもなくドキドキさせられる。


「ごちそうさまでした」


 先輩がそう言ったのは二十分ほど経った頃だった。

 ちょっとエチケットしてくる、と席を立ち、戻ってくるまでの時間を合わせれば三十分ほどだろうか。


「ただいまー」

「あ、おかえりなさいです」

「これはお礼ね。さっきまでお腹空いて死にそうだったの」

「わあ……」


 帰ってくるなり、先輩は笑顔でシャインジュエルを渡してくれた。

 サイズ的に見ると……C等級だろうか。

 私が静かに驚いていると、ダント氏が口を開く。


「こんな貴重なものを貰っていいんですモル?」

「いいよ。紫陣営の活動方針を喋るきっかけにもなるしね」

「分かりましたモル。ありがたく頂戴しますモル」


 ダント氏は大事そうにポーチにしまった。

 すると先輩は私を見る。


「さて、夜見ちゃん」

「は、はい!」

「まずは誤解を解いておくことにするね。リズールさんを退場させたのは私の意思。理由は簡単で、日本警察の捜査網を光の国ソレイユ上層部まで伸ばすため」

「あ、それダントさんから聞きました」

「話が早くて助かります」


 手をポンと叩くと、赤城先輩は安堵したようにため息をついた。


「もう少しくわしく言うとね。リズールさんには玉座に座る権利があったから、向こうに送り込んで新女王様になってもらったの」

「あー、ちょっときな臭そうな空気がするので詳細は聞きません」

「ありがと。で、ソレイユ上層部を調べてもらった結果として出てきたのが、ワイルドハントっていう窃盗とか強盗・略奪を主とする半グレ犯罪組織の存在。どうもダークライと繋がりがあるみたい。とりあえず敵対勢力だと思ってね」

「はい」

「でさ、そいつらが梢千代市に潜伏してるっぽいんだ」

「……本質に迫ってきましたね」

「だから一緒にデート配信して欲しいんだよね」

「もちろんです」

「ご協力感謝します」


 ひとまず手を結ぶことにした。握手する。

 終わると、先輩はパンと手を叩いて空気を変えた。


「これが一つ目の依頼」

「一つ目」

「そ。話を戻して紫陣営の活動方針ね」

「あ、はい」

「長い長い成立経緯はありますがめんどいので省きまして、紫陣営「バイオレットサファイア」は、光の国ソレイユから聖獣に支給される活動資金以外はソレイユの支援を受けつけない陣営です」

「そうなんですか!?」

「自由の代償なのでそうです。なので活動資金は基本的に自給自足が求められます」

「わあ……」


 ソロ活動のための陣営とは聞いていたが、ここまでストイックだとは。

 もう少し情報を集めるか。


「ちなみに活動資金ってなんでしょう?」

「あー、そっからか。現代社会で行動する聖獣くんにはね、給料としてソレイユから毎月五百億相当の物品が支給されることになっています」

「多いですねー」

「と思うでしょ? エモ力に換算すると500エモだよ」

「な、なんて少ない」


 C等級のシャインジュエルで言えばたったの五個。

 なんという心もとなさだ。


「で、これも大事な話。魔法少女の給料はそこから支払われます」

「ダントさんそうなんですか!?」

「その通りモル」

「わあ、そうだったんだ」

「……はい、赤城先生の話を続けます。聖ソレイユ女学院の役職手当も同じようにそこから支払われています。通常役員は十億前後で済むけど、書紀、副会長、会長職はインフレ極まってて、中等部副会長の役職報酬は五百億となっています」

「うわあ、つまり」

「今のままだと、ダントくんに支払われている給料の総額――500エモを、夜見ちゃんが給料としてまるっぽ貰っちゃうことになります。時給を合わせると足りません」

「うわぁ……」


 私は頭を抱えた。

 普通の出世をしたがらないくせをして、変に出世を焦ったあまりに、とんでもないやらかし案件を起こしていた。ダント氏をテーブルに置き、土下座を決める。


「本当にすみませんダントさん」

「モ、モル?」

「いやいや、夜見ちゃんは悪くないよ。問題は紫陣営と役職の相性が悪いってだけ」

「うう、解決策はありますか?」

「移籍はどう?」

「高給で雇ってくれるところがあるなら……」

「肯定と見るね。ちょうどいい調査依頼があるんだ。報酬は前払いで五百億」

「成功報酬は?」

「毎月の役員報酬を依頼主が保証します」

「どんな依頼ですか?」

「赤陣営の内情調査。緑陣営のリーダー代理ちゃんから頼まれたんだけど、夜見ちゃん指定の依頼だったんだよね。これが二つ目の依頼だけど、受ける?」

「リーダー代理さんのお名前は」

「ヒスイって子です」

「なら受けます」

「ありがとうございます」

「がんばろ。はあ」

「はい隙あり」


 心を完全に仕事モードに切り替えようとすると、赤城先輩が懐から黒糖たっぷりのふ菓子を取り出し、私の口に突っ込んでくる。


「むも」

「夜見ちゃんのお仕事モードは強すぎるから封印。今日からは普通の中等部一年生として活動して欲しいんだ。赤陣営は争いを嫌うし、動きが早いとバレるから」


 サクサクと食べて、ゴクンと飲み込む。


「いやむずかしいですよ」

「だと思ってふ菓子に記憶を消す魔法を盛りました」

「!? ケホケホッ」

「嘘でーす」

「もー!」

「あははは、痛たた」


 怒っても反省しないので、ぺちぺちと相手の身体を叩く。

 この調子だとデート配信はもっと大変そうだ。

 ともかく配信準備や依頼主との会話はあとに回し、先輩とおしゃべりを楽しむ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あとがーきいもー がきいもー 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ