第157話 シャインジュエル争奪戦・第一期中間報告
同日深夜。
高等部校舎の生徒会室にて、1000エモ以上の中等部一年生を個人レッスンするために選ばれた七名の高等部生が集まる。
高等部生徒会長の金髪美人――屋形恵美子と、副会長の空渠陽子、赤陣営のリーダーであるハムスター先輩「朱ノ宮可憐」、緑陣営トップの青メッシュ先輩こと「枝間緑」、紺陣営の代表者枠として中等部生徒会会長の屋形光子とトップスリーの隅田智子、そして紫陣営リーダーの赤城恵。
揃いに揃って、チョコフォンデュソースがぐつぐつ沸き立つ大鍋を囲んでいた。
まずは口慣らしとばかりに、会長が小さな塩昆布を口に入れる。
「ひとまず夜見くんには才能限界がないということが分かったわけだが」
「会長、逆です。無限に引き出しがあると言ったほうが正しいです」
「む、そうか副会長。流石は歴代最高値の少女だ」
他のメンツは基本的に静かだ。
気分を害してはいけないというより、口を開くと他陣営と喧嘩をしてしまうので自ら黙っている。争奪戦が生み出した恨み節は履いて捨てても消えないほどに多い。
しかし性格上、そういった些末なことに興味がなく、純粋に魔法少女を楽しめているトップスリーの墨田智子だけは本題を切り出せた。
「御託はいい。話がある屋形」
「どうした墨田くん」
「夜見ライナは私の親友になった。まだ練度不足だと言うのなら、物語の悪魔テラーを呼び出して一からやり直すしかないぞ」
「……やはりそうなるか」
会長は皿に置かれたマシュマロを竹串で刺し、チョコをたっぷりとディップして頬張った。
全生徒の模範であるべき高等部生徒会長らしからぬ可愛い笑みが溢れる。
実はこの生徒会長の屋形恵美子という少女、大の甘党である。
「あまぁい」
「会長、お口をお拭きします」
「ももむ」
副会長が彼女の口元をハンカチで吹くと、普段の凛々しい顔に戻る。
強さもさることながら、このギャップで会長職まで上り詰めたと言っていい。
「さて。私の意見は棚に上げて、だ」
会長は自身の意向を無視し、副会長や各陣営のリーダーを見た。
赤陣営から順に発言していく。
「わたくしは特に何も。掘り下げられませんでしたし」
「朱ノ宮はそうだな。緑はどうだ」
「責任を取って停学食らったのが痛手なのだ」
「私情で迷惑をかけた。デートで償おう。光子、何かあるか?」
「悪役扱いされてムカついたからとはいえ、全員に催眠かけて物語を引っ掻き回したのは悪いとは思うけどねえ。今日まで自己紹介しないのはダメだろ姉さん」
「説明不足だったのも悪いな。赤城?」
「会長がデートしてくれなかった」
「それは浮気になるからダメだと……はあ、副会長」
「シャインジュエル争奪戦の話になりますが、設定や登場人物が多すぎて渋滞しています。一旦整理して脚本を書き直すべきです」
「分かった。総評は?」
「「「Fランク」」」
総評が出た。今年は出だしから失敗だと。
会長はため息をつく。
「やはり、書き直すべきか?」
「作者は面白いと思ってるよ会長」
「創始者リズール氏はそうおっしゃられるだろうが、我々にはファンが居る。彼らが楽しめるストーリー展開にする義務があるんだ。再考しなければ」
「屋形。そう思うなら、一つ案がある」
そこでトップスリーの墨田智子が挙手をする。
会長は驚いて目を開いた。
「何か打つ手があるのか?」
「聖ソレイユ女学院はあまりにも魔法少女の数が多い。中等部一年と先生組だけ残して、他は現場――梢千代市の外に遠征するべきだ」
「するとどうなる?」
「話が動く。まず前提をおさらいするが、支援者に求められているのは現場に出て怪人を倒すことだ。親友に教えようとしている「エモーショナルクラフトを活用した災害対応訓練」はたしかに必要だが、まだ早い。やるべきではない」
「どうしてそう思う?」
「親友の力でも太刀打ちできない絶体絶命のピンチに、そういった解決法を引っ提げて駆けつけるトップスリーの私。あまりにも頼もしい背中だと思わないか?」
「……どうやら私は思考が凝り固まっていたらしい」
生徒会長は自分の額を覆った。
後輩を育てるための安全な場所と教育環境を守ればいいと思っていたが、違う。
経験豊富な自分たちだからこそ出来ることを言葉で伝え、さらに現場で目の当たりさせるべきだった。
「当事者でなければ、職務に対しての責任感は育めない。当然か」
「姉さんもしかして現場入りの年齢を繰り上げるのかい?」
「ああ。研修制度を校則で義務付けることにしよう。1000エモ以上を記録した生徒には現役である高等部の魔法少女を担任に付けて指導。実戦級である3000エモへの成長をうながすため、担任役の高等部生徒とともに現場での研修を行う。どうだ?」
「「「異論無し」」」
「決まりだな」
新校則として「現場研修制度」が定められ、書紀である緑陣営のリーダーこと枝間緑の手によって全て議事録に記載された。
母方の家系が様々な日本文化の家元なだけに能筆だ。
すると紫の魔法陣が現れ、今回の議事録を自動でコピーしていく。
生徒会長はこれがあまり好みではない。
「いまだ支配者気取りか、父とやらは」
「今更でしょ」
「……そうだな。みんな夜分ご苦労だった。各自自由にしてくれ」
わっ、とそれぞれが持ち寄ったお菓子やフルーツを竹串に刺し、チョコソースにディップして食べだす。
喧嘩しがちとはいえ、会話し、同じ卓を囲む程度には認めているのだ。
生徒会長や副会長は「普段からそうしてくれ」と思いつつ、ストレス解消のために甘いチョコフォンデュをたっぷり堪能した。




